第27話 技の騎士

 俺は息を整え終わると、盾と剣を構えた騎士の方へと走る。

 こいつだけ未だに鎧に傷がないばかりか、頭の全てを覆う兜を付けていた。

 この乱戦で全く傷が無い事からも分かる事だが、こいつは異様に強い。

 俺が、殺した、あの騎士よりも、逃げられた若い騎士よりも、師匠と二人で戦った槍使いの騎士よりも、格段に強い。

 師匠の知り合いの黄色い軍服の女兵士は、逃がした若い騎士が傑作と呼ばれていると言ったが、強さと言う意味では今から戦う奴の方が明らかに強い。


 そんな奴相手に四人が既に戦っているんだ。

 俺が割って入っても、邪魔にしかならないんじゃないかと最初は思えたが……とんでもない。

 四人いても足りないんだ。

 なんだこいつ……師匠並か?


 赤毛の戦士が鋭く剣を振るうと騎士は盾で受け流し、少年を狙って突きを繰り出すが、それは牽制のフェイント。

 即座に剣を引き寄せて、背後から斬りかかった白い髪の女ミールウスの一撃を、振り返り様に払いのけ、行きがけの駄賃とばかりに返す刃が、迫っていた赤い髪の女戦士スクトの首を狙う。

 そして、先程の攻撃がフェイントであったと気付いた少年が素早い動きで懐に潜り込もうとするのを盾で殴りつけて阻み、スクトの首を斬り損ねた刃が今度は赤毛の戦士へと振るわれた。

 その一連の動きがとんでもなく速く、怯む様子など一瞬も無かった。


 戦い方は堂々としており、それでいて相手の虚を突く一撃が不意に繰り出される。

 ある意味、俺の求める理想の強さの様に見える。

 こんな奴相手にどう戦う?

 師匠の様に一撃に全てを賭ける様な構えや、そこから繰り出される一撃を放つ事は無理だ。

 何年か修行すれば可能かもだけど、今は絶対に無理だ。

 俺は俺の持つ技術で戦わなきゃいけない。

 はっきり言って死なないのはズルだが、武器や防具は再生しないのは分かっている。

 一度でも優勢に立てれば……鎧とか破壊できれば、それが再生を邪魔するのは見た。

 鎧が今度は足かせになるんだ。

 そこまで持ち込めれば、その先はずっと優勢に戦える。

 相手が死なないのだとしても。


 だけれども、こいつは今まで戦った騎士とモノが違う。

 素早い動きや、鋭い攻撃もそうだが、見極めがとんでもない。

 戦いの最中に何を学んだのか、鎧を傷つけない程度の体勢が崩れた一撃なんかは、放って置くようになった。

 戦っている四人の力を見極め、その見極めに命を預けて顧みないその心の在り方が、今までの騎士とは全くの別。

 そして、どうやらそれは、邪神の娘相手に大剣を振り回しているだけと思えたあちらの騎士も同様みたいだ。


 師匠は既にあちらの騎士の傍に至り刀を振るっていたが、知事になったアクション俳優のような肉体を誇示する半裸の騎士はそれを大剣で迎え撃った。

 大剣すら断ち切らん師匠の一撃は、しかし、火花を散らすだけに終わる。

 大剣に僅かに食い込んでいるのかも知れないが、振り下ろした赤刀は同じ色見の大剣に防がれ宙で交差したままだった。

 そこから力と力の押し合いになったようだが、俺も目の前の敵に集中せねばと視線を戻す。

 ……近くで見ると、盾と剣を構える騎士の存在がでかく見える。

 気圧されそうだが、ぐっと腹に力を込めて俺は叫ぶ。


「うおおおおぉぉぉぉっっ!!」


 叫ぶと少しだけ恐れが薄れた様に感じ、黒刀を剣盾の騎士目掛けて真っ向から振るう。

 それが激闘の始まりだ。


 流れ水の様だと思った。

 迫る刃はあまりに滑らかで、俺の首を撥ねるかと思えたが、赤毛の戦士がそいつを剣で弾く。

 騎士の一撃は弾かれるとその力には逆らわず、別の獲物を目指して振るわれる。

 俺が黒刀を突きだすと、その一撃を叩き潰す様に上から盾が押し付けられ、突きの軌道が変わる。

 突きはそのまま地面を抉り、衝撃が指先を走り抜けた。

 その間には、盾は持ち上げられ別の攻撃を受け流したり、攻撃に移ろうと言うミールウスの横っ面を殴りつけようと振るわれていた。

 

 俺が一撃を繰り出す間に、相手が三回くらい行動している感覚になる。

 がむしゃらに剣を振れば仲間に当たるから、ある程度は狙いを付けるのは当然だし、それで遅くなるのは仕方ない。

 だけれども、それを鑑みたって相手の騎士は早かった。

 或いは、こちらの人数が多すぎるかと思えたが、これで一人、二人とこちら側が減ったらどうなるだろう。

 自由に動ける幅が広がるかも知れないが、相手は人数の減った分の攻撃を気にせず動けるようになる。


 まあ、連携が完璧に取れていると言えない俺達だ、減っても大丈夫だろうと思わないでもない。

 でも、もし、五人で戦う事が思いがけない効果を発揮していて、偶然相手と拮抗していたとしたら?

 一人一人のプレッシャーは大した事なくとも、五人のそれが相手の行動を少しは縛っていたら?

 そう思えば引くに引けない。

 一気に戦いの情勢が変わってしまうかもしれないからだ。

 それに、引いたと思った瞬間に追撃を受ける可能性も無くはない。

 相手にしてみれば、引く敵はその分攻撃してこない事が確定している様な物だ。

 だから、追撃を試みて無力化出来たらラッキーと思うのではないか?


(……それって)


 俺は天啓って奴を感じた様に思えた。

 だって、それって、その瞬間だけは油断しているかもって事だろう?

 引きながらも俺が剣を振れば、もしかしたら……。

 でも、いきなりそれをやって他の連中の負担になりはしないか?

 本当にそうなるのか分からない……。

 でも。


「策があるならやってみろ、黒刀使い」

「このままじゃ、じり貧だからね」


 赤毛の戦士と少年が何を悟ったのか、そんな事を告げた。

 考えが顔に出ていたかな?

 そうなると騎士にも見破られているんじゃないかと思うんだけれど……。

 しかし、彼等もじり貧だと感じていると言う事は分かった。

 ならば、イチかバチかだ、やってやる!


 俺は剣と盾を構えたまま背後に飛ぶ。

 そして、着地と同時に深く膝を落として、すぐさま盾を押し出すように構えながら一歩前へ出る。

 盾に凄まじい衝撃が掛ったけれど、構わず黒刀を突きだした。

 スキルヘビーアタックの変形、俺が今一番命を預けることが出来るのは、最も多用しているこいつしかない。

 切先に僅かな手ごたえを感じたが、俺は更に背後によろめいた。

 がらんと音をたて、金属製の盾が割れ落ちる。

 よろめくままに片膝をついて、慌てて顔を持ち上げると、剣と盾は構えたままの騎士がそこに立っている。

 僅かに兜に傷が付いているが、それだけだったようだ。

 剣盾の騎士は、すぐに背後から迫る追撃の刃を盾で弾き、俺の傍を走り抜けていく。


「黒刀の使いヨ、覚えテおくゾ」


 そんな言葉を捨て置いて。

 ……何だ? 何で逃げていくんだ?


 混乱する俺をよそに事態は収束に向かっていくようだった。

 師匠達が相手していた大剣使いの半裸の騎士の声が響いた。


「頃合いか、赤刀の使い手よ、何れ戦場で会おう!」

「逃すか!」

「生憎と、逃げ出せるのさ!」


 半裸の騎士が格好に似合わない教養の高さを感じさせる喋り方をしていたのに、少しだけ驚いたが続く事態にはそこまで驚かなかった。

 聖騎士連中を運んできた蝙蝠の羽が付いた巨大な蟻みたいな怪物が、また現われて凄い速さで聖騎士達を回収していった事には、驚く以上に疲れしか感じなかった。

 使い捨ての駒扱いだったのか、そうでなかったのかさっぱりだが……。

 連中は結局、欲望都市に混乱を起させただけだった。

 だが、この行いが大勢を決したのは事実だ。

 聖天教との戦を行う事が邪神達の合議で決まったのだ。

 守るだけじゃ無く打って出ると言う事が。


 ……俺には、個々の欲望吹き荒れるこの都市で、軍隊みたいな物をどの程度の規模で維持できるのか、凄く疑問なんだけれども。

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