第9話 ステータス
「先輩。鬼龍院先輩」
「う……ん……君は……え? 木? な、なんだここは!? 図書室にいたはずがいったい……」
「2年B組の土御門 優夜です。えーと……図書室で鬼龍院先輩の隣で本を読んでたら、突然地面が光って気が付いたらここに……」
僕は目が覚め周囲を見渡し驚いている先輩に対し、ストーリー通りの説明をした。どうやら先輩は僕と違い図書室で召喚される体験をしているようだ。
「ハッ!? そうだった! 突然足もとが光って……しかしなぜ森に? 土御門君だったな? ここがどこだか心当たりは? 」
「いえ、まったく……見たこともない大きな木に植物です。あの光といい、まるで小説やアニメなどに描かれている異世界に来たかのような……」
僕は僕が創った世界だと悟られないように、そしてそれとなく異世界であることを匂わせる言い方をした。
「確かに見たこともない木に植物だ……異世界か……確かにそんなアニメがあったが……いやしかし……そんな……」
「意外ですね。鬼龍院先輩もアニメとか見るんですね」
僕は剣以外は興味がなさそうな先輩が、アニメを見ていたことを意外に思いそう言った。
「私だって小さい頃はアニメを普通に見ていたさ。剣の稽古の合間の時間だけだけどな。しかしこの状況……まさに召喚されたような展開だな」
「そうですね。小説やアニメだとここでステータスとか言うとウィンドウみたいなのが現れ……あ……出た……」
少し強引な流れだけど、僕は偶然を装ってステータスを出してみた。ちゃんと驚いている顔ができてると思う。
小さい頃から父さんの珍しいだけの残念なお土産物を受け取る時に、父さんを傷付けないように驚いていたんだ。母さんの指導のもと練習だってした。だから大丈夫なはずだ。
でもまさかお土産物以外でこの特技を使う機会があるなんて夢にも思わなかった。あ、ここは夢の世界か。
「む? 何が出たと言うのだ? 」
「鬼龍院先輩、ステータスと言ってみてください」
僕は特技が通用したことに安心して、とりあえずステータスと唱えてもらえるように言った。
「ステータス? それがなん……なんだこれは!? 」
「まるでゲームのようですよね。でもどうやら自分以外は見えないようです」
僕は虚空を見つめ驚いた表情の先輩へそう言いつつ、自分のステータスを確認した。
土御門 優夜
Lv.1
職業: 賢者
HP: 28
MP: 30
力: 12
防御: 12
魔力: 15
素早さ: 13
SP: 0
魔法: 生活魔法 火球 風刃 プロテクション ヒール
スキル:空間収納(小)
加護: 創造神の加護(神ショップ利用可能)
【神ショップ】 0
良かった。魔法もスキルも加護も修正されてなさそうだ。
ステータス画面の横にはドリームタイムの残り時間も表示されてる。
神ショップは……アイテム価格が食糧以外はかなり高くなってる。
ちなみに食糧は、ハンバーガーセットが1つ500Zとなってる。これはゴブリン1匹の魔石を換金した価格だ。
「レベル1に侍? このHPというのは確か……体力や生命力だったか? MPは魔法かなにかを使うのに必要なものだったと記憶している」
「ええ、ゲームだとそうですね。HPが0になる死んでしまうんだと思います。鬼龍院先輩はゲームとかもやられるんですか? 」
「昔に少しな。従兄弟がゲーム好きでレベル上げというのを手伝わされたことがある。その時に見た表示に似ているな」
それは多分ドラグーンクエストだと思う。かなり似た設定にしちゃったし。
僕はそれから先輩のステータスの内容を聞いて、ほぼ設定通りのステータスであることに安心した。
先輩から聞いたステータスはこんな感じだった。
鬼龍院 小夜子
Lv.1
職業: 侍
HP: 30
MP: 6
力: 18
防御: 18
魔力: 0
素早さ: 23
SP: 0
職業スキル:
スキル:空間収納(小) 身体強化(弱)
加護: 刀神の加護(刀神への昇格可能・HP減少時素早さ上昇)
スキルの身体強化には強弱設定していなかったはずなんだけど、そこは修正されたみたいだ。やっぱり力と防御と素早さが最初から3倍になるのは駄目だったみたい。弱だと1.2倍くらいにはなるのかな?
「僕は賢者ですね。魔法が使えます。その代わりHPとかは低いので後方支援の職種ですね」
「土御門君は魔法が使えるのか……本当にゲームのようだな」
「そうですね」
ゲームを参考にして書きましたから。
「なんとも不思議な現象だな……それとこの空間収納というのはなん……ん? 何か現れたぞ? 」
先輩がステータス画面を真剣な表情で眺めながら、空間収納と言うと目の前に直径60cmほどの黒い渦が現れた。
「恐らくその中に物を入れたり出したりできるのかと。小説なんかでは初心者セットみたいなのが入っているんですけどどうでしょう? 『空間収納』……あっ、何かありますね」
僕は警戒している先輩の隣に行き、同じように空間収納のスキルを発動した。その瞬間、MPが1減った。
そして黒い渦に僕は手を入れ、中に入っている大きなバッグを取り出した。そのバッグには1mほどの杖がくくり付けられていた。
「そんな物が中に……」
「鬼龍院先輩の所にも入ってると思いますよ? 取り出してみてください」
「あ、ああ……」
先輩は恐る恐る手を黒い渦に入れ、僕と同じように大きなバッグを取り出した。そのバッグには僕と同じように武器である刀がくくり付けられていた。
「中身はローブと革のブーツに水筒に干し肉かな? それとナイフにこれはテントの形をしてるけど小さいですね。なんだろ? 」
僕の両手には、ピラミッドの形をした30cmほどの茶色い箱がある。これは魔力を流すと2mほどの大きさになる隠蔽と結界機能付きマジックテントなんだけど、最初から知ってるのも怪しいので僕は知らないフリをした。
ちなみにこのマジックテントの中は空間が拡張されていて、バストイレ別の広い1Rの部屋になっている。電気や水道も通っていて、それらは魔石を入れると使えるようになる。
でもマジックテントを初期装備に入れるのを修正されなくて良かった。神ショップで買うとかなり高いマジックアイテムなんだよねこれ。これでトイレやお風呂の心配をしないで済むよ。
「私のところには刀に道着に袴。それに革のブーツに小太刀。土御門君の持っているテントのような物は入っていないな。ほかは同じ物があるようだ」
「ほんとにゲームみたいですね。でも魔法やレベルに武器があるということは……」
「ああ、そういう物が必要な所ということなのだろうな。まさかゲームのように魔物が出たりはしないだろうな……いずれにしても、まずは着替える必要がある」
「そうですね。ここまでゲームみたいですと、魔物とか何か危険な生き物がいるかもしれませんね。何が起こるかわからないので、ここで着替えた方がいいと思います。あっ! ぼ、僕はあっちを向いて着替えてますから。の、覗いたりしませんので! 」
僕はそう言って少し離れた場所で先輩に背を向けた。
「ふふふ……信用しよう」
「あ、ありがとうございます」
僕は先輩にそう返事をして、バッグからローブとブーツを取り出し身に付けていった。後ろからは先輩がセーラー服を脱いでいるであろう衣擦れの音が聞こえてくる。
僕はドキドキしながらもナイフと水筒をベルトに固定し、杖を手にして先輩が着替え終わるのを待った。
それにしても先輩にそっくり、いや本物にしか見えないや。それだけ顔もスタイルも瓜二つに見える。話していても違和感が無いし、なによりも先輩に過去の記憶とかあるのが本物のように感じさせる要因なんだよね。これも神様が補正してくれたのかな? さすが神だよね。
ああ……僕が憧れの先輩と2人きりだよ。ずっと好きだった先輩と僕が……
この幸せな時間もあと30分か……
僕は開きっぱなしにしていたステータス画面に表示されているドリームタイムの残り時間を見て、とても残念な気持ちになっていた。
「もういいぞ。サイズがピッタリだ。不思議なものだな」
「は、はい! あ……」
先輩の合図に僕が振り向くと、そこには白い道着に黒い袴を履き、腰からは刃先が60cmの刀と30cmほどの脇差を差している先輩の姿があった。
先輩は動きやすいようにするためか髪を高い位置で結っており、とても凛々しくてそして美しかった。
先輩のポニーテール……いい……
「ん? どうした? どこか変か? 」
「い、いえ! すごく似合っていたのでその……」
「ふふふ……ありがとう」
僕が先輩に見惚れていたことをしどろもどろで答えると、先輩はクスッと僕に笑いかけてくれた。
僕はその笑顔にまた見惚れていた。
「しかし参ったな……本当にここは別の世界なのか? まるで夢でも見ているようだ」
「見たこともない植物に、あっ、あのリス見てください! 額に水色の石みたいなのがあります。あんな動物見たことないです」
僕は近くの木の枝からこちらを見ている魔リスを指差してそう言った。
「……確かに見たことがない生き物だな。ふむ……いずれにしろ森を出なければ危険だ。土御門君、協力してくれないか? 」
「もちろんです! この森を出て帰る方法を一緒に探しましょう! 」
「ありがとう。正直、落ち着いている君がいなかったら私はもっと混乱していたと思う。ステータス画面のことも、空間収納のことも気付かなかっただろう。そうなれば無手で、水も食糧も無いままたった一人でこの森を出なければならなかった。土御門君には感謝している」
「い、いえ! 鬼龍院先輩がいなかったら、僕はここで震えていただけだったと思います。鬼龍院先輩がいたからなんとかしなきゃって……」
うう……全部知ってたなんて言えない。先輩ごめんなさい。
「ふふっ……男の子だな。その細い身体で女を守ろうとする気概は好ましく思う」
「そ、そんなこと僕は……と、とりあえず南に行きましょうか……水とかは大丈夫です。僕が生活魔法で出せるようですから」
僕は先輩の優しい眼差しに居心地が悪くなり、この空気から逃げるために街がある方向へと誘導した。
そして10分ほど歩いた所で僕の意識は遠くなっていった。
あ……もう時間か……もっといたかったな……先輩……明日また……先輩……
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