教徒の日常

勇者との邂逅

 戦争が始まったと言う。

 魔法職とか、邪神とかが各国を攻めて来たんだって皆が言ってる。

 でも、それって仕方なくないか?

 だってさ、聖天教の総本山があるガレト王国の王都に来てから数か月の短い時間しか過ぎてないけど、おれは幾つも見た。

 魔法が使えるってだけで何人ものプレイヤーが、ひどい目にあってきた光景を。

 おれはそれが怖くて、怖くて……黙って見ている事しかできなかった。


 おれはいじめが嫌いだ。

 いじめられてきたから、そういうの見ると身が竦んで動けなくなるし、体が震えだす。

 それで結局何もできずにただ見て過ごしてしまう。


「嫌だな……」


 グラウンドみたいな練兵場の隅でおれは腰を下ろして呟く。

 ユーリの姉御やスチュワートは聖天教のお偉いさんに気に入られて色々とやっているみたいだけど、おれやマーロはお荷物扱いで、兵士として鍛え直すと言う名目でここに送られた。

 ユーリの姉御の取り巻きのほとんどがおれ達と同じ練兵場で訓練をやらされている。


 戦争なんて参加したくない。

 出来たら、家に帰りたい。

 母さんとか、祖父ちゃんとか心配しているかな。

 していてくれると良いけれど、清々したと思っているかもしれないと考えて何度目かの溜息をついた。

 そろそろ訓練に戻らないと、教官にどやされる……。

 でも、なんだかやる気にならない。

 おれは人なんて殺したくないし、殺されたくもないんだ。


「帰りたい」

「帰れないの?」


 不意に声を掛けられた。

 優しげなその声にハッとして振り向くと、勇者様が立っていた。


 肩辺りまで伸ばした黒い髪、愛嬌のある両目の色は黒で純日本人て感じを受ける勇者様は、聖天教の青い法衣を纏って俺の脇に立っていた。

 その背後には、怖くない方の黄衣の軍人が二人立っている。

 黒髪の女と金髪の女。

 共に、勇者様の護衛と言う立ち位置だ。

 おれは失礼が無い様に慌てて立ち上がった。


「え、えっと、その」

「操者の人達って少し不思議だよね。何て言うのか、見てくれと中身が一致しない人が多い。貴方もこんなに大きな体つきの男の人なのに、ちょっと子供みたい」


 突然、聖天教内では知らない者が居ない勇者様に屈託も無く声を掛けられて、おれは言葉が出ない。

 続いた言葉が、おれの本質を見抜いているようで怖くもあった。

 おれは禿た頭の大男をアバターにしていたし、今ではこれが実体だ。

 でも、この世界に来る前の俺は、日本で暮らしていた俺は十六になったばかり。

 勇者様には如何も元のプレイヤーがどんな感じか分かるみたいだ。


「ごめんなさい、突然変な事を言って」

「……いえ」

「――きっと、帰れるわ」

「え?」


 勇者様は、おれがあまり話さないからか、不意に慌てた様に謝った。

 なんて言葉を返して良いのか分からなかったおれは、言葉少なに首を左右に振った。

 そんなおれをその黒い瞳でじっと見ながら勇者様は言葉を告げた。

 帰れると。

 それはおれに言ったのみならず、自分自身に言い聞かせているように感じて、おれは思わず聞いてしまった。


「来たく、なかったですか?」

「……貴方と同じかな」

桜子さくらこ、そろそろ行かねばしずかに面会できません」

「ああ、じゃあ、行かないとね。ごめんなさい、変な話をして。何だかしょげ返っていたからつい声を掛けてしまったの」


 短い返事を聞いて、勇者と呼ばれている人でも、やはり来たくはなかったのだとおれは考えた。

 

「少し、気が晴れました。――その、勇者様方は常に三人で行動していると思いましたが、もう一人お仲間がいるんですか?」


 面会に向かわないとと言う言葉と、飛び出た名前が明らかに日本人風だったから思わず聞いてしまう。

 と、勇者様は困ったように眉根を寄せた。

 が、背の小さい金髪の護衛が微かに笑って告げた。


「同じ学校に通ってた仲間よ、顧問の妹」

「こ、顧問の?」


 アシヤ顧問、そこが知れない怖さがある。

 そんな考えが顔に出たのか、金髪の護衛は肩を竦めて。


「妹は悪い奴じゃないよ」

「スラーニャ、その言い方では顧問が悪い奴のように聞こえるぞ」

「どう言い繕っても、ねぇ?」


 黄衣の兵士同士がじゃれあうように会話を交わす。

 それを勇者様が諌めて、おれに軽く会釈して離れていく。

 おれはその背を見送りながら、思う。


(アシヤ顧問に妹? 面会って事は具合が悪いのかな? まさか……人質って事はないよな?)


 そんな事を考えていたら、遠くで教官の怒鳴り声が聞こえた。

 ヤバい、急いで戻らないと……!

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俺の師匠はレベル1 ~最強師匠と行く異世界冥府魔道、だけど美女もついてくる?~ キロール @kiloul

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