第25話 介入
殺したのか? 体を再生させた化け物みたいなやつだったが、殺せたのか?
荒い息を整えながらしばらく様子を見ていたが、確かに死んだようだ。
これで人殺しかと一瞬考えたが、響く争いの音に師匠の様子を見やる。
そこには、酷い状況が繰り広げられていた。
盾を破壊され、鎧すらズタズタになりながらも、尚体を再生させ戦おうと足掻く騎士と、その足掻きを一蹴する師匠の姿があった。
師匠は何かを見極める様に、それでいて素早く刃を振るう。
「お前は、何だ?」
「……」
師匠の問いかけに若い騎士は答えない。
一太刀、二太刀と喰らっても、再生に鎧を巻き込み、凄まじく痛そうな状況になっているのに、それでも師匠に挑んでくる。
既に武器も無いと言うのに。
俺は師匠にこっちの騎士の事を伝えようと声を張り上げた。
「こいつら腹に心臓があるっぽいです!」
「見ていたから知っている。だが、こいつは!」
知っていると師匠は応えた。
見ていたと言うのは俺の戦いを見ていたのか、それとも過去にそれっぽいのとやり合っているのか。
しかし、目の前の奴は違うとでも言いたげだ。
確かに師匠の斬撃は大抵の物を一刀で斬り伏せる。
俺の攻撃より遥かに傷つける箇所が多い。
腹だって斬っている筈だ、なのに……。
それでも、いかに死なずに足掻こうとも、武器も防具も破損している。
足掻くだけ無駄だと思うんだけれども……。
「手を止めるな! 再生を続けるならば、刻み続ければ良かろう!」
「……そう言う事か」
ロズワグンの声に師匠は一瞬考えて、小さく呟く。
途端、黄色い風が一瞬吹き荒れた。
「……っ!」
師匠は無言のまま、吹き荒れた風に赤刀を振り下ろす。
と、火花が散り、何者かが息を呑む音が聞こえた。
見れば、黄色いマントに黄色い軍服を被り、同じ色の軍帽を被った黒い髪の女がズタボロの騎士を小脇に抱えた状態で、抜刀していた。
「その太刀筋は正に雷光もかくや、と言った所でしょうな、神土大佐」
「芦屋の手の者か? それと階級を間違えている様だが」
「問いかけには、はいと答えざる得ませんな、今は。間違いではないのです。……悪を成敗して死体ごと消えた貴方は、判官に剣を伝えた大天狗の化身……等とも呼ばれておりますよ」
女はそう笑いながらも、一度騎士を手放して構えた。
中段の構えと言う奴だろうか?
玉のような汗が女の額から鼻梁にかけて流れ落ち、顎から滴り落ちた。
師匠との僅かな対峙で、それほどのプレッシャーを感じているんだろう。
師匠は、その構えを見て僅かに眉根を寄せた。
そして、トンボに構えなおせばじっと相手を見据える。
「奇妙な事を言う」
「未だ来ぬ先の世の話、貴方にとってはそうでしょう。ですが、小官にとっては紛れもない
「左様か。なれば語り合うだけ是非もない。……その若さで東柳生の皆伝か」
「……」
空気が張り詰めた。
黄色い軍服の女の足元で騎士が蠢きながら、師匠を見やる。
未だ傷が回復した訳でも無いのに。
いや、そもそも、何で黄色い兵士が回収に来たんだ?
タイミング的にこの状況を見ていたんだろうけれど、何故師匠の相手だけを助けるんだ?
他の聖騎士はまだ戦たりしているのに。
いや、そもそも俺の相手だった騎士が死ぬところは放って置いたのは何故だ?
はっきり言って師匠の一撃に介入できるならば、俺の一撃を阻むのだって容易い筈だ。
空気が凝る様な重々しさを感じていると、不意に第三者の叫びが響く。
「うおおおおぉぉぉっ」
甲高い雄叫びは、凄まじい速さを伴って師匠に迫った。
踏み込みの速さや振り下ろした剣の速度、そしてその構えは……。
「貴様、当流の者か!」
「やはり無理か!」
剣を振り下ろして居たのは黄色い軍服を見たやはり女だった。
「スラ―ニャ、程々で! それでは失礼しますよ、神土大佐!」
それを見計らっていたのか、黒髪の方はまた騎士を抱えてその場を掛けていく。
凄い体力だな……。
残った金髪の女は構えを取る、師匠と同じような構えを。
まじまじと見ると異様な女だ。
背後でまとめられた金色の髪がマントに合わせてゆらりと動く。
黄色いマント、黄色い軍服、金色の髪に白い肌。
茶色の双眸は眠たげでありながら、非常に目つきが悪く、その背丈と顔立ちからすればアンバランスに思えた。
「師は?」
「
「貴様も私を大佐と呼ぶか」
「無論。そして伊田閣下の名著は回復され、大将に昇進成されました」
「……何故、未だ来たらぬ先の世の貴様らが芦屋に与する?」
「三岳殿に救われた時には、既に刻印が刻まれおりましてね……それに」
「それに?」
「……神土大佐、いや、征四郎殿は勇者と言う存在をご存じで?」
何か話がこんがらがって来た。
三岳とか言う人の名前は聞き覚えがある、確か師匠の元部下で……映像で見た人だ。
助けられたと言うからあの時の少女が今出会った二人の女なのか?
それに輪を掛けて、勇者ってなんだよ? アビスワールドにだってそんな陳腐化した職業は無かったぞ。
「英雄の類?」
「いいえ、芦屋が定めた聖天教の最高位戦士。異界より呼び寄せた人物をそう呼び戦の備えをしておりますよ」
「お前たちがそうだと?」
「まさか! いや、そうであれば良かったのかも知れない……。芦屋は貴方を恐れている。故にその血族を用いた……」
「――誰をだ?」
「
その名を聞いた瞬間に師匠が放つ殺意が最高潮に達した。
だが、その殺意を前に目つきの悪い金髪の女は揺るがない。
「お怒りはごもっとも。彼女がそこに在る限り、私達は貴方の敵とならざる得ない」
「草間の家に預けられたお前達だからか」
「思い出して頂けたようで何より。恩人に牙を剥くのは甚だ不義理なれども、桜子を草間の家に帰すまでは……」
「人の心を縛るが芦屋の技、か。如何して話す?」
「いえね、そう言う訳でまだ死ねんのですよ。この場を生きて帰るには……ねぇ」
「情報を漏らしても、私の剣を覚えた騎士さえ帰還すればそれで良しか」
「彼は傑作だそうで」
互いにこゆるぎもせず構えたまま対話を続けていた二者だったが、師匠が赤刀をおろすと金髪の女も剣を下した。
そして、師匠に一礼すれば、黄色い風の様にあっと言う間にその場から姿を消してしまった。
「
師匠はそう呟き、刃を鞘に収めれば、未だに戦いの声が聞こえる方へと向かって歩き出した。
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