59. 謎の魔道具の説明を受けるソフィア
(ソフィア視点)
谷底の道を修復して王都に戻ってから何か月か経過した。あれから谷底の道は再び塞がれてしまったらしい。再度谷底の道の修復に向かおうとしたが、今度は族長達に止められた。谷底の道の出口に人間の国の軍隊が陣取っているらしい。道を修復すれば確実に戦いになる。前回の様に増援部隊を送る予定があるのであれば戦っても意味があるが、その予定が無い今は無用な犠牲を出すだけだと言う。さらに道が通れないのであれば、防衛の面ではむしろ好都合だとまで言われた。だが道が通れなくては戦いから逃げて来る難民を受け入れることも出来ない。
「悔しくないのですか?」
と尋ねたが、
「もちろん、悔しいに決まっています。だが、ここは我慢する時です。」
と好戦派のオーガの族長に言われては言い返せなかった。
私はケイトさんに愚痴を言ってストレスを発散する。ケイトさんは谷底の道で分かれてから一旦開拓村に戻ったのだが、その後私の元に来てくれたのだ。
「開拓村の家に戻ったらね、一足先にマイケルが戻っていたのよ。もちろんそれは問題ないのだけど、なんとお嫁さんを連れて来ていたの。誰だと思う? ソフィアもあったことがある人よ。」
と我家に到着したケイトさんは開口一番に口にした。そんなこと言われても検討が付かない。一緒に居た時にマイケルさんが誰か女の人を好きだったとは気付かなかった。
「なんとね、開拓村に身分証の発行に来てくれた胸の大きなラミアの娘よ。名前はアリスよ。偶然マイケルが通訳として付いたラミアのチームに居たらしいわよ。そこで何があったかは聞かなかったけど、夫婦になるくらいだから色々あったんでしょうね。それで私は家に居るのを遠慮したわけ。新婚夫婦の邪魔をしては申し訳ないじゃない。ソフィアも今はカラシンがいなくて心細いだろうし、ちょうどいいかなって...。」
とケイトさんが言う。もちろんケイトさんなら私は大歓迎だ。カミルとエミルもカラシンさんのお姉さんだと紹介すると歓迎してくれた。それにしても、マイケルさんが結婚したんだ。お祝いを言いたいが私は王都を気軽に離れる訳にいかない。せめて贈り物でもしようと思う。
それからしばらくして、ラミアの族長が私を訪れた。族長と一緒に来たのは谷底の道の近くでケイトさんと一緒にいたラミアの少女達だ。確か名前はアイとサラ、それにカンナだ。私とトムスが倒した強力な魔法を使う敵が使っていた魔道具の正体が分かったと言う。カンナが説明してくれる。
「ソフィア様。敵兵が持っていた魔道具は2種類の魔道具を組み合わせたものです。ひとつは今までに無かった発明品ですが、もうひとつは禁忌の魔道具として魔族の間では作ることも使用することも禁止されているものです。なぜならこの魔道具は他人の意思を奪い自分の思い通りに動かすための道具だからです。人間の国でも同じ魔道具が知られていたとは驚きです。私達は奴隷化の魔道具と呼んで忌避しています。
ただ、最初に申しました新しく発明された魔道具の方はそのように忌まわしいものではありません。これは一言でいえば魔力を他人に伝えるための魔道具です。ですが、この魔道具を使って多くの人から特定のひとりに魔力を伝達した場合、その者は送られてきた膨大な魔力を使うことが出来ます。それは、唯の人間や魔族がまるで精霊様の様な力を使うことができると言う事です。ソフィア様がお倒しになった強力な魔法を使う敵の兵士は、この魔道具を使っていたと考えられます。」
なるほど、トムスや私を攻撃してきた兵士達は、少し離れたところにいた沢山の兵士達から魔力を供給してもらっていたわけか! 何百人分もの魔力を使えたからあんな強力なファイヤーボールや結界の魔法を使えたわけだ。
「では、魔力を供給していた兵士が倒れた理由もわかったのですか?」
「実証は出来ませんが推測は出来ています。私達は魔道具のうち魔力伝達の魔道具だけを複製して実際に使ってみました。その結果、魔力の受け渡しは魔力を送る側と受ける側のタイミングを厳密に合わせる必要があると分かりました。タイミングがわずかにずれるだけで受け渡しがうまく行かないのです。人数が少なくて送る側と受ける側がすぐ近くに居るならば、互いに合図してタイミングを合わせることも出来るでしょう。ですが、人数が多くかつ送る側と受ける側に距離がある場合はほとんど不可能です。
奴隷化の魔道具を組み合わせたのはその問題を解決するためだったのでしょう。奴隷化の魔道具は相手と念波で繋がった状態になることで相手をコントロールします。この場合人数や距離は問題ではありません。操る側が魔力を送れと念じれば、そのタイミングで全員が乱れることなく魔力を送ります。
ソフィア様とドラゴンに対して、敵は執拗に強力な魔法で攻撃してきたとお聞きしました。そのため、魔力の送る側の人間は何度も全力の魔力を送る様に念波で命令されていたはずです。人の魔力には限界があります。その限界を超えて魔力を使えば死んでしまうこともあると聞いています。今回の現象はまさに限界を超えて魔力を使った結果だったのではないでしょうか。」
「人間の国はそんな恐ろしい魔道具を作っているのですね。」
「はい、それも大量にです。魔力を送る側の魔道具は魔法兵と呼ばれる魔法を使う兵士の制服の一部となっていました。魔法兵全員が魔力を送る側の魔道具を装着していると言う事になります。人間の国の魔法兵の数までは分かりませんが、かなりの数になるのは間違いないでしょう。」
なるほど、お母さんもその魔道具にやられたのだろう。でなければ精霊王であるお母さんが人間に負けるはずがない。その時は一体何人の魔法兵が死んだのだろうか...。
私はラミア達に感謝した。この短期間に未知の魔道具の構造を調べるのは大変だったと思う。
「カンナさん、そして皆さん魔道具の調査ありがとうございました。これは人間の国と戦うために知って置かねばならない大切な情報です。感謝します。」
「とんでもありません。これが魔族の国が人間の国に勝利する一助になれば良いのですが...。それと、これは私達が複製した魔道具のサンプルです。ご参考までに女王様にお渡ししておきます。奴隷化の魔道具の部分は含まれておりませんのでご安心ください。」
と返してラミアの族長達は帰っていった。ラミアの族長から渡された魔道具はリング状で、首の周りに装着して使うらしい。魔力を送る側の魔道具が10個、魔力を受ける側の魔道具が1個だ。
ラミアの族長達が返った後、私はトムスに魔道具を見せた。ちなみに、相変わらずトムスが精霊であることは私以外知らない。魔族の間ではお母さんの様に精霊王ではなく普通の精霊であっても神の使いとして信仰の対象になっている。そんな精霊が一緒にいるとなると騒ぎになるからだ。周りの人達はトムスのことを私の使い魔のドラゴンが変身した物と思っている。トムスもそれを気にしている様子はない。もっともトムスは魔族や人間の言葉が分からないから、自分がどの様に言われているのかも分からないだろうけど。
<< こんな物に精霊王様がやられたと言うのか? 信じられんが...。>>
<< でも、私達を襲って来た敵はかなりの強さだったよね。魔力を送る魔法使いの数がもっと多ければトムスだって負けていたかもしれないよ。>>
<< 確かにな。あの倍くらいの人数がいたら防御結界が持たなかったかもしれん。人間達もとんでもない物を発明したものだ。俺達精霊も安心してられん。しかし、繰り返しになるがこんな首輪みたいな物であんな恐ろしいことができるとはな...。>>
<< 信じられないなら試してみようよ。はい、これを付けて。>>
とトムスに魔道具のひとつを渡す。それからふたりで色々試してみるがどうしてもうまく行かない。タイミング、魔力の強さ、発動しようとする魔法、その強度を色々と変えてみるが、すべて不発に終わった。最後に魔力の受け手と送り手を交代してみる。先ほどは私が送り手でトムスが受け手だったが、今回はトムスが送り手、私が受け手だ。すると何の問題も無く魔法が発動した。ひとりではどうしても出来なかった飛行魔法に成功したのだ。もっとも危うく部屋の天井に頭をぶつけるところだった。
どうやらトムスは魔力の送り手にはなれても、受け手には成れない様だ。理由は分からないが精霊だからかもしれない。精霊は人間や魔族と全く違う存在らしいから人間用に作られた魔道具がうまく動かなくても不思議ではない。
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