第三四四食 家森夕と冷たい朝食
★
一夜が明けた。いつものように午前七時前に目を覚ました俺は、まだまだ冷え込む冬の空に向けて恨み言を吐きつつ台所へ向かう。
いつものように顔を洗って歯を磨き、部屋へ戻って
「――こないんだよな、今日からはもう……」
一人玄関の扉に話し掛け、隣室との間を
「……早起きする意味、なくなっちまったな」
真昼との朝食のためなら、多少睡眠時間が削られたところでなにも感じない。しかし自分一人になった途端に「もう少し眠っていればよかった」と思ってしまうのだから不思議なものだ。
「朝メシは……食パンと卵だけでいいか。俺一人なら適当でいいし」
真昼も同じメニューを食べるとなれば、ちょっとしたサラダやスープ、ハムやウインナーも用意していただろうか。食いしんぼうな彼女には、成人男性にしては燃費のいい俺と同じ量では絶対に物足りないに決まっている。それに朝から美味しそうに食事をするあの子の姿は、見ていてとても気持ちがいいから。
ともあれトースターの中に食パンを一枚だけ放り込み、その間にフライパンを熱してスクランブルエッグを作っていく俺。もし真昼が隣にいたら「それだけじゃ足りないですよね! これも食べましょう!」と大盛りご飯がよそわれたお茶碗でも差し出して来そうだ。
「(そういや、
昨夜バイト先で貰ってきた家庭菜園産の野菜たちのことを思い出す。真昼と二人なら二、三日もあれば食べきれたであろうが……あの量を俺一人で使いきるというのはどう考えても無謀だろう。一回生の後期頃から自炊を始めた俺がほとんど野菜を買わなかった理由の半分は「一人者には多すぎるから」だった。ちなみに残り半分は「調理が面倒くさいから」である。
「(真昼も今日からは、自分の部屋で一人で料理してるんだよな……? 野菜のお
だが昨日の今日でそんなことをするのは少しばかり
「(真昼が親父さんとの約束をきっちり果たしてくれれば、きっとまた堂々と胸を張って一緒に
真昼のことを信じて待つしかない。俺が今のあの子のためにしてやれることなんてほとんど何もないだろうが……せめて彼女の勉強の邪魔だけはしたくないんだ。
「……冷たいなあ」
完成した朝食をもそもそとかじり、一人呟く。
パンも玉子も出来立てなのにそう感じてしまうのは、テーブルの向こう側で笑う彼女が居ないせいだろうか。
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