第九八食 旭日真昼と条件改定①
一人暮らしを始めたばかりの当時、まだ中学一年生――厳密には小学六年生末期――だった
それは〝夕方五時半時以降の外出をしないこと〟や〝昼間でもなるべく人通りの多い道を歩くこと〟といった防犯上の理由による
さて、そんな中でも一際目を引く
小学生の頃は
なにも〝料理をすると何故か
しかしだからこそ、両親はそんな真昼が一人で料理なんてしようものならどんな大惨事になるかを理解し、ゆえに事実上、一人では料理が出来ないような
真昼はそんな両親の心配を分かっていたからこそ、中等部時代の三年間はただの一度も自炊に手を出していない。まあ手を出そうにも彼女の部屋には包丁もコンロもフライパンもないのでどうしようもなかった、という方が正しいのだが。
それに真昼はコンビニ弁当やスーパーのお惣菜ばかりの食生活そのものを苦に思ったことは一度もない。自分なりに栄養には気を遣っていたし――隣の大学生に言わせれば「どの辺が……?」らしいが――、そもそも彼女は基本的になにを食べても「すっごく美味しい」と感じるタイプだ。
それでも真昼が夕の「料理、教えてやろうか?」という一言に飛びついたのは彼の家でご馳走された質素ながらも温かいご飯がとても美味しかったから。そしてそれ以上に――誰かと一緒に食べる料理に
無論、学校の昼食や休日の外食など、友人と食事を共にする機会自体はそれなりにあった。しかしそれらは真昼が無自覚のうちに募らせて続けていた寂しさを
「……と、というわけです……ごめんなさい、約束、勝手に破っちゃって……」
本人もいつの間にか当たり前になっていて失念していたとはいえ、思わぬところから発覚した
「『鍵を
「うっ……」
指摘され、真昼は椅子の上で小さく縮こまる。
念のため補足しておくと、真昼が一人暮らしを始める際に買ってもらった電子レンジは彼女が中等部三年生の頃に故障し、それ以来壊れたまま買い替えていない。このことも真昼と夕が現在のような関わりを持つようになったきっかけの一つなのだが……。
「……その、ただでさえ無理言って一人暮らしさせてもらってるのに、余計な迷惑は掛けちゃいけないと思って……」
「まったく、変なとこで気を遣うんだから……それでお隣さんのお世話になってるんじゃ、迷惑を掛ける矛先が変わってるだけでしょう?」
「うぐっ!?」
母の正論に
「まあでも、結果として料理を教えて貰えたなら良かったじゃない。それに約束を破ったって言っても、
「! う、うん!」
どうやら思ったよりもあっさりと真昼の自炊生活は認められたらしい。このような
おそらくそういった思いで頷いてくれたであろう母は「ね、あなた?」と隣に座る父・
「……真昼、一つ聞かせてくれ」
「? な、なに?」
一方、ずっと黙って真昼と明の会話を聞いているだけだった父は、珍しくとても真剣な顔をして真昼に問い掛ける。
「明言していなかったが……そのお隣さんというのは女性か? それとも――男か?」
「えっ? えっと……だ、大学生のお兄さん、だけ――」
ど、と言い掛けた真昼の声は、ガタンッ! と勢いよく椅子を蹴って立ち上がった父の挙動によって遮られた。
「だ、駄目だ駄目だッ!? そ、そんなのは許可できんッ!?」
「え、ええっ!?」
「嫁入り前の娘が、よりによって男の部屋に上がり込むなんて……あり得んッ! なあ母さんッ!?」
「いや、別にいいじゃない。特になにかされたってわけでもないんでしょう?」
「あ、当たり前だよっ! お兄さん、すっごく優しくていい人なんだからっ!?」
しかしそんな明の反論と真昼の言葉は、「いいや、駄目だッ!」とテーブルの上に手をついてブンブン首を振る冬夜の大声にかき消される。
「真昼、一人暮らしの
「!?」
言葉を受け、瞬時に嫌な予感を覚える真昼。しかし制止の声を上げるより早く、父は張り上げた声で宣言した。
「『
「……!」
――絶望の
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