第二六五食 家森夕と二人の本音⑥
想像していたより、すんなりと言葉になったように思う。これまでの人生、
緊張していないわけじゃない。でも、さっきまでよりもずっと落ち着いている。
「(……違う。俺はただ――)」
――この答えに
「……ふぇっ」
「? ……えっ!?」
聞こえてきたその声に、俺はようやく天井から腹の上に乗ったままの
「なな、なんで泣いてるんだよ!? 大丈夫か!?」
当然、みっともなく慌てふためく俺。とりあえずズボンからハンカチを取り出して渡そうとするも、真昼の
「だっでぇ……わだじ、やっどおでぃいざんに『ずぎ』っでいっで○%◇#……!」
「(なんて?)」
涙声のせいで上手く聞き取れなかったが……「やっとお兄さんに『好き』と言ってもらえて嬉しい」的なことを言っているというのは伝わってきた。彼女がずっと
「……でも、おにいさん」
「わたしのことを好きって言ってくれるのに、どうして『
「そ、それは……」
もっともな疑問だった。たしかに本当に好き合っているなら、俺が真昼と交際出来ない理由などもはやないだろう。異性として見ていると自覚してしまったからには、「真昼はまだ
思うに、俺がこれまで真昼の想いに
彼女が好きになった
真昼に失望されてしまえば――嫌われてしまえば、俺は居心地のいい大切な時間を失い、またあの
「それってつまり……おにいさんは、いつかわたしにきらわれちゃうのが怖かったっていうことですか?」
「うっ……ま、まあそういうことになる、のかな……」
俺自身、今の今までそうだとは自覚出来ずにいただけに、そんな身も蓋もない言い方をされるとなんだか物凄く格好悪く聞こえる……いや、実際に相当格好悪いので、反論のしようもないのだけれども。
「……なりませんよ、きらいになんて」
寝転んだまま見上げると、真昼は形のいい唇を不満げにつんと
「わたしはおにいさんのやさしいところも、たのもしいところも、かっこいいところも、かっこわるいところも……ぜんぶ引っくるめてあなたのことが好きなんです」
「!」
「だからきらいになんてなりません。この先、おにいさんがまだわたしの知らない
「真昼……」
臆病な俺とは対照的に、物凄く格好いいことをハッキリと言葉にしてみせる女子高生。本当に、どうしてこんな子が俺なんかのことをを選んでくれたのか……その理由だけは、俺には今後も一生分からないままのような気がする。
「(……そうだよな。君は最初から、そういう子だったよな)」
馬鹿な己を心の中で強く
「ごめん、真昼。俺は君の気持ちを全部分かったつもりになってたはずなのに……本当は全く理解出来てなかったんだな」
「……ふふっ、あやまらないでください、おにいさん。べつに怒ってるわけじゃありませんから」
すると少女は不満げな表情から一変、コロリとお日様のような笑顔を咲かせると、そっと俺の胸板に頬を寄せてくる。
「やっとおにいさんがふり向いてくれて、わたし今すっっっっっごくうれしいです!」
「……そっか」
「はいっ!」
首元へ伸びてくる少女の両腕がなんだかとても気恥ずかしくて、俺はきっと赤くなっているであろう顔を彼女からフイッと
そんな俺のことを言葉通り嬉しそうに見つめていた真昼の頬もやはり真っ赤に染まっていたが……その後も少女はずっと満面の笑みを浮かべたままだった。
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