第二二五食 旭日真昼とプレゼント③
★
奇妙な緊張感がここ、うたたねハイツ二〇六号室に
キッチンに立つのは大学生の青年。皮を
「あ、あの~……お嬢さん?」
「……」
「そんなに
「……」
「……」
「……」
「……真昼?」
「……はへっ? あ、はい! 私が真昼です!」
名を呼ばれてようやく声に気付いたのか、キッチンに置かれた安物の丸椅子の上で器用に三角座りをしていた真昼がピシッと
「どうした? 今日は来た時からなんかちょっと変だぞ?」
「す、すみません、ちょっと考え事をしてて……」
「へえ、珍しいな。なにか悩みでもあるのか?」
「はい、少しだけ……」
「そうか」
夕は話を聞きながらもタマネギ、ニンジンの
まだ包丁の扱いに迷いが残る真昼が「おお~……!」と感嘆の声を上げると、青年が「だからやりにくいって」ともう一度同じ顔で笑った。
「それで? 一体になにを悩んでるんだ?」
「ふぇっ? あ、え、えっと……」
まさか本人に「あなたへ贈るプレゼントはなにがいいか悩んでます!」とは言えずに口ごもる真昼。
「もしかして言い
「あ、はい、それは大丈夫です。今日、学校でひよりちゃんたちに相談に乗ってもらったので」
「えっ……そ、それでも俺にはやっぱり言えないのか?」
「お、お兄さんにはちょっと……すみません」
「そ、そうか……まあ友だちにしか話せない話ってたくさんあるもんな……」
そう言いつつも若干ショックだったのか、わずかに肩を落とす夕。切った野菜たちを鍋で
「(……あ、そうだ! お兄さんには聞けないけど、
ひよりたちは夕と話す機会自体が少ないので結論が出なかった。しかし日頃から大学で夕とつるんでいるイケメン女子大生や、夕と同じゼミに所属している金髪ピアスお姉さんであれば、彼がプレゼントされて嬉しい物がなんなのか知っているかもしれない。
ふと舞い降りた名案にパッと晴れやかな表情を浮かべる真昼。そしてそれに気付いた夕が
「こ、今度はどうした?」
「あ、いえ、青葉さんと千鶴さんにも話を聞こうかなと思って……」
「ええ!?
「あっ!? ち、違うんですよっ!? お兄さんに相談出来ないのは別に信頼してないからとかそういうわけじゃなくてですね!?」
「い、いいよ、そんな気遣わなくても――ってあっづぁっ!?」
「お兄さーーーんっ!?」
〝
「だだ、大丈夫ですかお兄さんっ!? すみませんっ、お料理中に私が話しかけたりしたからっ!?」
「い、いやいや、今のは完全に自業自得だから……ごめんな、そっちには汁、飛ばなかったか?」
「は、はい、私は大丈夫ですけど……お兄さん、シャツが……」
「……あ」
二人の視線が、茶色いシミが出来てしまった白地のシャツに落とされる。真昼は料理をする時はいつもエプロンを
「あちゃー……まあすぐに洗えば綺麗に落ちるだろ、たぶん。ちょっと
「はい……ハッ!?」
その時、奥の部屋へ消えていく彼の背中を見送った真昼の頭に再び
「そうだ……これにしよう、クリスマスプレゼント!」
手をぱちん、と合わせて喜びの声を上げた少女に、ドアの向こうで着替えていた青年が不思議そうに首を傾けていた。
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