第六五食 寝過ごし女子とおそうめん
★
簡潔に状況を述べよう。
――家に帰ったら女子高生が俺の布団で寝ていた。
「(どういう状況だよ!?)」
頭の中で自分にツッコみつつ、しかしそれ以外形容のしようがない我が家の状況に俺はその場に立ち尽くしていた。視線の先では窓際に畳んであった俺の布団で女子高生改め
「お、おい真昼?」
「ん……むにゃむにゃ……も、もう食べられないですぅ……」
「いやそんな
良かった、暑い部屋の中――それも日の当たる窓際なんかで寝ているからもしや熱中症にでもなってしまったのではと心配したが、本当にただ眠っていただけだったようだ。
「にしてもよくこんなところで寝られるな……おーい、起きろって真昼」
「んぁ……ぁ、お兄さん……おかえりなさい……」
「お、おう。というか寝汗すごいぞ……って!?」
「……? どうしたんですかお兄さん……急に顔背けて……?」
寝ぼけ
「ま、真昼っ、服、服!」
「ふく……?」
俺の慌てた言葉を受け、背後の真昼が自らの格好に目を向ける気配。そして数秒の沈黙の後――
「☆※○%◇#□&△§~~~~~ッ!?」
――汗でシャツが透けてあられもない姿になっていた少女の絶叫が俺の部屋に大反響した。窓が開いていなくて良かった、もし単身者用アパートに住まう男の部屋から女の子の悲鳴が聞こえてきたりしたら、正常な人間なら間違いなく通報するだろうから。
……そういえば以前彼女の部屋で見たのと同じ柄だったなあ、という感想は、お互いのために一刻も早く頭から
★
「本当に熱中症とか危ないから、寝るにしてもクーラー付けてからにしなよ。好きに使っていいから」
「は、はい……うう……」
一五分後。俺はしゅんと小さくなっている真昼に真面目なトーンで注意していた。
先ほどはハプニングもあって流してしまったが、夏本番に閉めきった部屋の中で眠ったりしたら熱中症や脱水症状を引き起こしかねない。実際彼女はシャツが透けてしまうほど発汗していたわけで。
俺の帰りが早かったから良かったものの、もしかしたらうっかりでは済まない事態になっていたかもしれないのである。
「……まあ、なんともなくて良かった」
「お兄さん……。……心配かけてごめんなさい」
「うん。さ、いいから食べな」
「はい……」
真昼がアレな格好になってしまったこともあって、結局昼食は彼女が部屋で着替えている間に俺が用意することになった。といっても実家から大量に送りつけられてきたそうめんを茹でただけだが。
「うぅ~……本当は私がご馳走を作る予定だったのに……まさか寝ちゃうなんて……」
「いや、そんなに張り切らんでいいし。もしかして寝不足か? そういえば昨日の夜、結構遅くまで起きてたような気がするけど」
「えっ!? な、なんで知ってるんですか!? た、たしかに昨日は
「壁越しに声が聞こえただけだよ。ここの壁結構薄いからな」
「ご、ごめんなさいっ!? もしかして私、お兄さんの勉強の邪魔を……!?」
「いやいや、全然そんなことはないよ」
気遣い屋な少女に笑いつつ、俺はザルに盛られた冷たいそうめんを箸でとって食す。栄養価はともかく、やはり夏場の冷やし麺は食べやすくていいものだ。
「でもそんな遅くまでなんの話してたんだ?」
「えっと、夏休みの予定のこととか宿題のこととかですね。あっ、あとは帰省の話も」
「ああ、そういやこないだちらっと言ってたな。いつ頃帰るんだ? やっぱ盆?」
「はい、そのつもりです。お兄さんは帰らないんですか?」
「んー……決めてないけど、帰るにしても盆は混むから嫌だなあ。まあなんにせよ、俺はまず試験乗り越えないとだし」
「頑張ってくださいねっ! 私も頑張ってお料理しますから!」
「じゃあまずは寝過ごさないようにならないとな」
「うぐっ!? み、見ててください! 明日はぜーーーったいご馳走作って待ってますから!」
ムキになったように片手を振り上げて宣言した真昼に、俺は「そうかそうか」と期待しすぎない程度に返しておく。
正直一人暮らしをしていると家に帰った時、そこに誰かが居てくれるというだけでもちょっと嬉しく感じたりするのだが……それは言わないでおこう。
そんなことを言ってしまったら、また優しい彼女に余計な気を遣わせてしまうかもしれないからな。
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