第7話 商人の性
私は、商売が好きだ。
と言うか、愛している。
努力すればするほど、結果に出る。
結果が出ない時は、何かしらの改善点がある時だ。
それを考える事すら楽しい。
何だかんだで、フィロー商会にはもう10年以上所属している。
幼い時、口減らしも兼ねてフィロー商会へ奉公に出された。
エリアマネージャーの鞄持ちから始まり、最初の頃は商売とは全く関係のない掃除やお茶汲みばかりやらされた。
そんな中でも、他の職員達がやっている仕事を垣間見れる。
仕入れ、運送、商談から、商品開発。
見ているだけでも楽しかった。
15歳を迎え、奉公明けから本格的に私はフィロー商会で働き始めた。
やっと商売に関われる。
やる気に満ち溢れていた私へ最初に与えられた仕事は、3つの村への物資輸送。
今考えれば地味な仕事だが、当時の私にとっては大仕事に思えた。
月に2回程度の頻度で村を回り、商品を売買するというものだ。
村人が欲するものを準備し、それを売り、代わりに村の農産物などを買い取る。
難しい事は何もない。
事前に、次回の来訪時に欲しいものを聞き、それを持って行くだけの事だ。
しかし、私はそれだけにとどまらなかった。
村人の要望にないものも積み込んだのだ。
最新の農具や娯楽品、珍しい嗜好品の類だ。
村人の手持ちでは買えない代物を多く積み込んだ。
結果から言えば、大成功だった。
先輩には辞めろと言われたが、それを2回3回と続けていると、数人で金を出し合って買う者達が現れた。
そうなれば、あとは簡単に伝播する。
人と言うのは、一度味わった快楽は決して忘れる事が出来ない。
買い求める者は増えていった。
そして、収入を増やすために村人は畑を新たに開墾し、収量を増やした。
あれよあれよと村は大きくなり、10年足らずの今では町になっている。
私はその功績で、出世コースに乗ったのだった。
おっと、私の話はこれくらいに。
私はピュート、フィロー商会に勤める善良な商人です。
「ピュートマネージャー、お帰りなさい。どうでした、王都は?」
「どうもこうも、上将軍閣下は食えない御仁だよ」
「僕も会ってみたいです、上将軍閣下に!」
「簡単に会える人ではないよ。それにルヒャー、君の様な純朴な子は、あんな大人に会うべきじゃない」
「あんな大人?」
ルヒャーはフィロー商会で奉公をしている
今は私の鞄持ちをしている。
素直で純朴、正にいい子なのだが、商人にはあまり向いていない。
どちらかと言うと、私の様な現場担当よりも、事務方が性に合うと思う。
それに、上将軍の様なひねてる大人に会わせるなど、教育上よくないに決まっている。
「それはそうと、閣下から仕事を頂いたぞ」
「どんなお仕事ですか!?」
「地味な仕事だよ。まずは西部での我々の販路拡大を念頭に、西都物流商事のシェアを奪っていくぞ!」
「はい!」
とは言っても、どうやって切り取るか……。
先5年に渡って免税してくれると言うのだから、多少は価格を抑えられる。
しかし、相手はヤクザだ。
鞍替えした企業や商店が報復の対象になりかねない。
それを防ぐ手立てなど、我々にはない……。
「……、ルヒャー、問題だ」
「はい?」
「我々には出来ない事をやらなければならない時、君ならどうする?」
「出来ない事を出来るように努力します!」
「……、うん、君は優等生だ。普通の学校なら級長が出来るくらいに真面目で素直だ」
「ありがとうございます!」
「褒めてないぞ、ルヒャー」
「え?」
「商人ってのは、手を抜く事を第一に考えなくてはならない。覚えておけ、出来ない事をやる必要はない。餅は餅屋ってな」
「はい……?」
「護衛が必要なら護衛を雇う。職人が必要なら職人を雇う。その費用は価格に乗せる。基本中の基本だ」
「はぁ……」
「護衛が必要だからって、今から剣を取って鍛えるのか、君は?時間の無駄だ。そんな時間があるなら、行商にでも出た方が賢い」
「なる……、ほど……?」
「あまりピンと来てないみたいだね。まぁ、私のやる事を見てればその内嫌でも分かってくるさ」
さて、ルヒャーへの講義はこれくらいにして、私は上将軍へ手紙を書く事にした。
内容は、西部でのフィロー商会のシェア拡大に伴い、新たに顧客となった西部の企業や商店に対する九龍会からの報復を防いで欲しいと言うモノ。
協力してもらえるなら、軍への供給物資の価格をもう少し下げる事まで記載しておかないと。
私は西部へどうやって食い込むか、ワクワクしながら考えていた。
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