親友の恋

25.よくあること

 好きな人がいるのに無自覚だという状況は、僕には理解できてなかった。

 好きって感じたら判るんじゃないのか? 無自覚ってなんだ? って思ってた。


 けれど目の前で、まさに無自覚っぽくそばにいる人を好きなんだろうなという現象を見せられては納得しない方がおかしい。


 どうやら、松本は水瀬さんが好きなようだ。


 他の女の子相手には一歩距離を置いてるのに水瀬さんだけはわりと密着状態でも気にしてない。

 水瀬さんがわりと他人との距離が近い人ってのもあるけど、松本がそれを許容してるところがポイントだ。


 けど本人はそう思ってないらしい。

 おまえ誰か好きな人いるだろ? って遠回し(?)に尋ねても、別にいないけどと返される。


「松本って水瀬さんのこと好きだよなぁ」

 紗由奈に尋ねてみた。

「そうだね、多分無自覚だろうけど」

「あ、やっぱりそう思う?」


 二人で紅茶を飲みながら、そういえばあの時もこの時もと松本の言動が水瀬さんを想ってるんじゃないかと盛り上がった。


「それにしても、なんで気づかないかな。自分の気持ちなのに」

「そばにいるのが自然で、特別な感情って気づきにくいのかもよ。わりとよくあることじゃないかな」


 もし松本と水瀬さんが付き合ってて、その関係で僕と紗由奈も仲良くなっていってたら、もしかしたらそういう感じになったかもしれないよと紗由奈は言う。


 実感はないけど「当たり前のようにそばにいて仲良くしてる」っていうのはグループで遊びに行ったりとかそれなりに経験してきたから理解できる。


「あと、松本くんって人をくっつけて楽しんでるというか喜んでるみたいなところあるから自分にはそんなに興味ないのかな、とか」

「僕らが十組目らしいからなぁ」

「新たに一組お世話してたっぽいよ」

「マジでっ? すごいな」


 そのうち縁結びの人とかって頼りにされそうな勢いだな。

 半分は別れてるみたいだけどそれは松本がネタにしてるだけで、あいつとは関係ない話だしな。


「水瀬さんもいい人だし、うまくいってくれたらいいんだけどなぁ」

「まずは松本くんが『俺が好きなのは水瀬さん』って自覚するところからじゃない?」

「どうやったら自覚すると思う?」


 ティーカップを両手で包み込むように持ってじっと見つめながら紗由奈はうーんとうなった。


「二人だけで一緒にいる時間がもうちょっと増えたらいいんじゃない? あるいは逆に、いないことが寂しいって思うような状況とか」


 水瀬さんはわりと賑やかな人だから、いないとなると寂しいかもしれない。

 けど無理に会うのを避けさせるなんてことはできないし、やりたくない。


 やっぱりここは、二人だけの時間を増やす方向で手助けしたい。


 それ自体はそんなに難しいことじゃない。でもその前に確かめておかないといけないことがもう一つあった。

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