第一四〇食 旭日真昼と気になる人③
★
「……それで
「う、うう……」
朝の通学路、隣を歩くひよりから呆れ顔でそう言われてしまい、
「いつもより随分早く集合場所にいたからなにかと思えば……というか話を聞いてるとアンタたち、花火大会の時からそんなのばっかりね」
「だ、だってぇ……!」
「だってじゃないわよ。たしかにあの人は
「ひ、ひどいよひよりちゃあん……!」
歯に
「……一つ聞きたいんだけどさ」
「? な、なに?」
「アンタって結局、家森さんと付き合いたいとか思ってるわけ?」
「ブーーーーーッ!?」
ドストレートな質問に、少女の顔がぼふんっ、と一瞬で真っ赤に染まり、ゲホゲホと分かりやすく
「きき、急になに言ってるのひよりちゃんっ!? わ、私とお兄さんがつっ、つつっ――突っつき合うだなんてっ!?」
「いや、誰も〝突っつき合う〟なんて言ってないし」
「つ、付き合うなんてむ、ムリムリ、絶対に無理っ!? だ、だって相手はお兄さんだよ!? そんなの
「もうアンタの中で家森さんがどういう存在なのかよく分かんないわ」
バタバタと手を振り回しながらネガティブなことを言う真昼。そんな親友の姿を見たひよりはこめかみに手を当てつつ、いつも通り面倒くさそうにため息をついた。
「……じゃあ質問を変えるね? アンタ、家森さんのこと好きなの?」
「んなあっ!? だだっ、だから好きってわけじゃなくて、まだ〝すごく気になってる〟だけっていうかっ――!?」
「付き合いたいわけでも好きってわけでもないなら。……家森さんがアンタの気持ちに気付いてくれなくたってなんの問題もないんじゃないの?」
「ッ!」
核心を突いたひよりの言葉に、真昼はぐっと喉を詰まらせて一瞬足の動きを止める。しかし隣を歩く親友の少女は少しも歩調を緩めも速めもせず、視線を合わせることも逸らすこともせぬまま言った。
「アンタが胸を張って家森さんのことを『好き』と思っていて、『付き合いたい』と願っていて、その願いに見合うだけの努力をしていて……それでも家森さんがこれっぽっちも気付いてくれなかったっていうなら、たぶん私は『そんな奴やめとけ』って言ってたと思う」
それだけやって気付いてもらえないとしたら、その相手は〝脈ナシ〟か〝馬鹿〟のどっちかだろうからね――ひよりは淡々とした調子で続ける。
「だけど今のアンタみたいに、自分でもよく分かってないような気持ちに『気付いてほしい』って望むのは、ちょっとワガママすぎるんじゃない? 家森さん、
「……!」
そこまで言って、ようやくひよりは数歩後ろについて歩いていた真昼の方を振り返った。言葉選びは叱っているかのようだが、その
「……ひま、もう一度聞くよ? アンタは家森さんと付き合いたいと思ってる?」
「……分かんない」
「あの人のこと、好きだと思ってる?」
「…………それも、分かんない」
二度とも首を横に振った真昼に、ひよりは
「……でも」
しかし続けて、真昼は小さく消え入りそうな声で言う。
「今のこの気持ちが〝好き〟ってことでいいなら――やっぱり私は、私の気持ちをお兄さんに知ってほしい……と思う」
「!」
それを聞いたひよりは一瞬大きく瞳を見開き――そして次の瞬間にはじとっとした半眼になった。
「『〝好き〟ってことでいいなら』ってなによ? それを決められるのはアンタだけだって言ってんでしょ」
「だ、だってぇっ!? い、今の私くらいの気持ちで〝好き〟だって名乗ってもいいのかな!? 私が〝好き〟なんだと思ってる気持ちは、案外みんなが言うところの〝普通くらい〟だったりしない!? もしそうだとしたら、本当は〝普通くらい〟の私が『好き』って言っちゃうのはお兄さんに対してすごく失礼なことなんじゃ――!?」
「いやごめん、なに言ってるのか全然分かんないんだけど……というかまだ〝好きかどうか〟って段階でどんだけ難しく考えてんのよアンタ」
「だって分からないんだもんっ!? どれくらい好きだったら〝好き〟って名乗れるの!? ひよりちゃんと同じくらいお兄さんのこと好きだったら〝好き〟って名乗っても許されるの!?」
「うん、とりあえず比較対象を私にするのやめてくれない? 答えづらいにもほどがあるわ」
いよいよ頭を抱えて「んあああああっ!?」と
「あ、おーいまひるーん、ひよりーん。おっはー」
そんな間延びした声が二人の耳に届いた。見れば合流した道の先でゆるふわ系のモテ女子こと
「朝から騒いでどーしたのー? なんか面白い話ー? だったら私もまーぜてーっ!」
……話をさらにややこしくすることでお
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