第一七六食 家森夕と旭日真昼③
『それじゃあ
後夜祭が始まるまでの待機時間、
それを聞いた真昼母が『まあ』と唇に指先を当て、千歳はピクッ、とよく分からない反応を示す。
『だって
『いや、お前ら二人がそれでいいって言ってる以上、俺が納得するもしないもねえだろ……』
『でも「大学生が高校生と付き合うのはどうなんだ」とは思ってるでしょ?』
『それは……まあ』
俺が短く肯定すると、千歳が『……チッ』と露骨な舌打ちをした。なんだコイツ……まあこの金髪ピアスは普段から常に機嫌が悪いようなものだから慣れっこではあるが。
『お昼くらいにも
『えっ……? も、もしかして夕くんってば、私のことが……?』
『あのお母さん、その若干リアルな
そもそも真昼母は、見た目だけなら
『私もさ、「女の子同士だから」ってところを疑問視されるなら分かるんだよね。私自身戸惑ってるし、正直未だにこのまま雪穂ちゃんといいのかなって思ってるから』
『……オイ、テメェ。寝て起きて「やっぱり昨日の話はナシで」とか言いやがったら、マジでバイクに
『あはは、
おどけたような言葉だった。だが青葉がそんなことをしないであろうことくらい、俺も千歳も知っている。この女はバカに見えて実際バカだが、誠実にすべき部分はきっちり
『話を戻すけど、夕が「女同士で付き合うのは大変なんじゃないか」って言ってくるなら分かるんだけどさ。でもキミが疑問に思ってるのはどっちかっていうと、「雪穂ちゃんがまだ高校生」って部分なんだよね?』
『……まあ、そうだな』
『そこが分っかんないんだよな~、私。たとえばだけど、大学の一回生の子ならセーフなの? セーフだとしたら
『ええ……? いや、考えたこともないけど……』
ただ
今思えば結局、真昼母に伝えた「大学生が高校生に
『――くだらねェ』
そう
『ごちゃごちゃうるせェンだよ、テメェは。
『あの、なんで私まで
さらっと罵倒された青葉が『たしかにバカなことしちゃったけどさあ……』と唇を尖らせるのを無視し、千歳は続ける。
『フツーだのフツーじゃねェだの、くだらねェ。そんな言葉で否定される
『い、いや、別に否定してるわけじゃ……』
『否定してンだよ、テメェは』
ぴしゃり、と武器を振り下ろすような声が俺の言葉を遮断する。
『もしテメェが今日の
そう
『――両方違うね。テメェは「普通じゃないから」って理由付けをして、
『……!』
『今テメェが言ったのはそういうことだろ。相手の顔も、性格も、思想も全部無視して、「普通じゃないから」の一言で片付けるだけ。そんなモン、相手のことをなにも見ねェで頭ごなしに否定してンのとなにも変わらねェよ』
言いながら、目付きの悪い女は自分の目元に――おそらくは無意識のうちに――手を添えていた。
そして俺は言葉の圧力こそ違えど、真昼母にも似たような意味合いのことを言われたことを思い出す。
――本当にあなたは、自分の気持ちと向き合った上でそう答えたのかしら?
『……だったら千歳、お前ならどうするんだよ? もしお前が青葉みたいに高校生から告白されたら、どう答えるんだ?』
『あァ? ンなもん決まってンだろ――』
★
――
ここはキャンプファイヤーの楽しげな様子を
偶然か必然か――彼女の母親が「文化祭に
昼間と同じだ。もはや俺に――否、俺たちに逃げ場はない。
そして、彼女が口を開いた。
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