第二六六食 二〇六号室と波乱の幕開け
★
前回までのあらすじ――
ついに
「うぇえへへへっへへぇ~……」
「な、なんだよさっきから……ニヤニヤ見てくるなよ」
乙女が出すにしては若干――あるいはかなり――可愛さに欠ける笑い声を発する少女に、部屋主の青年が居心地悪そうに足を組み替えながらそう言った。しかしテーブルの対面で両肘をついている女子高生は幸福の色に染め上げられた頬を
「んふふ、お兄さんってばいつの間にか私のこと好きになっちゃってたんですね~。『
「いやそこまで言ったことないだろ、記憶の
「ねえねえ、もう一回ちゃんと『好き』って言ってくれませんか? 『愛してる』とかでもいいんですけど」
「スマホ構えながら言うな、録音する気満々だろ! というか録音されなくたって絶対嫌だよ!」
「え~、いいじゃないですか~。ほら、私お酒飲んじゃったせいで全然覚えてないんですよ」
「嘘つけッ!? その顔は覚えてる顔だろ、
少女が
そして酔いから
「あ、だったら代わりに私のどこを好きになったのか教えてください。なにがきっかけで好きになったのか、とかでもいいですよ」
「それも嫌だよ! 面と向かってそんなこと聞かないでくれ!?」
「え……面と向かってが嫌なら論文にして
「地獄すぎるッ!? 仮に書き出したとしても
「締め切りを過ぎたら
「しかも結局言わされるんじゃねえか! というか罰ゲーム扱いでいいのかよ君は!?」
「それでお兄さんが私に告白してくれるならなんでも構わないです」
「その必死さ、たぶん何か間違ってると思うぞ……」
夕はキリッとした表情で
「……じゃあ逆に聞くけど、真昼はどうなんだ?」
「? どう……って?」
「だ、だからその……俺のどこをす、好きになったのかなって……」
「え、全部ですけど」
「即答かよ」
「だってそうなんですもん。さっきも言ったじゃないですか、『全部引っくるめてお兄さんのことが好きなんです』って」
「それを
逆に聞いた自分が恥ずかしくなってきてしまう。夕からすれば真昼くらい容姿・性格・能力に優れた少女なら他にいくらでもいい相手がいると思えてならなかったが、当の本人はまるで「お兄さん以外見えてません」と言わんばかりだった。もしかしたら彼女一番の強みは、その
「ほらほら、私は言いましたよ!? まさか女の子に言わせておいて自分は言わないなんてことしませんよね、ねっ!?」
「ぐ……!」
完全に
「ま……真昼の好きなところは……」
「うんうんっ!」
こくこくと首を振り、先を
「わ――笑ってる顔……かな」
「え」
単純な、しかしそれゆえに
「あ、あうぅ……!? おお、お兄さんったらよくそんな恥ずかしい台詞を言えますよね、だ、
「き、君がそれ言う!? 言っとくけど君の方がよっぽどだったからな!?」
一番言われたくない少女に言われ、夕は思わず机を叩く。顔を両手で覆って首をぷるぷるさせる真昼を見ていると、なんだか自分がとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったかのようだった。
「くぅっ……流石はお兄さんです、今回は私の負けですね……」
「いや、今の会話のどこに勝敗があったんだよ!? まさか恥ずかしい発言対決とかじゃないだろうな!?」
「あの、後で聞くために録音したいのでもう一回言ってもらってもいいですか? 『俺が
「記憶の
「え? 『ベイビー』って付けた方が格好いいと思うんですけど……」
「……そうだった、この子は素のセンスがコレなんだった」
どこか
そして二人が愛する穏やかな時間が二〇六号室に流れ始めた頃には、新年最初の太陽は西の空へと傾き始めていた。
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