第63話 隠し子なんかじゃない
「今度は未成年者略取ですか……?」
ギルドの登録用カウンターに座った女の
コイツは毎回一言多い。
スゥと俺の顔を交互に見て、怪しむ様な視線を送って来る。
「違ぇーよ。こいつを冒険者として登録して欲しい」
「その子を……?失礼ですが、年齢は?」
「15歳だよ!多分」
「多分……?」
「コイツは
「……、はぁ、ガルさん……、めんどくさい事を持ち込まないで下さいよ……」
あからさまに嫌な顔をされた。
まぁ、それは仕方がない。
冒険者の登録は
ただ、この世界での成人は人間年齢で18歳。
18歳未満で冒険者に登録する場合は保護者の許可が必要になる。
しかし貧民窟出身の場合、その多くは保護者がいない。
それ以前に、王国民としての戸籍が存在しない。
なのでスゥの場合、まずは王国民としての戸籍を取り、その上で後見人を定めた上で、その後見人の許可を書面で証明し、初めてギルドに冒険者登録が出来るのだ。
その一連の手続きも、早くて1週間は掛かる。
ギルドに申請すれば、一連の手続きを一括して頼めるのだが、それを面倒臭がっているのだ、この受付嬢は。
いやいや、仕事しろよ。
「それもお前らの仕事じゃねーか。文句言わずにやれよ」
「はいはいはいはい、分かりましたよー。で、お名前は?」
「スゥだよ!」
「それはあだ名なの?それとも本名?」
「えーっと、オジサンは僕の事を『スチュワート』って呼んでた!」
「じゃあ、本名はスチュワートね」
「うん!」
「後見人はガルさんでいいんですか?」
「あぁ、頼む」
「戸籍取得には5日程掛かると思いますので、それが完了次第、冒険者登録に移行します。先に同意書へのサインをお願いします」
初めは文句を言っていたが、手際よく事務処理を進める受付。
仕事は出来るがやる気がないだけだな。
まぁ、登録業務は他に比べてやる事が少ない。
実際、発注・受注・登録で担当が分かれている訳ではない。
受付嬢はどの受付も出来なくてはならないのだ。
「はい、これで今の所必要な書類は全部そろいました。戸籍登録が完了したらガルさんに連絡します」
「おう、頼んだぞー」
「ありがと、お姉さん!」
「いいえー」
俺達はカウンターを離れた。
「あれが依頼?」
スゥが
「そうだ。あの中から依頼を選んで受注する。まぁ、カウンターで受付嬢に見繕ってもらう事も出来るぞ」
「ふ~ん」
「ガル!」
振り返ると
正直、めんどくさい。
「なんだ、ロブか……」
「なんだとは何だよ!てか、お前、子供がいたのか!?」
ロブの声がフロア全体に響き渡る。
ほら、めんどくさい。
フロアにいる冒険者やギルドの事務員全員の視線が俺に集中する。
それと同時にざわつきだした。
これは完全に、スゥが俺の隠し子だとされているだろう。
「違う!コイツは身寄りがなくて俺が保護したんだよ!」
「ホントかー?」
「どう見てもコイツは圃矮人だろうが……」
「確かに……。いつ圃矮人と付き合ったんだ……?」
「お前、ホントめんどくせー……」
俺はスゥを連れてギルドから帰る事にした。
「何だよ!ちょっとした冗談だろ!?」
「俺とお前は冗談を言い合う様な仲じゃないし、俺はお前が嫌いだ」
「な!?同期だろ!」
「同期だから仲良くしろ、なんて決まりはない。じゃあな」
ただでさえ面倒事の真っ只中なのだ。
ロブに付き合ってやる義理はない。
「あの人誰?」
スゥが俺の顔を見上げてくる。
「あぁ、アイツはただの馬鹿だ。気にしなくていい」
「ふ~ん」
そんな事より、今日はもう一つ用事あるのだった。
俺はスゥを連れて、ある場所に向かった。
†
「2人とも、こっちー!」
エルウィンが手を振っていた。
先に到着していたようだ。
例によって、グローは来ていない。
今から何をするのかと言うと。
「じゃあ、内見に行こう!」
との事だ。
どうも、4人で一緒に住むのは本気だったらしい。
グローは近くに飲み屋があればそれで文句はないらしいので、内見は俺とエルウィンとスゥの3人で行く事になったのだ。
「スゥはどんな家がいい?」
「うーん、分かんない……」
「とにかく見てみましょう!気に入ったなら言ってね」
「うん!」
歩いていると見知った顔が手を振っていた。
「皆さ~ん!」
「なんでピュートがいるんだ?」
フィロー商会のピュートだ。
「物件の内見ですよね?」
「まさか、フィロー商会って不動産も扱ってんのか?」
「そのまさかです!私が案内しますね!」
フィロー商会、恐るべし。
何か店を始めるなら、フィロー商会に相談すれば店舗も含めて全ての用意が数日で出来るのだろう。
どれだけ幅広く商売をしているんだ……。
「この人誰?」
「あ?あぁ、コイツはピュート。お前と同じ圃矮人で、商人だ」
「初めまして、ピュートです。お見知りおきを」
「僕はスゥ!よろしくね!」
同じ圃矮人とあってか、ピュートに対しては警戒をしていないようだ。
顔見知りになっておくのも損ではない筈だ。
「では、早速ですが物件の方をご案内します」
書類の束を持ったピュートの後ろを俺達3人が付いていく。
「なんだか、ご家族のようですね」
楽しそうなピュートのその言葉に、少なからず俺は傷付いた。
「誰が家族だって……?」
「いいじゃない。傍から見たらそうとしか見えないわ。子連れの夫婦が新居の内見、かしら?」
ウキウキとした声のエルウィン。
俺はますますうんざりと頭を抱えた。
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