第二四〇食 クリスマスイヴと男たち③
「まだ準備が残ってる」と言い
「えーっと……旭日は行かなくていいのか? なんか準備中みたいだけど」
「(! り、リョウ、余計なことを……!)」
話の流れを見れば自然な疑問ではあるが、もし旭日が「あ、そうだね、じゃあ私も仕事に戻るよ」などと言い出してしまったらどうしてくれるのか。数秒後、そんな俺の
しかし幸いというべきか旭日は手伝いに戻る必要はないようで、準備とやらが終わるまで
ちなみに旭日たちはこの後閉店までの数時間、商店街を
「あ……旭日は、どうしてこんな時期にアルバイトをしているんだ?」
「え?」
俺がそう問うと、冬島から受け取っていたコートに
「そ、その、なにか特別な理由でもあったのかと、少し気になってな。あ、いや、冬休みで時間があったということは分かるのだが……」
日頃から旭日と話す機会がそれほど多いわけではない――断じて、断じて緊張して自分から声を掛けられないとかそういう
「ユズルくんたちはもう知ってるかもしれないけど……私、好きな人がいるんだ。お隣のお兄さん――
「!」
瞬間、リョウが素早く俺の表情を気遣ったような気がした。しかし俺はそれを横顔に感じながらも、照れ笑いを浮かべている旭日から目を逸らすことが出来ない。
そして俺の気持ちにまるで気付いていないであろう鈍感な同級生は、俺たち以外の誰かを見ているかのように瞳を細めて続ける。
「でも私、今までお兄さんにちゃんとしたプレゼントを贈ったこがなくて……だからせめて
「……それだけのために、わざわざアルバイトを……?」
「あ、あはは……うん、やっぱりちょっと変かなあ?」
「……」
眉尻を下げる旭日に、俺は言葉を返さなかった。いや……返せなかった、が正しかろう。なぜなら俺の頭の中は、突きつけられた残酷な現実によって真っ白に染められてしまっていたから。
無論、彼女が例の男に心を奪われていることは体育祭や文化祭の時から知っている。ゆえに今さら、
しかしやはりというべきか、旭日本人の口から告げられてしまったダメージは大きい。なにせ、こうして向かい合って話をしていると嫌でも伝わってくるのだ。
旭日は本気で――きっと俺が彼女を想うよりもずっと、ずっと真剣に――あの男のことを
「……そうか」
「……喜んでもらえるといいな、クリスマスプレゼント」
「! えへへ……うん!」
満面の笑顔を咲かせた旭日に、俺も顔から手を
「それじゃあ、俺たちはもう行く。……帰るぞ、リョウ」
「えっ……い、いいのかよ?」
「……『俺以上に彼女を幸せに出来る男はいない』、じゃなかったのかよ?」
「フン……」
その皮肉じみた物言いに鼻を鳴らす俺。だが不思議と悪い気分ではなかった。少なくとも、核戦争の
「別にあの男のことを認めたわけじゃない。ただ俺は、俺のために旭日の笑顔を
「面倒くせえ奴だな、お前……あーあ、クリスマスに旭日を誘う最後のチャンスだったのに格好つけちまって」
「うるさい、放っておけ」
「よっしゃ、じゃあユズルの失恋記念になんか食いに行くか!」
「人の失恋を記念するな!? 第一、俺はまだ失恋したと決まったわけではない!」
「あー、そっか。たしかに旭日が
「なんだと!? もしそんなことになったらあの男、絶対許さんぞ! いったい旭日のなにが不満だと言うのだッ!?」
「ほんと面倒くせえ奴だな、お前!」
悲しみに暮れる暇もないまま、男二人で冬の街を騒がしく歩く。
やはり俺のクリスマスは、寂しいものにはならなかったようだ。
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