第40話 古の怪物

投石機アクセラレータを起動させろ!」


 城門へ走り込んだ西方司令部所属の兵士が叫んだ。

 それを聞いて、城門の上に待機していた兵士達が慌ただしく動き始める。


「水門を開けろ!」


 城壁に併設された水車小屋近くの水門がゆっくり開く。

 大量の水が、涸れ果てていた水路へと流れ込む。


「水車を解放しろ!」


 宙吊りになっていた大きな水車がゆっくりと流れの中に入る。

 ギシギシと軋む音を響かせた後、水車が回転を始める。


歯車ギア開放!」


 回転を始めた水車の軸に取り付けられた歯車に、装置へ連結させるための歯車を連結させた。

 城門全体が軋む様な音する。


「おい、これ大丈夫か!?」

「城壁ぶっ壊れないか!?」


 兵士達の心配を他所に、各箇所の歯車の回転が安定し始める。

 それと同時に、石を弾き出す為の円盤部分が唸りを上げて、恐ろしいほどの高速回転を開始した。


「これが……、投石機……」

「今は作戦行動中だ!気合を入れろ!」

「はっ!」

「目標は、眼前に群がる反乱軍だ!何を考えてか知らんが、この町を襲撃している!石を準備をしろ!」

「はっ!」


 この町に設置されている投石機は、西都に設置されたものとほぼ同じ。

 違いは石が発射される射出口の数だけだ。

 西都の城門が大きい為、全部で15の射出口があるが、この町は5つ。

 とはいえ、威力に関しては全く同じだ。


「投石用意!」


 5人の兵士が、大人の頭部くらいの大きさの石を持ち上げる。

 細かな凹凸はあれど、どの石も綺麗な真球に近い形状に整形さている。


「隊長、この投石機が実際に動く所を初めて見たのですが、どれ程の威力なのでしょうか……?」

「私も見るのは初めてだ。実際にこの手の投石機が使用されたのは100年以上昔なのだ。お前はおろか、私すら生まれていない」

「そんな……」

「しかし、支部長連中はこれだけで敵を撃滅出来ると信じているらしい。やるしかない」

「……」

「投石、初め!」


 隊長の号令と同時に、兵士達が石をレールの上に乗せる。

 射出口に向かって緩やかな下り坂になっているレールに沿って、石が転がる。

 高速回転する円盤に石が触れた瞬間、その石は消えた。


「どうだ!?」


 小さな射出口から外を覗き見る。

 辛うじて、小さな血飛沫が3つ程見えた。



「警戒しろ!」


 城門へ殺到している黄側の兵士達は、地鳴りのような音を出す城壁全体に言い知れぬ恐怖を感じた。


「初手から使ってくる気か!兵士達に伝達!城門へへばりつくか、後退しろ!」

フェイ様、間に合いません……」


 豹のその言葉の数分後、兵士達の叫び声が聞こえた。


「クソ!」


 射出口から発射された石は、高速で兵士達の隊列へ襲い掛かり、頭部を、腕を、胸を、腹を、脚を、貫通し、石畳の地面へめり込んだ。

 自らの身に何が起こったのかを理解する間もなかった。

 隊列は乱れ、混乱が隅々にまで伝播してゆく。

 最悪だ。

 そう簡単に動かせないと思っていた投石機を初手で使って来るとは。

 予想が甘かった。


「兵を投石機の射程から遠ざけろ!」

「しかし、それでは攻められません!」

「アレが止まるまで待つしかない!」

「そんな悠長な!?潜入している蛇を使って、どうにか止めさせます!」

「辞めろ、豹!そんな事をすれば、潜入した蛇全員を失うぞ!」

「しかし!兵士を失うよりマシです!これ以上の兵力差は、我が方には致命的になります!」


 豹の言う事も分かる。

 城門にへばりついた兵士は、城門の真上、天井に設けられた穴から矢を受けている。

 城門の前にいた兵士達も、どうにか投石機の範囲外に大半を逃がした。

 それでも被害は100や200ではないだろう。

 恐ろしい威力だ。

 頭部程の大きさの石が、高速で人の身体を貫通する。

 しかも、石の大きさは一定だが、それぞれが異なる凹凸をしている為、1つとして同じ軌道で飛ばない。

 それによって、城門に殺到する兵士全体に満遍なく石が飛来するのだ。

 これを考えた奴は神か、悪魔か……。


「今の所は耐えるしかない。被害報告は?」

「正確な数は分かりませんが、歩兵の500近くはやられました。騎兵は無傷です」

「投石機を稼働させる速さが尋常じゃない。タイパンの言う通り、がいるんだ」

「ならばすぐにでも攻め入る必要が!」

「なぁに、すぐに門は開くさ」


 俺は確信していた。

 だからこそ、

 被害が大きかったのはそのせいもあるが、これは必要なのだ。

 とにかく、俺はの早い到着を祈っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る