第65話 眩い才能

 翌日、ルミエから聞いていた通り、Aクラス・クラスゼロ一行は学院にとんぼ返りすることとなった。

 思わぬアクシデントを受けて、生徒達が疲弊していること。そして、本来学外実習で目的としていた生徒間の連携強化といった目的が、奇しくも魔獣の襲撃への対処という形で果たされたというのも大きいだろう。


 ちなみに、今回の一件で数名生徒が重症、そして死亡したという。

 ミザライア王立学院は前世の学校のような手厚いサポートを期待できる場所ではない。貴族が多いとはいえ、魔獣と戦う力を養うという側面を持っている以上命の危険が付きまとう場面には常に見舞われる。

 だから、入学に際し、いかなる理由で怪我、または死に至ったとしても学院側は責任を取らないという旨が記された誓約書にサインさせられているとか。

 多分俺も書いてる。ポシェ先輩に急かされていたのでちゃんと確認していないけれど。


 そういうわけで俺が止めを刺した、ナントカ君のことも大して問題にならないらしい。これには隠蔽にリスタ先生が協力してくれたからというのも大きいが。


 というわけで、そんな帰り道。


「ふあぁ……」

「デカい欠伸だな、レオン」

「あぁ、俺はサボってたお前らとは違って昨日随分働かされたからなぁ。おかげで護衛騎士の連中に懐かれて日が昇るまで宴会に付き合わされちまったんだよ」


 うわぁ、嫌味っぽ。

 しかし、レオンは明らかに眠そうにしつつも、行き同様容赦なく押し寄せてくる魔獣の群れ相手をガンガンぶっ飛ばしていっている。


 その一番の要因は武器の変化。

 昨日までの訓練用武器とは違い、レオンの手に付けられているのは深紅に輝く籠手だった。珍しい装飾のついたそれは、おそらく彼のメインウェポンであり、俺とのタイマンで見せた魔法で作った籠手よりも有用そうに思える。

 それを魔力消費という制限なく扱えるというのだから恐ろしい。


「チッ、偉そうに分析してんじゃねぇぞ」

「は?」

「テメェもあの勝負で本気出してなかったってことだろうがよ。その剣……いや、刀か。それがテメェの本性だったってわけだ」


 本性とは大げさな。

 ただ、アギトを手に入れた俺にとって、この道で襲い掛かってくる魔獣たちは正直殆ど脅威にはならない。

 こうしてレオンと会話しつつも、全く問題無く対処できる程度には。ただ、それはレオンも同じだ。

 この程度の魔獣相手では、俺達の力量の差はとても測れそうにないな。


「だったら……」

「あぁ、ここいらでこの間の決着を――」

「ちょっと二人とも! 喧嘩は駄目ですよっ!」


 魔獣そっちのけで決闘を始めようとする俺達に、お叱りの言葉が降り注ぐ。

 それと同時に、周囲の魔獣たちが鋭い光のビームに撃ち抜かれ消滅した。


 馬車の内の一つ、その屋根に立つセレイン=バルティモアによって。


「ふふふん、どうですかジル。見直したでしょう」

「見直すも何も……」


 俺は彼女の評価を一度だって落としたことはない。むしろ出会ってから天井知らずにどんどん跳ね上がっていっている。当然、今この瞬間も。

 魔獣たちに相対して、一番成果を上げているのは間違いなくセラだろう。


 無際限に放たれる強烈な魔法、俺達の刀や籠手より明らかに広い射程、発動までのスピード――全てにおいてこの場に適している。


「凄いよ、セラ」

「ふふふん! そうでしょうそうでしょう!」

「本当に何者だよ……あのお姫様はよォ……」

「お姫様だろ。我が国の第三王女」


 褒められてテンションが上がったのか、またも魔法を乱発するセラ。

 麻痺毒はすっかり抜けたようで絶好調そのものだ。


 ちなみにAクラスの他の生徒達は昨日の疲れがばっちり残っているようで、馬車の中でぐったりとお休み中。ついでに護衛騎士達も同様だ……お前らは働けよ。

 ルミエとエリックは俺達とは逆サイドで同じように魔獣を倒している。その姿は見えないが、おそらく全く問題無いのだろう。

 今、セラが馬車の上で大暴れしてても、その馬車が静かなのはエリックが防音魔法を付与しているからだというし……あいつもまだ未知数なところが多いよなぁ。


「なぁ、レオン」

「アァ?」

「Aクラスの連中、どうだった?」


 昨日、レオン達は宿場町でAクラスの生徒達と共に魔獣襲撃の対応をしていたはず。彼らの戦いっぷりも一番近くで見ていただろう。


「ま……大したもんだったぜ。俺に比べりゃ全然だが」

「へぇ?」

「担任のヒゲが来るまでは本当に役立たずだったけどよぉ。ヒゲの指揮が付いてからはまぁまぁ役には立った。Aクラスってだけあって、素質はそれなりみてぇだな」


 ヒゲ……リガール=ギントか。

 今はリスタ先生と共に先行して学院に戻っている筈。本来ならこの馬車の護衛に立つべきだと思うが、何か思惑があるのかもしれない。


「まぁ、でも……アレを見せられるとな」


 うんざりした様子で、レオンは馬車の上、セラを見上げた。


 確かに、彼女と比べればどんなに優れた学生も霞んでしまうだろう。

 それこそ、俺やレオンだってそのチートっぷりには及ばないかもしれない。


 いや、けれど俺だって最強と呼ばれるだけのポテンシャル、才能は秘めているはず。力だって、ぐんぐんついていっている自覚はあるし……


「よし、残りの魔獣は全部俺がぶっ倒す!」

「あ、ジルてめぇ! それはこっちの台詞だッ!!」


 少しネガティブな方向に流れそうになった思考を強制的に戻し、俺は魔獣たちへと駆け出した。そしてそれはレオンも同様で、俺達はセラの魔法が着弾する前に魔獣たちを撃破していく。


「むぅ……!!」


 そのおかげでセラが少々へそを曲げてしまったのだけれど、それはまぁ、別の話だ。

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