第一九七食 家森夕と自炊少女(?)③
★
「お兄さんお兄さん、これとかどうですか!? すっごく可愛いです!」
「そ、そう……だな?」
グワッ、と
日が落ちて外も暗くなった頃、俺と真昼は近所のホームセンターまで足を運んでいた。あの後、相変わらず汚い真昼の部屋で電子レンジや炊飯器などの設置・送られてきた調理器具類の
ちなみに真昼の部屋にあった食器は
「……よし、まあこんなもんだろ」
色々と詰め込んだ買い物カゴを見下ろして頷く。
「これくらいあれば、俺の部屋で作った料理くらいなら十分作れるよ」
「え? でもまだちょっと少なくないですか? お兄さんの部屋にはもっとたくさんありますよね?」
「ん? そりゃ、うちには二人分あるからなあ」
といっても我が家にある食器たちのうち、半分以上は真昼が来てから新しく購入したものだ。嫌々自炊をしていた当時の俺の部屋には最低限度のものしかなかったし、逆に積極的に料理をするようになって以降は
「わ、私の部屋にも、二人分あった方がいいんじゃないですか?」
「え? なんでだ?」
「だ、だって、お兄さんが私の部屋でご飯を食べることだってあると思いますし……」
「いや、それはないだろ」
「即答!?」
ガーン、という擬音がどこかから聞こえそうな表情で声を上げる真昼。しかしそんな顔をされても、俺がわざわざ彼女の部屋に上がり込んで食事をする必要があるとは思えない。それをするなら、今まで通り俺の部屋で料理をすればいいだけだ。
「……そういえば、真昼はこれからどうするんだ?」
「ど、どうする、とは……?」
ふらつきながら「お兄さんは相変わらず
「その……自分の部屋で料理出来るようになったら――もう俺の部屋には来ないのかな、と思ってさ」
「!」
若干詰まりながらそう
「も、もしかして寂しいですか、お兄さんっ!? も、もし私が一人で料理をするようになっちゃったら、寂しいですかっ!?」
「!? い、いやそんなつもりじゃなくてだな……!?」
どこかのアホ女子大生や腹黒女子高生にも通ずる色を
「……でも、そうだな……真昼と料理するのは俺も楽しいし……さ、寂しいと言えば、寂しいかもしれない……」
なんとなく、今日買ったばかりの料理本のことを思い出しながら正直に答える俺。すると真昼の口から「おお……!」という謎の感嘆詞が漏れた。
「お、お兄さんが――デレました……!」
「で、デレたってなんだよ!?」
「だって絶対『いや? 別に寂しくはないけど』みたいなこと言われると思ったのに! まさか〝つんでれ〟のお兄さんがこんな素直にデレるなんて!?」
「誰がツンデレだ、俺はどこぞの金髪ヤンキーかッ!」
そんな安いキャラ付けをした覚えはない以前に、俺は真昼に対して
「こ、これが
「一応言っとくけど、君は確実に〝ツンデレ〟を誤解してるからな」
「ハッ!? も、もしや私も〝つんでれ〟を
「人をツンデレマスターみたいに言うな。どうしても聞きたいなら
「分かりましたっ!」
俺が面倒ごとを
「あ、でも心配しなくていいですよ、お兄さん」
「ん?」
ころりと語調を変えた真昼に、俺は疑問符を反した。「心配もなにも、最初から君がツンデレ属性を手に入れられるだなんて思っていないけど……」と言いかけたが、どうやらそちらの話ではないらしく。
「私、これからもお兄さんと一緒にご飯を食べたいですから!」
「!」
「だから、自分のお部屋で料理が出来るようになってもそれは変わりません! ……あ、も、もちろんお兄さんが良ければ、にはなっちゃうんですけど……」
「……そっか」
最後に急に遠慮っぽいことを言う少女がなんだかおかしくて、俺はふっと微笑んでしまった。……やっぱり、この子は今のままが一番なのだろうな。
「……でも真昼、わざわざこれだけ買いに来たってことは、自分の部屋で料理するつもりはあるんだろ?」
「はい、それはもちろん! せっかくお母さんたちが用意してくれたんですし……それに、お兄さんがいるお部屋で練習は出来ませんし」
「? 練習……って?」
「ふぇっ!? いい、いえ、なんでもないですよっ!? 別になにも
「
わたわたと手を振り回す嘘が下手くそな女子高生に半眼を向ける俺。彼女はそんな俺から目を逸らし、ピューピューと吹けもしない口笛を吹いている。
期せずして真昼が自炊デビューを果たすこととなったこの日、俺はただただ
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