第二食 自炊男子と女子高生②
「すみません、お邪魔しちゃって……」
「あー、気にしないで。汚い部屋で悪いけど、適当に
「ありがとうございます」
自分の部屋から閉め出されたお隣さんの女子高生に出会った俺は、アパートの管理会社の人がマスターキーを持ってきてくれるまで待つ間、彼女を家に上げてやることにした。……勘違いしないでほしいのだが、断じて俺が無理やり連れ込んだわけではない。
だってその場で管理会社に連絡をしたまでは良いとして、「じゃあ引き続きそこで体育座りして待っててね」なんて言えないだろう。社交辞令的に「うちで良ければ上がって待たれますか?」くらいは誰でも口にするはずだ。……まさか「じゃあ、お邪魔してもいいですか?」と返されるとは思ってもみなかったが。
いや、俺は家に上がられたところで迷惑するわけでもないので一向に構わないのだが……お隣さん同士とはいえ、女子高生が初対面の男の部屋に上がり込んでしまって大丈夫なのだろうか。
それとも最近の高校生というのはこういうものなのか? 誰にでもホイホイついていってしまうのか? 俺も二年前までは職業:高校生だったはずなのだが、えらく意識に違いがある気がしてならない。これが
なんだか急に老けたような気分になった俺が遠い目をしていると、用意した座布団の上にちょこんとお行儀良く正座した女子高生が口を開いた。
「あの、お兄さんは大学生なんですか?」
「ん? ああ、そうだよ。そういう君は高校生?」
「はい。
「やっぱり歌種か、制服見てそうなんだろうとは思ってたけど。俺の大学も歌種だよ。歌種大学」
「えっ、そうなんですか?」
「おう」
歌種高校は、ここから徒歩で一〇分くらいのところにある私立高校だ。いわゆる中高一貫校で、ついでにうちの大学の附属高校なので中学に入ってしまえばそのまま内部進学で大学まで進めることから、ここらではそこそこ人気の学校である。もっとも俺は地元の高校から一般入試を受験して歌種大学に入学した外部生なので、
すると、
「大学ってどんな感じなんですか? 高校とは全然違うんですよね?」
「そうだなあ。ゼミとか以外は基本的にクラス分けとかないから、友達作るのが結構大変だったりするよ。その分時間割とかは自由だけどな」
「ほへぇ~。私の友達のお兄さんも歌種大学らしいんですけど、その人も――」
丁度その時、台所の方からピーッ、ピーッ、という電子音が聞こえてきた。「わっ?」と驚いたように振り返る女子高生。
「悪い、炊飯器の音だ。
「えっ。お兄さん、自分でご飯作ってるんですか?」
「ああ。といっても、自炊歴半年くらいだけどな」
一回生の前半まではコンビニ弁当ばかりの生活を送っていたことを思い出しながら答えると、少女はなにやらキラキラした瞳で「いいなぁ……」と呟いた。その様子に首を傾けると、彼女は照れ笑いのような表情を作る。
「うちは炊飯器とかないので、ほかほかのご飯って食べられないんですよね……」
「えっ、マジで? じゃあ飯はどうしてるんだ?」
「コンビニのお弁当とか、スーパーのお総菜とか……」
「ええ……?」
それじゃ栄養が
「……良かったら食ってくか? 大したもん出せないけど……」
「えっ!?」
なんとなく言ってみただけだったのだが、女子高生は一瞬ぱあっ、と明るい表情を見せ――直後、はっとしたようにぶんぶんと首を振る。
「い、いえっ。流石にそこまでお世話にはなれません。お気持ちだけいただいておきま――」
きゅるるるるぅ~……。
タイミング悪く、いや、ある意味最高のタイミングで可愛らしい仔犬の鳴き声のような腹の音が狭い室内に響いた。二秒遅れて、女子高生の顔が面白いほど真っ赤に染まる。
「……良かったら、食ってくか?」
なんとなく目を逸らしてやりながらもう一度問うと、うつ向きながらふるふると肩を奮わせる少女はコクン、と小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます