俺の師匠はレベル1 ~最強師匠と行く異世界冥府魔道、だけど美女もついてくる?~

キロール

欲望都市の邪神

第1話 交差する刃

 俺の前には、幼馴染だったユーリが立っている。

 金髪の髪は長く、肌は白く、その瞳は青く、顔だちは作り物の様に整っている。

 ビスク・ドールの様に。

 この姿があいつが思い描いた、なりたい自分だったのかは分からないけれど。

 そのユーリが何だか怪しく青く光る剣を片手に、笑みすら浮かべて俺と相対している。


 ……変わっちまったな。

 すっかり変わっちまったな、お前。

 同じ施設で育って、それぞれが養子として貰われていったその後も、オンライン上では繋がっていた。

 恋愛感情は持ってなかったけれど、同じ境遇だから仲間意識はあった、筈だったのにな。


「あんなレベル1のおっさんを師匠だなんて、笑わせるわ。あんたレベルほとんど上がってないじゃない」

「……」


 まだレベルで人を判断するのか。

 そんな物じゃ、武は計れない事を俺は知っている。

 師匠と出会い、ユーリ達と袂を分かって知った事だ。


「あたしの邪魔をしないでよ! あたしは――」

「サーバーで一人だけだった剣聖。サーバーに一人だけと言う職業は全部で四つ。その全てが揃っていたのが第二サーバーか」

「何言ってんの? どうでも良いわ、そんな事!」


 叫び、剣を振るユーリの一撃は、早い。


 唸りすら切り裂く一撃。

 でもな、お前のそれは早いだけなんだ。

 素のポテンシャルが違うから、剣の振り方とか、足運びとか考えて来なかった一撃なんだ。

 俺は黒い刀身の刀でユーリの剣を打ち払った。


「っ! なんでっ!」

「お前の言うレベル1のおっさんに教えて貰った事を実践しているのさ」


 創意工夫せよ。

 頭を使え、闇雲に剣を振っても強くなれない。

 その言葉を胸に、何時もぎりぎりの戦いを続けてきた。

 負けたら死ぬと言う勝負を繰り返してきた俺も、きっと以前の俺じゃないんだろう。

 大体日本人が殺し合いが日常の世界で生きるには変わるしかないじゃないか。


 打ち払ったユーリの剣は、燕みたいに弧を描き俺の首を狙って戻ってくる。

 やはり早いが、踏込みも浅い力の乗らない一撃だ。

 俺は盾でその一撃を迎え撃ちながら、大きく踏み込み突きを放った。

 盾に衝撃を感じ、金切音が響いたがそれだけだ。

 一方で俺の突きは、ユーリの脇腹を傷つける。

 ……殺さないように戦うのは骨が折れるな。


「な、何で、ただの戦士でしかないあんたの一撃が……」

「面倒を厭わず地道にワイルドボアを狩ったからかもな」


 ゲームでは雑魚敵だったワイルドボアは、この世界じゃ分厚い毛皮と体力を誇るそれなりに危険なモンスターだ。

 ユーリはその討伐を俺に押し付けたりしていた。

 だからって訳じゃないが、いかに素の能力が高くても、面倒事を避けていたら強さなんて手に入らない。


「レベルキャップ、越えたのに……魔法を使う奴等を何人も殺して経験値に……」

「……もう、戻れ無い所まで行っちまったんだな」


 魔法職への弾圧を良しとする宗教で出世したからか、ユーリはそんな事を呟く。

 その呟きに、嫌悪感しか感じない。

 

「あんた如きに……敗けられないんだ!」

「……」


 大振りの一撃を俺は腰を落として盾を突き出すようにして迎え撃つ。


「そんな初歩的なスキルで!」


 隙だらけの攻撃を行ったユーリだがそれでも剣聖。

 俺が戦士の初歩スキルヘビーアタックの変形技で幾人かの聖騎士を殺している事も鑑みていたのだろう。

 スキルの……技の出を潰そうと波打つような剣閃で俺を切り裂こうとした。

 そして、剣閃が盾を切り裂いた途端、ユーリの顔に笑みが浮かんだのを俺は見逃さなかった。

 

「なっ!」


 その顔が驚愕に染まる頃には、俺も一撃を繰り出す準備は終わっている。

 実は俺が盾を投げ放っていたとは思っていなかったようだ。

 俺は接近したかに見えて十分な距離を取って構えていた。

 師匠直伝、天真正自顕流てんしんしょうじけんりゅうのトンボの構え。

 子供が棒きれを振り上げただけの様な、そして左手を添えるだけの構えこそ、トンボ。

 俺の世界の示現流もそうなのかは知らないが、師匠の世界ではこの構えは示現流とその源流である天真正自顕流てんしんしょうじけんりゅうのみが持つんだそうだ。


「うおおおっっっ!!」


 黒い刀を振り上げただけの体勢のまま雄叫びと共に駆けより、間合いに至れば振り下ろす。

 唸りどころか風すら断ちながら黒刀は弧を描く。

 チンッと澄んだような音色が鳴り響くと同時に……。


「聖剣が!」


 ユーリの悲鳴が上がった。

 見れば、青く怪しく輝いていた剣が半ばより真っ二つに断たれていた。

 

「見た目よりは鈍だったようだな」

「な、なんなのよ……何でこんな……」


 剣を破壊され、力抜けたように膝から崩れ落ちるユーリ。

 ……得物に頼りすぎじゃねぇ?

 ともあれ、これで終わりじゃない。

 俺は切り裂かれてしまった盾を一度だけ見やって、嘆息してから踵を返す。

 盾をくれた女の顔が脳裏をよぎる。

 敵はこいつだけじゃないんだ、連中も苦戦しているかもしれない、急がないと……。

 そう思った矢先に声が響いた。


「ユーリ様!! ヤバい、にげねぇとっ!」


 その声には聞き覚えが在った。

 俺がその名前を思い出す前に、数騎の先頭を走る馬に跨って現れたスチュワートは、俺達の現状を見て、あんぐりと口を開けた。

 普段がイケメンだからかアホっぽく見えるな。


 残りの馬に乗っているのも皆ユーリの取り巻き連中だった。

 色めき立った連中だったが、俺が明らかにユーリに勝ったらしいと気付いたのか、誰も口を開こうとはしなかった。

 これ幸いと無視して通り過ぎようとすると……。


「おい……あのレベル1のモブは何なんだよ……おかしいだろう、レベル1だぞ? 何で、何で、魔人衆を五人も殺してんだよ!」

「魔人衆? 黄色い軍服の奴らの事か? ……そもそも公家の近習と武闘派の将官を比べる方が悪い。それに、師匠は今マジでキレてるからな」

「は? 武闘派の……将官?」

「お前の言うレベル1のモブは、お前らの勇者様の伯父上だぞ。対抗馬に血筋である姪っ子を持ち出してまで芦屋あしやが恐れている相手を、お前らはレベルだけ見て雑魚だって言ってたんだろう?」


 スチュワートはアホ面をさらにアホにして押し黙った。

 ユーリを打ち負かしたのは、言うなれば俺のケジメ。

 こいつらは大勢にもう影響はないだろうから、無視し進まないと。


 一歩前に出ると、スチュワートが慌てって避ける。

 その他も同じかと思ったが、二人だけ俺の前に立ち塞がったままだった。

 見れば身体を小刻みに振るわせているが、その表情は悲壮そのものだ。

 禿た厳つい大男と男みたいな少女の組み合わせ、名前は確か……。


「そ、その勇者様が大変なんだ! 俺達が言えた義理じゃないが、助けてくれよ、ロウ! このままじゃ、勇者様が殺されちまう」


 いや、名前は今は如何でも良い。今の光景が俺の心を動かしたからだ。

 大男の方が涙ぐみながら、他人の為に助けを請う姿には他人事ながらクルものがある。

 師匠の姪っ子さんだからきっといい人だと思っていたが、こいつの反応を見てもそう思えた。 


「……師匠の姪っ子さんだ、助けない訳には行かない。その現場まで連れていけ」

「助けてくれるのか?」

「お前らに良い印象はないけど、他人の為に怖くて震えながらも、ましてや泣きながら頼む事柄を足蹴にはできない。そんな事は師匠から習ってないしな」

「ごめん……俺達、虐められるのが怖くて、あんたが虐められているのを見て見ぬふりを」


 男みたいな少女が口を開く。

 まあ、気持ちは分かる。


「謝罪は……無事に事が済んだら受けるよ。ほら、急げ!」


 そう言えば、大男の背後に飛び乗る。


「ユーリ、剣聖は生贄の職業だ。いや拳聖も、聖魔騎士も、サーバーに一つだけの職業は皆ただの生贄だ。これ以上いざこざに首を突っ込まず田舎で暮らすんだな」


 そう言い捨てて、俺は大男の肩を叩いて急かす。

 ユーリ達の答えはこの際どうでも良い。

 また邪魔をすれば、今度は敵として討つ。

 だが、今は危機的状況だと言う師匠の姪っ子さんを助けなくては。

 大男と俺の乗る馬と男みたいな少女が乗る馬は危機的状況の勇者の元へと急いだ。


 遠くで、師匠の雄叫びが響いた。

 あの人をマジで怒らせるなんて、芦屋は大きな間違いを犯した物だ。

 俺はしみじみと思い、師匠と出会った頃からこれまでの道中を思い返していた。

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