第60話 まるで尋問じゃないか

「例の村の処遇が決まりました」


 俺とグロー、エルウィンの3人がサリィンに呼び出されたのは、あれから3日後の事だった。

 村で魔術師ストライゴンの5人のガキを匿っていたのは村長むらおさを中心とした12人。

 幼い子供だったから匿った様だ。

 その他の村人は全くその事を知らず、全く関わっていないらしい。


「で、あの村はどうなるのだ?」

「まず今回の件に関して、主導したのは村長である事から、村長は極刑。その他、主に魔術師達と接触し、食事等の世話をしたとされる5名は国外追放。残りの6名は魔王軍への加担という事で私財没収という形になりました」

「極刑……、斬首か」

「はい。執行は5日後に東都で行われます」


 やはり死刑が1人出たか。

 とはいっても、比較的寛大な処遇だと思った。

 通常、魔王軍への加担は、その関与の大小に関わらず極刑だ。

 しかし今回の場合、死者がなかった事、魔術師達が幼かった事などで刑が軽くなったらしい。


「例の如く、公開処刑になるのか?」

「いえ、今回は非公開です。村全体で関与していた訳ではないという点から、非公開となったようです。ですので、皆さんも他言無用でお願いします」


 公開処刑にすれば、村が特定される。

 そうなると、無関係な村人が襲撃を受ける可能性があるからだ。

 いわゆる、風評被害という奴だ。

 しばらくの間、村の運営は東都から派遣される役人が担当する事も決まっている様だ。

 とりあえず、今回の件はこれで全て終わりだろう。


「今回もお疲れ様でした。報奨金はコフィーヌに準備させていますので、後ほどお受け取り下さい」

「うむ、ただの盗賊討伐と思ったら、またもや魔王軍関係とはのぉ」

「クジ運がいいのか悪いのか……」

「我々としては非常に助かります」


 サリィンがニッコリと笑う。

 それにしても、ここ最近になって魔王軍関係が多過ぎる気がする。


「そう言えば、例の魔術師達が何やら気になる事を言っていたとお聞きしましたが……」


 サリィンが探るようにこちらを見てくる。


「あぁ、もうすぐ次の魔王が決まるの何のと言っておったのぉ」

「次の魔王……」

「だとすれば、これだけ魔王軍が活発に動いておる意味も分かるというものだの」

「最重要事項として、東方司令部に報告しておきます。その他に何か気になる事はありましたか?」


 俺達は顔を見合わせ、首を横に振った。


「いんや、他には何も」

「そうですか……。ところで、今回はグロー殿が主導しておられたようですが……」


 サリィンは書類に目を通しながら言う。

 コイツ、気付いているのかもしれない。


「そりゃ、ガルは復帰したばかりだからのぉ。下手に前に出られても足手纏いというモンだわい」


 グローがガハハと笑う。


「そうですか?ガル殿の実力でしたら、片手でも戦えたと思いますが?特に今回は幼い魔術師ですし……」


 まさか、俺が見逃そうとした事に気付いているのか?

 しかし、それは可能性としては低いだろう。

 では何に疑問を持っているのか。


「ガル殿は体調不良で先に街へ戻られたと聞きましたが、体調不良の原因は何だったんでしょうか?」

「それは……」

「エルウィン殿が魔術の素質を持っているのは、古代耳長人エルフなので仕方がありませんが、もしかしてガル殿は魔術師達の魔術に中てられたのではないかと思いまして……」


 魔術に中てられるのは、魔術の素質を持つ者だけだ。

 なるほど、サリィンは俺に魔術の素質があるのではないかと思っているのか。

 魔術の素質がある現代種族は皆無だ。

 その筈なのだが、俺にはあった。

 これが軍にバレれば研究対象になってしまう。

 要は、実験材料にされかねないという事だ

 何故こんなにも頭が回るんだ、この耳長人は……。


「サリィン」


 言い訳を考えている間に、エルウィンが口を開いた。


「何でしょう、エルウィン殿」

「貴方はガルの味方なの?それとも敵?」


 なんとも直接的な質問なのか。

 聞いている俺の方がドキリとした。


「と、言いますと……?」

「誤魔化さずに答えて。貴方は敵?」


 睨む様にサリィンを見詰めるエルウィン。

 するとサリィンは根負けしたように力なく笑った。


「何故ガル殿の周りには、こんなにも手強い方ばかり集まるのか……」

「私の質問に答えて、サリィン」

「……、私はガル殿の味方です。今回の件に関して、下手に上層部から突っ込まれたくはありません。辻褄が合うように報告書は作成しますので、何があったのか教えてもらえませんか?」


 何とも言えない沈黙。

 エルウィンはしばらくサリィンを睨み付けた後、小さく息を吐いた。


「分かった、私が説明する。けど、この話はここだけにしてよね。報告書への記載は勿論、可能なら記憶から抹消して欲しいわ」

「承知しております。記憶云々は約束出来ませんが、他言無用という事は神に誓います」


 サリィンのその言葉を聞くと、エルウィンは俺の方を見て頷き、今回の事に関してのみ説明を始めたのだった。

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