第二四四食 家森夕とクリスマス①
★
思えば俺は昔から、クリスマスを〝楽しいもの〟として認識してこなかったような気がする。
いや、もちろんただの平日よりは楽しいだろう。基本的に
しかし同時に、
多くの人たちはクリスマスやバレンタイン、ハロウィンが本来どういう意味合いを持つのか、なんて興味もないし調べもしない。というか俺自身、いつだかテレビで言っていた内容を
ネット上にも〝どこかの誰かが伝聞・
そもそも歴史なんてものは
しかしそれも当然のことだろう。先の話と
要するに
とまあどうでもいい話が長くなってしまったが、俺が言いたかったことはつまり「よくクリスマスがこの国でこんなに深く根付いたな」ということである。
クリスマスがもたらす経済効果は毎年数千億から一兆円ほどと言われている。ほとんどの人間がキリスト教徒ではなく、イヴに教会まで礼拝に行くわけでもないこの国においてこれほど経済が――すなわち人が動く日は数えるほどしかないだろう。しかしこれがたとえば
起源も歴史も知らず、意味も関係性もない。それでもこの国のほとんどすべての人間が知り、関わる祭り――クリスマス。
「(……ほんと、不思議だよなあ)」
すっかり感覚を取り戻した中型バイクの上でメットを取り払った俺は、軽く頭を振りながらほう、と白い息を吐き出す。場所はうたたねハイツの駐輪場、時刻は夜九時過ぎ。空を見上げてみると冬の
大学とはまったく逆方面、少し離れたところにあるスーパーマーケットでアルバイトをしている俺は、クリスマスのせいでこんな時間まで残業させられた――わけではない。いや、たしかに製菓やら飲料やらの売れ行きが良かったため少しだけ残業にはなったのだが、昨日と同じく朝からのシフトだったので夕方六時頃には解放されていた。それなのにどうしてこんな時間にバイクで出掛けていたのかと言えば、シート下に入っているとあるものを買いに行っていたからなのだが……。
「(
携帯にメッセージが入っていないことを確認し、俺は隣人の少女のことを思い浮かべる。今日、友人たちとクリスマスパーティーに出掛けている彼女には「連絡くれれば迎えに行くよ」と伝えてあるが、なにも来ていないということはまだ
真昼に予定を聞かれた際、「朝は出掛けるかも」と答えた理由の半分はそのためだ。俺も高校の頃、泊まる予定もなかったのに流れで友人の家で寝過ごした経験はあったし、そういうのは後からとてもいい思い出になる。しかしあの気遣い屋の少女の場合、「明日はお兄さんと過ごす約束があるから」なんて理由でその機会を流してしまいかねない。それはあまりにも勿体ないし……なによりお友だち同士のお泊まり会と比較して、俺がそれ以上にあの子を楽しませてやれるような自信などあるはずもなかった。なお残る理由の半分はシート下のこれだったが、そちらは
そんなわけで真昼が俺に気兼ねなくクリスマスを楽しめるようにと小さな嘘をついてしまったものの、連絡が来ていないことから察するにやはり相当パーティーが盛り上がっているのだろう。無理もない、あれくらいの
とはいえまだ泊まってくると決まったわけではないし、迎えが必要になる可能性もあるので一報来るまで風呂はお預けだな、と考えながら駐輪場を出る。こちらから連絡をしてもいいが、女の子だけで楽しく過ごしているであろうところへ邪魔を入れるのも気が引けた。
「(とりあえず
「ん……? って、えっ!?」
ブロロンッ、という重低音を響かせながらこちらへ向かってくる一台の大型二輪車を視認し、思わず声を上げてしまう俺。なぜならそのバイクは大学の同級生――金髪ピアスヤンキー女こと、
いや、でも、まさかな、と脳内で間投詞を連発している間に、そのバイクは俺のすぐ目の前に停車する。あれ、よく見たら後ろにもう一人乗ってるような……?
「よいしょ、っと……えへへ、今日は本当にありがとうございました、千鶴さんっ! ……って、ああっ!? お兄さんっ!? ど、どうして
「ま、真昼!?」
「どういう状況!?」と叫びそうになった俺の正面で、唯一金髪の女子大生だけは訳知り顔で無言を
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