第二二〇食 質素デーと嵐の夜③
「それにしても、まさか
残っていた洗い物を手早く終えた後、開いていた部屋のカーテンを閉じながら俺が言うと、部屋の隅っこで俺の枕をぎゅうっと抱き締めたまま震えている
「怖いに決まってるじゃないですか!? ゴロゴロ言ってるかと思えば急にピシャアッ! ですよ!? あれが怖くない人なんているんですか!?」
「いやまあ、たしかにさっきの雷は凄かったけどな」
「もしあんなのが頭の上に落ちてきたら……ひ、ひえぇっ! かか、考えただけで怖いです!? 絶対全身
「ぐ、グロいグロいグロい!? どんだけ生々しい想像してんだ! 普通こういうのって『雷様におへそ取られちゃう!』みたいな怖がり方するもんじゃないの!?」
「え? なに言ってるんですかお兄さん、そんなの普通に考えてあり得ないですよ」
「そこは冷静なのか……」
だったら建物の中にいて何が怖いんだろうと思わなくもないが……そりゃもちろん、屋内だからって一〇〇パーセント安全とは言えないんだろうけれども。
「……要するに雷の音とか威力が怖いって話か。なんかちょっと意外だな、真昼なら『雷が鳴ってますね~。あ、雷と言えば和菓子の
「お、お兄さんの中の私ってどれだけ食いしんぼうさんなんですか!? か、雷だけで毎年一〇人くらいの人が亡くなってるんですからね! 甘く見ちゃダメ、ゼッタイ! 今朝のお兄さんみたいに大雨の中外に出ようとするなんて
「あ、今朝コンビニに行かせてもらえなかったのってそういう意味でもあったんだな」
「……そう、甘く見ちゃダメなんです……ダメ……
「ま、真昼サン?」
怖がりすぎてキャラ崩壊を起こしかけている少女の肩を
「今日、朝からずっとうちに
「……雷が怖かったのはその通りですけど……」
「ん?」
枕を抱いたまま、なにやら不満げな声で呟いた少女に首を傾ける。
「でも誰でもいいから側にいてほしいとか、そういうわけじゃないです――お、お兄さんだから、私はずっと一緒に……」
「!」
熱を
枕と横髪の間から覗く耳が真っ赤になっているのは、見間違いではないだろう。
「……」
「……」
気まずいような、照れくさいような、そんな沈黙の
「(真昼は、やっぱりまだ俺のことを
あの文化祭の夜、真昼が俺に対して
今の俺たちは、見た目の上ではきっと以前までと
けれど実情は違う。少なくとも俺はもう真昼の気持ちを知ってしまった。彼女がどういう想いで俺を見て、どんな感情を抱いているのかを知ってしまった。
それを知っておきながら――このままでいいのか?
「……? お兄さん……?」
なにも言わぬまま棒立ちしている俺の様子を変に思ったのか、真昼がまだほのかに赤い顔で顔の向きを戻した。そこに心配そうな色が浮かんでいるのは、彼女の優しい心の表れだろう。
「……なあ、真昼」
「は、はいっ?」
俺が静かに呼び掛けると、少女は座ったままぴんっと背筋を伸ばした。直感的に、なにか大切なことを言おうとしていることを察したのだろうか。濡れた瞳の奥に、期待と不安が混ざった揺らめきが見てとれる。
俺はそんな少女の手前に膝をついて目線を合わせ――やや迷ってから、覚悟を決して口を開く。
「俺は――」
しかしその瞬間、またしても嵐の夜に雷の轟音が鳴り響いた。ズドンッ、ピシャッ、という稲妻の
「ちょっ!? 待っ――ぐえっ!」
潰れた
首もとに巻き付けられた細い両腕、そして小さな
「あ、の」
「うう……ハッ!? ☆※○%◇#□&△@ッ!?」
硬直して指先すらも動かせなくなりながもどうにか声を発すると、我に返ったらしい真昼は自分の状況を認識するや否や、
「すすすすすすみませんお兄さんっ!? わわ私、雷にびっくりしちゃってついっ!?」
「だ、大丈夫大丈夫、ちゃんと分かってるから……」
どうにか起き上がると、彼女はぶつけた頭など気にも
「(……なにを言おうとしてんだ、馬鹿……)」
そんな真昼の姿を眺めて、俺はまだ熱い頬を
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