第174話

 なんで志摩にエスパーニャ。

 三重県下において遊園地と言えば北は長島スパーランド、中部は鈴鹿サーキット、南部はといえば伊勢忍者キングダムかここパルケエスパーニャになる。


 うん。


「伊勢忍者キングダムとかすごいパワーワードなんだけれど。いつの間に改名したんだよ伊勢戦国時代村」


「だいぶ前から変わってたぞ?」


「にゃんまげにとびついてた頃の記憶しかねえよ」


「どんだけ前なんだよ」


 なんか青年雑誌の看板張ってそうな名前に変えた忍者村はともかく。

 三重県住みの家族が子供にせがまれて行く遊園地はこのどれか。そのうちのひとつ、最も南にある、西洋を模した遊園地に俺たちは降り立っていた。


 志摩スペイン村パルケエスパーニャ。


 近鉄資本が入っているのでなんだかんだ長いことやってんだよな。

 バンバンCMも打ってるし、近鉄の駅で宣伝もしている。

 有名人なんかのライブもやってるから、この不景気なご時世に潰れていない。

 そも、志摩自体が関西地方の金持ちの保養地みたいな場所なので、そこそこ観光客見込めるってのも大きいんだよな。


 それでなくても、アトラクションも本格的だし。

 建物の造り――というか町並みや景観の造りからしてスペインを意識して作られていて、マジで異国に来たみたいなんだよ。


 いや、志摩なんだけれどね。

 ど田舎なんだけれどね。


 ほんともう、ここに使う金の何割でも、もうちょっと志摩の町並みに使えばいいのにと思ってしまうくらい、凝っているのよエスパーニャ。


 まぁ、夢の国やユニバーサルスタジオには負けちゃうけれどさ。


「ふぁーっ!! なにこおー!! すごーい!! えいがのなかみやい!!」


「すっげー!! なんだこれなんだこれ!! あっ、ジェットコースターがある!! たっけー!! なんだあれ、めちゃたけー!!」


「ピレネーって、最高長記録抜かれたんだっけ?」


「どうだっけ、あんま遊園地いかないからなぁ」


 開園当時、最高、最長、最速を売りに作られたジェットコースターは今も健在。ただ、記録についてはどうなっているのか定かではない。

 あれより俺は、室内ジェットコースターの方が好きなんだけれどね。


 とまぁ、そんな感慨はともかく。


 入園するなり、テンション上がりっぱなし。

 異国情緒に当てられたちぃちゃんと光ちゃんは、やいのやいのとはしゃいでいる。そんな彼女たちをメインで世話するのは、俺と廸子と九十九ちゃん。


 他の四人は――。


「ほら、走一郎!! ちゃっちゃとついてきて!! 明るいうちに写真撮るわよ!! こんなのインスタ映え間違いなしじゃない!!」


「もう、待ってよ夏っちゃん」


「昼から太陽の下で飲むビールの旨さよ」


「帰りの運転は私と陽介くんが頑張るので美香さんは気にせず飲んでくれ。さぁ、お姫様、どこへ行こうか。ビールと共にどこへでもついて行こう」


「あらまぁ、頼りになる騎士さまだこと。素敵だわ、実嗣さん」


 ビールを両手に持ってついてくる騎士とか悪い冗談だろ。

 いやまぁ、悪い冗談みたいな騎士が、マスコットキャラクターだけれど。


 ビールを両手に持った実嗣さんと、それを引き連れて練り歩く美香さん。

 走一郎くんに自分のスマホを持たせて、めっちゃ気合いの入った清楚系ワンピースを振りまいて歩く夏子ちゃん。


 二人とも、ほんと逞しいな。

 女と書いてゴリラって読むな。

 そして、それに付き合わされる男達、強く生きろ。


「それに対して、廸子のなんと優しいことよ」


「な、なんだよあらたまって!!」


「廸子、金髪でもいいし、ヤンキーでもいいんだ。どんな見てくれでも、その優しさを忘れないでくれたなら、俺はそれでもう満足だよ」


「だからなんなんだよそのノリ!!」


 さりげなく近寄ったら叩かれる。

 ちょっと暴力的だけど、廸子はあんな風に理不尽なことは言わないからな。

 大和撫子の権化みたいな女だよ。


 金髪三十路ヤンキーだけれどさ。


 はーもう、と、ため息を吐き出す廸子。

 そんな彼女の目を盗んで、駆け出すちぃちゃんと光ちゃん。

 こらこらダメですよと九十九ちゃんが追いかけてくれたがこれは失態。


 今日は俺たちが、ちぃちゃんたちの面倒を見るのだ。


「おっさん!! あの高いジェットコースター乗ろうぜ!!」


「のろーぜぇ!! よーちゃん!!」


「あー、ちぃちゃんたちはしんちょうがたりないからこわいけいはむりかな」


「なんだよ意気地がねえなぁ!!」


「ようちゃんはへたれだからな、しかたないな。ひかいちゃん、ちぃたちだけでいくことにしよう。よわむしはおいていくのだ」


「だからそういうことじゃないからね」


 やだやだジェットコースター乗るのと駄々をこねるちみっこ達を抱え上げる。

 ほんともう元気いっぱいに俺の身体を叩くからいやになっちゃうわよね。

 ルールだっていってんでしょうが。


 乗ろう乗ろうとうるさいちぃちゃんたちを抱えて、よさそうな乗り物を探す。

 子供で乗れて、そこそこ楽しめる乗り物となると――。


「意外とないな」


「エスパーニャって割と大人向けのアトラクションが多いよな。無難なの観覧車とメリーゴーラウンドくらいしかないっていう」


「もう少し、ひらかたパークを見習ってもらいたいものです」


「国内資本系で最大級の遊園地を出されても困るよ」


 こちとら日本の辺境と称しても過言ではない三重。

 さらにそこでも秘境とも言える志摩ですよ。


 いや、玉椿よりはましだけれどさ。

 なんもない玉椿よりは、ちゃんと近鉄通ってるだけマシだけれどさ、志摩。

 ただまぁ、そんな場所に多くを求められても困るってもんでさぁな。


 三重県にロマンを求めるのはやめていただきたい。

 ここには四半世紀遅れのモノしかないんですから。

 いやほんとマジで。


「九十九ちゃん、ひらかたパークってなに?」


「……本気ですか、廸子さん?」


「マジで言ってるぜ九十九ちゃん。いいか、三重県民にとって、遊園地として認識されているのは、ナガシマスパーランドとここだけなんだよ」


「え? 東のディズニー、西のエスパーニャだろ? 違うの?」


 全然違うよ。

 他にも大きな遊園地いっぱいあるよ。

 そんでもって、西の一つ選ぶなら、まず間違いなくユニバーサルスタジオジャパンだよ。間違ってもフラメンコの陽気な音楽が流れる色物遊園地じゃねえよ。


 これが三重県に生まれ、三重県で育ち、三重県で生きることを選んだ者の姿。

 世間から隔絶されて、三重という優しいゆりかごで生きる、三重県民の正体。


 こっちを信じられないものでも見るような顔で見てくる九十九ちゃん。

 そんな顔しないでと、俺は静かに顔をスライドさせるのだった。


 やっぱ、一度は三重県人も県外に出て働かないといかんな。

 世界はもっと広いのだ。


「えー、えすぱーなって、でぃずにーのらいばるじゃないのー」


「めっちゃCMやってるじゃん!! エスパーニャ!! 嘘だろー!!」


「そうだそうだ!! めっちゃCMやってるじゃん!! 超有名じゃん!! というか、他にこの日本に遊園地なんてあるのかよ!!」


 あるんだよ、いっぱい。

 頼むから子供と一緒になって志摩スペイン村ナンバーツー理論を振りかざすの辞めて。そのCM流れているの三重と関西の近鉄系列スポンサー番組だけだから。


 まだ関西では、かに道楽のCMの方が流れてるよ。


「……聞き捨てなりませんね、ヘビー名誉ひらパー民の私を前にして、日本二大遊園地の名をかたるとは」


「九十九ちゃんまで張り合いだしたらキリないでしょ!! はい、やめ!! この話はなし!! ここでおしまい!! みんな、アルカサルに乗りましょう!! あれは子供から大人まで楽しめる奴だから!!」


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