第二八六食 リア充たちとキスの話③
★
「むむむむ……」
その日の夜。夕食のグラタンを食べ終えた真昼は、口を〝へ〟の字に曲げ、対面に座る恋人の顔をじーっと見つめていた。
「ど、どうした
「……へっ? あ、いえ、そんなことないです! すっごく美味しかったですよ!」
「じゃあなんでそんなにじっと見てくるんだ? ……ははーん、さては一人前じゃ足りなかったんだろ? 本当に食いしんぼうだなあ、君は」
「ち、違いますっ!? そ、そんなんじゃなくてっ!?」
「俺の残りで良かったら食べるか?」
「だ、だから違いますってば!? ……で、でもお兄さんが食べないならありがたくいただきます」
「食うんじゃねえか」
笑いながらグラタンが三分の一ほど残った耐熱皿を差し出され、真昼は恥ずかしそうに頬を染めながらそれを受け取った。もちろんいつもなら人の分まで食べるような真似はしないが、今日から大学が始まった
「さっきからどうしたんだよ。俺の顔になにか付いてるか?」
「な、なんでもないですよ? ただ――いい目をしているな、と思いまして」
「急に歴戦の
「で、ですです」
こくこくと頷き、あっという間に夕の分も食べ終えた真昼はぱちんと両手を合わせて「ごちそうさま」をした。そして青年も同様に手を合わせ、いつものように二人一緒に食器の後片付けに入る。特に当番を決めているわけではないが、今日は夕が洗い物と
「……」
じゃばじゃばと
「(うう……
しかし見つめれば見つめるほど、彼と口づけを交わす
「(雪穂ちゃんは自分からいったって言ってたよね……)」
いっそ彼女に
「(む、無理無理無理っ、私からなんてやっぱり無理っ!? は、恥ずかしすぎて死んじゃうっ!?)」
夕にキスをする自分を想像しただけでぼふんっ、と頭から煙を噴き出しそうになってしまう真昼。ガラスコップの水滴を拭く手が高速で動き、キュキュキュキュッ、と小気味良い音を
それでは逆に、夕の方から迫られればどうだろうか。そう、たとえば今、突然彼が
『――さあ、もう逃げ場はないぜ、真昼?』
『ああっ、お兄さんっ……! だ、ダメですっ、私たちにはまだキスなんて早すぎますっ……!?』
『嫌なら本気で振りほどいてみろよ。知ってるんだぜ、本当は真昼だって俺とキスしてみたいんだろう?』
『そ、そんな、ことは……っ!』
『ほら、早く逃げないとスリーカウントでキスしちまうぜ? スリー……ツー……ワン……――』
「んぅわああああああああああっっっ!?」
「!?」
想像――もはや妄想の域だが――の中で夕に唇を
「ど、どうしたんだ真昼!? いきなり叫んだりして!?」
「ち、違うんですお兄さんっ!? 別にこんな風に迫られたいとか思ってるわけじゃないんですっ!? 私はヘンタイさんじゃないんですっ!?」
「いやごめん、なんの話!?」
涙目ですがり付いて必死に弁明を
この二人が現実に唇を交わす日は、まだまだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます