第四五食 女子高生とお泊まり会①
★
「まひるー。今日まひるんち泊まりに行ってもいいー?」
「え?」
雑談の中で突然そんなことを言われ、
「私ー、今日家に親居なくってさー? だから泊まりに行ってもいいー?」
「……普通そういう場合って自分の家に誘うもんじゃないの、アキ?」
「うちに来たってなんにも面白くないもーん」
眼鏡女子こと
「そんな急に言われたらひまも困るでしょ? 大体、そういうのはせめて週末とかにしなよ。今日月曜だし」
「なんでさー? 平日に泊まった方が一緒に登校とか出来てもっと楽しいじゃんかー? ねー、まひるー?」
「うーん、確かに楽しそうではあるけど……」
肯定的な言葉を口にしつつも悩むような仕草をする真昼に、亜紀は駄々っ子のように頬を擦り寄せてくる。
「おーねーがーいー! いいじゃーん、ひよりだってよく泊まりに行ってるんでしょー?」
「それはこの子の部屋を片付けに行ってるんだってば。あんたも泊まりに行ったら驚くよ? ほんっっっと汚いから、この子の部屋」
「ひ、ひよりちゃんっ!」
援護射撃に見せかけて思いっきり自分の背中を撃ってきた友人に抗議するも、ジロッとした目を向けられ「本当のことでしょ」と一蹴されてしまう。実際、真昼の部屋はなにかの呪いでも掛けられているのかというほどの汚部屋なので、月に一度くらいのペースでひよりがやって来ては片付けをしていた。……それでもすぐに真昼が散らかすので、その度に〝母〟たる少女からお説教を食らうハメになるのだが。
しかし、それを聞いた亜紀は「ふへぇー?」という呟きとともにむしろ瞳の輝きを増した。
「そんな汚いんだー? 逆に見てみたいんだけどー。雪穂はー? まひるの汚部屋見たことあんのー?」
「だから汚くないよっ!」
「前一回だけひよりと一緒に泊まりに行ったことあるよ。……そんで『もういいかな』ってなった」
「雪穂ちゃん!? わ、私の家ってそんなにつまらなかった!?」
「いや、つまんないつまんなくないじゃなくて、ただただ汚いって話をしてるんだってば」
当時の真昼の部屋の惨状を思い出しているのか、雪穂はどこか遠い目をして休み時間の教室を見回す。視線の先にいるのは、彼女らとよくつるんでいる二名の男子――の片割れだった。
「……あの時ばかりは、あんたに幻想抱いてる男子が可哀想になったよね……」
「どういうこと!? ち、違うって、今は本当に綺麗なんだよ私の部屋!」
「ハハッ、ソウナンダ」
「なにその乾いた笑い!? 絶対信じてないよね!? ほ、本当なのっ、本当に昨日片付けたばっかりなんだってば!?」
「ひま。……嘘は良くないよ」
「ひよりちゃん!? そんな真顔で断言するほど!? 私が掃除をするのってそんなに信じられないようなことなの!?」
あまりの信用のなさにいよいよ涙目になる真昼に、ひよりと雪穂の二人は困惑した様子で目を見合わせる。
「えっ……も、もしかして……
「い、いやいや、まさかまさか……あ、あのひまが自発的に部屋掃除なんてするわけないじゃん……まだ『明日世界が滅ぶ』って言われた方が信じられるよ」
「な、なんで信じてくれないの!? もういいもんっ! ひよりちゃんと雪穂ちゃんのばかっ!」
ぷいっと顔を背けてしまった真昼に、亜紀が「おーよしよーし、酷い人たちでしゅねー」と赤子か子どもでもあやすかのようにその髪を優しく撫でる。
「……二人ともー、いくらなんでも酷くないー? ちょっとくらい信じてあげなよー」
「い、いやごめん……そ、その子と知り合って結構長い付き合いになるけど、こんなこと今まで一度もなかったから……」
「まひる、わ、悪かったってば。ジュース奢るから許して、ねっ?」
事情を知らない分
そんなこんなあって結局彼女たちはこの日、三人揃って真昼の家に遊びに行くことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます