48. ドラゴンを使い魔とするソフィア
(村長視点)
オーガキングからの緊急招集により王都に出向く。人間族の儂だけでなくオーガ族、アラクネ族、ラミア族、ドワーフ族、エルフ族すべての族長に招集がかかった様だ。何か大事件が起こったに違いない。
案の定オーガキングの話した内容は緊急事態を告げる物だった。人間の国の間者が魔族が助けてくれると騙して、カールトン男爵領の農民達に領を占拠させたらしい。農民達が助けを求めているが、手を貸せば確実に人間の国との戦争になるだろうと言う。確かに農民達に助力すれば戦争になるのは間違いない。農民達には可哀そうだが見捨てるしかないだろう。だがオーガキングの意見は違った。戦争は避ける、だが農民達も助けるという。そんな虫のいい方法があるのか?
「カールトン男爵領を人間の国から買い取る。幸いカールトン男爵領は小さい、直轄領の100分の1くらいしかない。人口も1000人程度だ。人間の国に差し出す対価しだいでは、交渉に応じてくるかもしれない。すでに遠距離通話の魔道具を通じて人間の国の国王には連絡済みだ。そして今日回答があった。『ボルダール伯爵領において、王と王で直接話し合うのであれば交渉に応じる』とのことだ。」
「なんと! 王と王が直接顔を合わせるなど前代未聞ですぞ、何かの罠と考えるべきです。」
とドワーフの族長が発言した。
「対価に何を差し出されるおつもりですか? こちらが弱みを見せれば付け込まれますぞ」
とラミアの族長が、
「それに、マルシ様は精霊王様から『アルトン山脈から西に出向いてははならぬ』と言い付けられておられるとお聞きしております。」
とエルフの族長が発言する。それに対してオーガキングが答える。
「対価は黒死病の薬を差し出す。すでにソフィア様には承諾をいただいている。人間の国には黒死病の薬が無いと聞く。たとえ王であっても一旦黒死病に罹患すれば死ぬかもしれないのだ。人間達は是非欲しいと思うはずだ。住民ひとりに黒死病の薬を1本として1,000本差し出そうと思う。」
とオーガキングはラミアの族長の問いに答えてから続けて言う。
「確かに俺は精霊王様からアルトン山脈の西に行かぬ様に言い付けられている。だが、絶対ではない。ある条件を満たせば行くことは可能だ。その条件とは俺の後継者を定めること。」
「なんと! ですが、マルシ様にはまだお子様がいらっしゃいませんが...。」
(ソフィア視点)
オーガキングから黒死病の治療薬1,000本の依頼が来た。なんでも反乱を起こした人間の農民達を助けるために、人間の国との交渉に使いたいらしい。もちろん引き受けたいが問題がある。黒死病の治療薬1,000本を作るだけのリクルの実が手元に残っていないのだ。沢山あったのだけど、黒死病の治療薬やリクルの実の薬を頼まれて作っている内に減ってしまった。深奥まで取りに行けば良いのだが、私は今安静にしている様に周りの皆から命令されていて取りに行けないのだ。エルフの人達には頼めない、お母さん以外の精霊は魔族の言葉が分からないから、今下手に深奥に入るとトラブルになるかもしれない。
実は、私が安静にしていなければいけないのは、お腹にカラシンさんの子供が居るからだ。大きくなったお腹に手を当てて子供に話しかけているとお母さんになった様で幸せな気分になる。今は無理をしてもしものことがあったら大変だと、カラシンさんを始めカミルとエミル、それに急遽我が家に来てもらった人間族の産婆さんにも言われている。
だったらどうしょうと考えて思い出したのが、お母さんが送ってくれた念話増幅の魔道具だ。お母さんにいくら呼びかけても返事がないのであきらめて使っていなかったが、お母さん以外の精霊となら話が出来るかもしれない。久々に小さい時によく遊んでくれたトムスに念話を送るとすぐに、
<< ソフィアか!? 久しぶりじゃないか! 人間のところに帰ったんだってな。食われない様に注意しろよ。元気にしてるか? >>
と相変わらず少しテンション高めで返って来た。
<< 私は元気よ。お母さんはそっちにも戻っていないよね。>>
<< 精霊王様か? そりゃ無理だよ。かなり前に伝言の分身が来てな、1年経ったら戻ると言っていた。1年って言うのは精霊が核から復活するまでの時間だ。どうやら精霊王様に何かあった様だな。精霊王がやられるなんて考えにくいけどね。>>
<< えっ! そうなの!? お母さんに何かあったってこと? 大丈夫なの? >>
お母さんは無敵だ。お母さんが誰かに傷つけられるなんて考えもしなかった。何か用事が出来たので1年間返ってこないんだとばかり思い込んでいた。お母さんに何かあったらと思うと背筋が凍る。だけどトムスは陽気な調子で続ける。
<< 大丈夫、大丈夫。心配するな、俺達精霊は簡単には死なない。核を壊されない限り復活出来るんだ。精霊王様も1年経ったら戻って来るさ。>>
<< ほんとよね。絶対大丈夫だよね。>>
<< ソフィアは相変わらず心配性だな。で、何か俺に用があるのか? >>
<< そうだった、実はリクルの実が欲しいの。私はお腹に子供がいるので取りに行けないのよ。トムス、申し訳ないけど届けてくれないかな? >>
<< おお、早くも子供を作ったか! 流石に人間は繁殖力が強いな。分かった。他でもないソフィアの頼みだ、子供が出来た祝い代わりに届けてやるよ。>>
<< ありがとう、私の居場所は分かるよね。>>
<< 心配するな、ソフィアの魔力パターンは分かりやすいからな。探査魔法で一発だ。明日には届けてやるよ。>>
と言うわけでオーガキングの依頼は引き受けた。もっとも、翌日にドラゴンの姿で家の前に降り立ったトムスを見て兵士達が出動する騒ぎになり、王都中が一時緊迫したが、すぐにいつもの白兎の姿に戻ったので騒ぎは最小限で収まった。慌てて集まった人たちにトムスのことを説明しようとする私に、トムスが、<< 精霊と分かると面倒だからソフィアの使い魔と言う事にしておけ。>> と言う。お陰で私はドラゴンを使い魔にしているという噂が広まってしまった。トムスの行動パターンを予測して置くんだったと少し後悔した。
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