【書籍化記念Ep⑤】『自炊男子と女子高生』
『自炊男子と女子高生』。それは自炊生活を送る一人暮らしの男子大学生とそのお隣に住まう女子高生が、「ごはん」を通じて絆を深めていく物語――
「……大学生は『男子』っていうのかな?」
「え?」
一人暮らしの男子大学生改め俺・夜森夕が呟いた疑問に対し、テーブルの対面でコーヒー牛乳を飲んでいた女子高生・旭日真昼はちょこんと首を傾げた。
「いや、だって大学生っていったらもう二〇歳前後だぞ? 『男子』呼ばわりするのはちょっと無理がないか?」
「そこにツッコんじゃうんですか!? で、でもほら、大学生の女の人を『女子大生』っていうじゃないですか。それに『自炊男と女子高生』だと語呂も悪いですし」
「それもそうか……だけどさ、このタイトルだと『高校生の男女が料理する話なのかな』って期待する人もいると思うんだよ。なのにいざ開けてみれば老けた大学生が主人公だぞ? 裏切られたような気分にならないか?」
「な、なりませんよ! そもそもお兄さんは老けてませんし!?」
「見る人によるだろ。真昼はいいよ、だって正しく『女子高生』なんだから。でも俺は『お前のトシで男子を名乗るな!』と石を投げつけられてもおかしくない。なんなら『ショタとJKが料理する話じゃねえのかよ!』とブチギレる輩さえいるかもしれない」
「たぶん世間はお兄さんが思ってるほど過激じゃありませんよ……」
真昼が苦笑しながらそう言うなか、俺は「そこで」とテーブルの上に紙とペンを用意して続ける。
「今日はこれから、この作品の新しいタイトルを考えていきたいと思う」
「今から!? あ、あの、タイトルってそんな簡単に変えていいものじゃない気が……」
「『大学生と食いしんぼう少女』なんてどうだろうか?」
「聞いてます!? あとイヤですよそんなタイトル! お兄さんの問題が解決した代わりに、私が恥ずかしい感じになってるじゃないですか!」
「でもこれなら事実だけで構成されてるから、少なくとも投石される危険はないぞ?」
「元からありませんよ、そんな危険! とにかく却下です! どうせ変えるなら、もっと可愛い感じにしてください!」
「うーん……それなら『はらぺこJK』とかどうだ?」
「全然進歩してません! というか、とうとうお兄さんの要素が消えちゃいましたけど!?」
「別によくないか?」
「よくありませんよ! こ、これは私とお兄さんのお話なんですから、そこだけは絶対に譲れません!」
「なるほど。じゃあシンプルに『大学生と高校生』で」
「お料理! 今度はお料理の要素が消えちゃってます!? 『ごはん』を通じて絆を深めていく物語じゃなかったんですか!? これじゃあ性別不明の大学生と高校生が並んで立ってるだけですよ!」
「む、難しいな」
ペンをテーブルに置いてむう、と腕を組む俺。すると今度は真昼が「ちょっといいですか?」とペンを手に取る。
「別に『◯◯と◯◯』にこだわらなくてもいいと思うんですよ。 えーっと、そうですね……『優しくて格好良くて素敵な大学生のお兄さんが、アパートのお隣に住む女の子とあったかくて美味しいごはんを食べるお話です』、なんてどうでしょう?」
「いや『自炊男子』よりハードル上げてどうするんだよ。というか『ごはんを食べるお話です』じゃないんだよ。それだとあらすじみたいになっちゃうだろ。内容全部言っちゃってるし」
「あ、そっか。ちょっと濁したほうが興味を持ってもらえますよね。じゃあ『お兄さんは女子高生とアパートの一室で……』とか?」
「どこを濁してるんだよ。変なところで区切ったせいで一気に犯罪臭が漂うタイトルになってるじゃないか」
「いっそのこと、単語だけを並べるっていうのも斬新で目を引くかもしれないですね! たとえば……『大学生、女子高生、いただきます』」
「さっきのからほとんど進歩してないよ。たしかに目は引くだろうけど、ついでにとんでもない誤解をされること請け合いだよ」
「?」
意味がよく分かっていない様子の少女が疑問符を浮かべる一方で、俺は紙面に並んだタイトル案を順番に見ていく。そして――
「……うん、やっぱり勝手にタイトルを変えるのはよくないよな」
「あはは、だからそう言ったじゃないですか~!」
「(真昼のアイデアに比べれば、こっちのほうがよっぽど無難だし……)」
正面でぽわぽわ笑う女子高生の表情を眺めつつ、自炊男子は真顔でそう結論づけるのであった。
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