第51話 官軍なる賊徒
「
俺は呆れながら黄と馬を並べていた。
ここは前線も前線、南門から侵入し、西都物流商事本社へ最初に辿り着く先鋒部隊だ。
「これが最後の戦いだ、私が兵士達を鼓舞すべきかと思ってな」
「とか言いながら、先陣を切る気満々じゃねーか……」
黄が手にしているのは例の
「
「なんだ?
「先鋒には主力を集めろと仰せになったのは吠様です」
「だから黄も来たって言いたいのか?」
溜息が出るばかりだ。
先鋒部隊に集まったのは、俺と黄、
いや、主力とは言ったが全主力とは言っていない。
「はぁ……、先鋒部隊のみ西都物流商事本社に突入、他は本社周辺の敵の掃討だ」
「掃討任務でしたら、指揮は下士官級のみで大丈夫でしょう。それくらいには鍛えてやりましたから」
「主に、シロがな」
「ガハハ!痛いとこを突かないで下され、吠様!私も育てられた1人に違いありませんがな!」
寅が豪快に笑う。
その声を聴きながら頭を抱えていると、俺はある事に気が付いた。
「元老会の爺様達はどうした?」
元老会のメンバーが1人もいないのだ。
上将軍から出された条件を飲む事、そして蒼狼の本丸へ攻め入るのが今日である事は既に伝えている筈だが。
「吠、我らの側についていた元老会は、中央軍に自首した」
「……、はぁ?」
「彼らの私兵は共に戦う。しかし、戦闘に参加できない自分達は自首すると、
「どういう事だ……」
「九龍会はなくなる。それは蒼狼が会長になった時点で予想していたらしい。しかし、既に皆ご老体、戦闘に参加できない事を悔やまれていた」
「待ってくれ、自首って……」
「今ならば司法取引で命までは取られないだろう、それに魔王軍残存部隊を引き入れたのが蒼狼の独断だ。お歴々の罪ではない」
破殿はこれを予測していたのだろうか。
そんな事より、今まで破殿を疑っていた自分が恥ずかしくなった。
何か裏があると思っていたが、その実、俺と黄に全てを引き継がせ、自分達は牢に入るつもりだったとは……。
「それと、お歴々からの伝言だ。『必ず蒼狼を倒し、九龍会の名を取り戻せ』だそうだ」
「ったく、自由な老人達だな……。警戒してたのが馬鹿みたいだ……」
「破殿からは、『警戒し過ぎだ。そんな気はさらさらない』だと」
「はぁ……」
破殿を最大レベルで警戒していた。
監視も最低で3人、多い時は8人付けていた。
それが全て無駄だった訳だ。
「最後の最後に拍子抜けだな……」
「とは言っても、あの状況下で破様から『何もする気はないから監視を外せ』なんて言われても信用出来ませんでしたし……」
「あの御方からそう言われたら、逆に警戒するぞ」
「全く持ってその通りだ」
俺と黄と豹の3人の笑い声が空に響く。
「って事は、もう何も心配する事はないな」
「あぁ、あとは奴の首を落とすだけだ」
「そろそろ始めるか」
「総員、傾注!!」
俺が声を張り上げると、兵士達は直立不動のままこちらに視線を向ける。
「これが最後の戦いとなる。今まで付いて来てくれた事、感謝する」
そう言って黄が深々と頭を下げた。
それを見た兵士達がざわめく。
それもそうだ、自分達の上に君臨していたトップ自らが頭を下げたのだ。
これは動揺を呼ぶ。
「だが、まだ終わってはいない!」
そう言って頭を上げた黄の顔は、既に陣営のトップの顔ではなく、猛将のそれだった。
「未だに蒼狼は息をしている!私はそれが許せない!奴が死ぬまで、私は止まらない!奴の吠え面が見たい奴はついて来い!それだけだ!」
兵士達が拳を突き上げ、雄叫びを上げる。
端的な言葉でここまで士気を上げるのは流石と言える。
とは言っても、力み過ぎだ。
これでは初っ端に燃え尽きてしまう。
「気合が入ってるのは結構だが、こんな所で死んだら俺が許さんぞ。お前等の再就職先は俺がちゃーんと用意してんだ。断りもなく勝手に別の場所に就職する奴は、俺が連れ戻して土下座させるから覚悟しとけ!」
笑いが起きる。
これで心配はないだろう。
この一戦でどれだけの者が死ぬか分からない。
それは兵士達だけでなく、俺や黄、豹や寅も例外ではない。
しかし、やるしかないのだ。
「喜べ!ケツ持ちは中央軍がやってくれる!ヤクザの癖に官軍として戦えるなんざ、前代未聞、空前絶後だ!派手に暴れてやれ!!」
雄叫びとも鬨の声とも分からない轟音が空に響く。
聞こえてるか、蒼狼。
今から殺しに行くぞ。
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