第17話
「じゅっくじゅっくの熟女が出てくるエロ本ください!! じゅっくじゅっくのとろけるような熟女が出てくる奴ください!! ババアくらいの年齢ので!!」
「……どうした陽介。ついに、お薬の効果が切れたのか?」
ははは、廸子ちゃんてばまーたそんな辛辣な。
切れてたら俺はお家の外に出れてませんがな。
効いているから、こうしてまだ外に出る愛と勇気が湧いてくるんじゃないの。
なんか言ってて、ヤバいクスリきめてるみたいだな。
俺が飲んでる薬は安心安全。
厚生労働省認可のジェネリックだから大丈夫。
しかし、今日の俺のメンタルは大丈夫ではなかった。
久しぶりに身を焦がすような怒りに、俺の心は燃えていた。
なぜか――。
じゅっくじゅっくの熟女のエロ本を欲している所から、賢明な紳士淑女の諸君は察していただけるだろう。
そう、君たちの想像した通りだ。
誰だって、このような理不尽に遭遇すれば、じゅっくじゅっくの熟女のエロ本を購入しなくてはならないという義憤に駆られることだろう。
「親父にスマブラでゴリラで嵌め殺し喰らいまくったんだよ!! あいつの抱え自爆反則じゃねぇ!! 64の時から思ってたけれど、反則じゃねぇ!!」
「……それが、エロ本、と、どうつながるんだよ?」
「親父がこんなエロ本を隠してましたと、お袋にチクって成敗して――へぷ!!」
皆さん、なんで俺が廸子に殴られたか分かるだろうか。
俺にはどれだけ考えても分からない。
分からないけれど、くだらないことしてるんじゃねーという、割と本気で怒った目を廸子がしているのは分かった。
うん。
ごめんね、大人気なかったね。
親父の部屋漁ればエロ本なんて普通に出てくるよね。
こんなあさましい、そしてくだらない復讐のために、貴重な夏目さんを使うなんて俺は冷静じゃなかった。
家に帰って、親父の部屋を漁ろう。
そりゃともかく。
「ほんと、お前とおじさんはなんてーか、仲が悪いというか、逆に一周回っていいというか」
「一周回ったら悪いままじゃねえ?」
「いや、慣用句だろ。不思議な関係だよな。ニートのこと怒ってるけど、別にすぐ仕事しろとか言ってるわけじゃないし。こうして、平日に一緒にゲームしてるし」
「まぁ、親父もね。いろいろとやらかし人生歩んできてるからね」
うちの親父はろくでもない。
廸子んちの爺ちゃんは、ろくでもないけどとんでもない。
だから、まぁ、なんとか人間としての尊厳を家庭の中で保てている。
だが、うちの親父は本当にろくでもない以外の何物でもない。
なので我が家のヒエラルキーでは俺の一つ上だ。
だいたい、再就職先が関連企業の警備員とか、清掃員とか、食堂スタッフとかじゃなくて、まったく関係のないホームセンターの清掃員という所でお察し。
つまるところ、このおっさん、転職ばかりしていて、まるで人脈がない。
町を出ると、社会的な地位がまるでない。
社会人として大丈夫なのか。
よくここまでそんなんでやってこれたな。
逆にそれが不思議で仕方ないわ。
――という男なのだ。
ぶっちゃけ、うちの家計はお袋の仕事によって支えられている。
お袋が居なかったら、俺はこの町を一時的に出ていくことはできなかったし、ババアもちぃちゃんを産むことができなかっただろう。
おためごかしはよそう。
我が家のパワーバランスは以下の通り。
お袋>ババア>ちぃちゃん(かわいいから)>親父>俺
悲しいかな。
最底辺なのよね、俺。
しかも上位が女性陣。
とほほ、こりゃ男には生きづらいお家ですわ、豊田家は。
そりゃじゅくじゅくの熟女エロ本くらい買っててもおかしくないですわ。
という感じで、仕掛ける罠は完璧だったんだけれども――なぁ。
「おじさん、そこまで嫌われることないんじゃないの」
「いや、ゴリラ投身自殺拳は許せん!! ちいちゃんの、吸い込み落下拳は可愛いから許すとしても、親父のゴリラはゆるせん!! あとスマッシュヒットも!! いい歳して、めっちゃ練習してんだよ、アイツ!! 暇だからって、家帰ってきたら、ずっとゲームばっかりしていやがるんだよ、アイツ!!」
「どうどう。そりゃ、ちぃちゃんのためにちょっとくらいは頑張ろうって、そういう感じになるじゃない」
百パーセント、俺をいじめるためだよ。
昔からあのクソ親父は、俺に対して容赦がなかったんだよ。
64の時も投身自殺拳使いまくってやがったしな。
もう、あれから二十年だっていうのに、まったく成長がないんだから困る。
たまにはもっと、違うキャラクター使ってみろよ。
知ってるんだぞ。
親父が、パワー系以外のキャラクターは使うの苦手だってこと。
パワーよりテクニックで推すタイプのキャラクターが苦手だってこと。
そういうの持ってこいよな。
毎度毎度、ゴリラでウホウホして恥ずかしくないのか。
まったく。
「まぁけど、家族でそういうのやれるだけ陽介のところは仲いいよ」
「……まぁな」
おっと藪蛇である。
廸子の家には、両親が居ない。いるのは爺ちゃんだけだ。
理由については――まぁ、知っているが、あんまりおおっぴらに話すようなことではない。ただ、廸子がセンチメンタルになるような、そんなことが過去にあったのは事実である。
家族でゲームなんて、別にそんな羨ましいものなんかじゃないのだけれど。
そして、限りなく、ゴリラ自殺拳を繰り返してくる、親父は鬱陶しいことこの上ないのだけれど。
けど、廸子が羨ましく思う気持ちも俺には分かる。
そうだよな、廸子――。
お前も、家族と一緒に遊びたいよな――。
「今度、休みの日に、遊びに来いよ」
「え?」
「いっしょにやろーぜ、スマブラ。まぁ、ゲーム音痴の廸子ちゃんだから、ハンデはつけてあげますよ。けど、まぁ、俺の黄色ネズミの電光石火についてこれるかな」
「……へぇ、言ったな」
嬉しそうにほほ笑む廸子。
働いてばかりじゃつまらない。
まぁ、たまにはそういうご褒美だって、あってもいいんじゃないかなって、俺は思うんだ。
三十歳で、家でゲームってのはちょっとどうかなって感じではあるけどさ。
「……ところで、スマブラってなに?」
「……え?」
「……いや、私、家の事情で、ほら、あんまりゲームとか持ってないから。あれか、トランプの新しい遊び方? 投げたりする奴?」
……前言撤回。
こりゃ、面白いことになるぞ。
その後、ちぃちゃん、親父、乱入してきた廸子の爺ちゃんを交えて、大乱闘なゲーム大会が夜まで行われたのは、言うまでもないだろう。
負け続けて涙目の廸子。
けど、その横顔には少しの憂いもなかった。
うん。
たまにはこういうリフレッシュも大切だよな。
「だーもう!! ぜんぜんかてねー!! もう一回!!」
「やるやるー!!」
「廸ちゃんてば根性あるねぇ。おじさんびっくりだ」
「いよっしゃ、廸子、やってやれぇ!! 神原の意地を見せてやれ!!」
「……廸子ォ!! リアルでボコられてる借りを、今、ここで返すぜ!!」
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