第二九八食 家森夕と初めてのお泊まり
★
「――で、こっちが小学校に上がったばかりのころの
「きゃーっ! な、なんですかこれっ!? もちもちのぷにぷにの……! き、
「そうでしょ? この頃の夕は今と違って可愛かったのよねえ。『こわいユメをみた』って夜中に私の布団に潜り込んできたりして」
「はあぁん、
「(なんだこの状況……)」
ひょんなことから
現在リビングの
俺はどちらかと言えば、自分のアルバムを人に見られるのが嫌なタイプの人間だ。特にこんな
「お、おい、もういいだろ真昼。そろそろ帰らないと暗くなる前に戻れな――」
「あ、あともう少しだけっ! あともう少しだけ見させてください、お願いしますっ!」
「文化祭の時の告白より必死に
「せめて、せめてお兄さんのアルバムを一通りすべて見終わるまで待ってくださいっ!」
「いや『せめて』って言うならもうちょっと
ちなみに我が家は無駄にアルバムの冊数――大半は俺が小学校低学年くらいまでのもの――が多いので、このペースで全部見ようと思ったら日が暮れるどころか一晩過ぎて日が
しかし真昼もよほど譲りたくないのか、「ぐぬぬ……」と
俺と少女が睨みあいを続けていると、不意に母が「だったら」と手を合わせた。
「今夜は二人とも、うちに泊まっていけばいいんじゃないかしら?」
「……は?」
その突拍子もない提案に思わず「何言ってんだ
「い、いいんですか、お母様っ!?」
「ええ、もちろん。私ももっと真昼ちゃんとお
「わーいっ! お兄さんお兄さん、聞きましたか!? 是非お言葉に甘えましょうっ、是非に!」
「駄目に決まってるだろ。俺はもちろんだけど、真昼だって明日から学校始まるんだぞ?」
「そ、そんなあっ!?」
がーん、と今まで見たことがないレベルで
「それなら朝早起きして帰ればいいんじゃないかしら? そうすれば真っ暗な道を走る必要もないし、学校にも遅刻しないでしょう?」
「そりゃ理屈の上じゃそうかもしれないけど……でも真昼だって朝早くからバイク乗って帰るなんてしんどいだろ?」
「わ、私なら大丈夫です! たとえこの先にどれほどの
「その情熱の使い道、絶対もっと他にあると思うんだが」
「お兄さん、明日は二時限目からの日ですよね!? 私も明日は始業式だけだからいつもより朝ゆっくりだし、朝に帰っても絶対
「わ、分かったっ、分かったから朝帰りとか言うなっ!?」
肩を掴まれて前後に
「い、いいんですかっ!? やったあっ! お兄さん、元々大好きですけど今日からもっと大好きですっ!」
「ぐえっ!? は、はいはい……まったく、現金な愛だなあ」
勢いよく胸に飛び込んできた少女をどうにか抱きとめ、その背中を軽くポンポンと叩いてやる。最初はあれだけ動揺したハグにこれだけ冷静に対応出来るようになったのは成長の
「ふふ、若いっていいわね」と中年親父じみたことを言いながらこちらを見てくる母の視線だけがやたらと気恥ずかしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます