第一八一食 うたたねハイツと変わりゆく関係②
数分後、我が家ことうたたねハイツ二〇六号室には異様に重い――もとい息苦しい雰囲気が
「……」
「……」
主な発生源は俺の対面で母親と並び座っている隣人の女子高生。昨夜、「これからはガンガンいきますからね!」的なことを言っていたはずの彼女は、
するとそんな重苦しい空気を不思議に思ったのか、娘に使い走りさせた缶コーヒーを飲んでいた
「さっきからどうしたの、二人とも? 顔の汗すごいわよ?」
「うえっ!? べべ、別になにが!? 私普段からこんなものだったと思うけど!? ね、ねっ、お兄さん!?」
「お、おうともさ!?」
真昼の適当すぎるフリにコクコクと頷いて肯定する俺。……乗っかっておいてなんだが、常時汗だくの女の子とか嫌すぎる……。
「あ、あっ!? そそ、そういえばお兄さんもお母さんも朝ごはんまだですよね!? わ、私作ってきますっ!?」
「い、いやせっかくお母さんが来てくれるんだし、今日は俺が――」
「あらいいの、真昼? それじゃあお母さん、出来立てのハンバーガーが食べたいわ。ピクルスとトマトとレタスと、あとハンバーグ抜きで」
「それもうただの二枚のパンだけど分かった!」
「(なにが分かったんだよ)」
どうやら一刻も早くこの場を離れたいらしい娘が、母親の謎
「ごめんなさいね、
「は、はは……」
そうなんですね、とだけ言って、俺は
……などと、俺なりに気を遣ってみたりしたものの。
「それで、夕くんはあの子の告白になんて答えたのかしら?」
「ぶはっ!?」
どうやら〝母は強し〟、お母様には既にすべて
「ま、真昼から聞いたんですか、その話……?」
「ん? いいえ、私もちょっと前に来たばかりだもの、朝からそんな込み
「じ、じゃあ誰から……?」
「そうねえ……とっても可愛い、ゆるふわっとした女の子から、とだけ言っておこうかしら?」
「(
天使のような笑顔の下に
「……あれ? でもいつ聞いたんですか? 真昼が俺に告――え、ええっと、話をした時って、お母さんはもう帰ってましたよね?」
「ええ、友人と
やばい、知らないうちにヤバい子とヤバそうな人が繋がりを持ってしまったらしい。俺は
「……でもあの真昼が正面切って告白するとは思わなかったわ。夏に帰省した時は『気になってる人がいる』なんて
「(そ、そんなに前から……?)」
真昼母のさらっとした言葉に、少し驚かされて瞳を見開く。真昼本人も「ずっと前から」だとは言っていたが……。
「話を戻すけれど、夕くんは真昼の告白になんて答えたの? いい返事をしなかった、っていうのは聞いているんだけれど」
「え、えっと……」
彼女の実母を前に
「……お母さんにお話ししたことを、ほとんどそのまま伝えました」
「……そう」
真昼母は怒るでもなく喜ぶでもなく、ただ純粋な微笑みを浮かべたままこちらを見た。
「……すみません」
「あら……ふふ、謝ることなんてないわ。仕方のないことでしょう?」
頭を下げた俺に、美女はコーヒーの缶に両手を添えたまま苦笑した。
「夕くんは私と二人で話した時からそう言っていたもの、たった半日やそこらで人間の
『一〇〇パーセント上手くいく恋なんてないことくらい分かってます』――たしかに真昼はそう言っていた。
月明かりの下で聞いた言葉を思い返していると、母は「でもね?」とどこか小悪魔的な表情で言う。
「あの子は……真昼は、きっと夕くんを変えるわ」
「え……?」
どこか予言じみたその言葉に疑問符を浮かべる俺。けれど真昼母は優しげな笑みを纏い直しただけで、それ以上のことは教えてくれなかった。
「――だってあの子は、あの人の子ですもの」
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