第10話 欲望都市へ

 結局、俺は夜の来訪者について師匠に報告したのは翌朝だった。

 ダロスンさんが言うには、そんな容姿の住人はこの村にはいないと言う事だが、気になる事があると言う。


魅了チャームと言ったのか? それを使うのは邪神とその眷属のみだ。この世界で邪神と呼ばれるのは欲望都市の七柱のみ。そうなると向こうからも接触してきた訳だ」

「何で、俺を?」

征四郎せいしろう君は、ほれ、難易度が高そうだと感じたのだろう。その点ロウ君は楽に篭絡できると考えたのでは?」


 結構酷い事言うなこの爺さん。

 しかし、まあ、師匠と比べれば確かに俺の方が楽に色々出来るのは確かだ。

 悔しいが。


「そう言う事であれば、この先も接触を持とうとするだろうね。ただ、最初の接触の仕方を誤ったと言って引き下がったのは面白い。己の術を破った者だからか、それなりに尊重してくれたわけだ」

「破ったって言っても、直前で我に返った感じなので……」

「そうならない奴が多いのだろう。なぁに、これから連中の根城に行くんだ。嫌でも顔を合わせる事になるだろう」


 師匠はそう不敵に笑って、赤土色の双眸を細めた。


 村を出発しようとすると、何人かが声を掛けて来た。

 邪神と言う連中がどう言う存在で、味方になってくれるのかは分からないが、それでも村の現状を変える旅になるかも知れない。

 何人もの人が頼んだよと声を掛けて来た。

 他力本願だと思う気にもなれない、彼等は世界からつま弾きにされてしまったのだ。

 せめて、普通に暮らせる様になったら良いと思いながら、俺達は村を出た。


 ウーダー山地へは何カ月かかるだろう?

 その間に聖天教とか言う宗教が変な動きをしなければ良いのだが。

 ……宗教か、そう言えばこの世界の土着の宗教ってないのかな?


「師匠は、聖天教以外の宗教はご存知ですか?」

「力ある宗教は聞かないね。皆、土着の神だよ」

「あ、やっぱり幾つかはあるんですね」

「そうだね、それら土着の神への信心は、聖天教の神への信心に取って代わられたらしいが」

「……聖天教はやっぱり、救世主関係なんですかね?」

「いや、不浄を一掃する事で聖なる神が降臨するそうだから、神の子は無論、預言者も覚者も関係ない」


 不浄ねぇ。

 それが魔法職だったり、土着の宗教だったりか。

 そうなると邪神とも敵対している筈だ、魔法職の味方になるかは分からないが敵になる事は無さそうだな。


「邪神は、どんな感じなんでしょう? 俺が知る知識は古い上に曖昧だから」

「そいつを知っているならば、これからその根城に行く事は無かったかもしれんね」

「ああ、そうか……」

「だが、この先、いかなるモンスターが出て来るかは分からない。諸国が管理する平地とは程遠い危険が蔓延っているだろう」


 師匠の言葉につばを飲み込み、頷きを返す。

 オーガですら奇妙な変質を見せていた。

 高レベルの変質したモンスターが、或いはレベル何て意味を成さない師匠の様なモンスターが出てくる可能性もある。

 そう覚悟したはずなんだが、欲望都市への道行きで出会った事件やモンスター達は、どれも複雑怪奇な出来事であったり、妙に人間らしい化け物たちばかりだった。



 欲望都市に向かって旅を初めて10日。

 荒野を抜けて諸国の領域に入ったまでは特に問題は無かった。

 だが、再び諸国の領域を抜けて、整備の行き届かないでこぼこした街道を歩いていると、廃墟と思しき一角に出会った。

 何故かは知らないが、郷愁に駆られてその廃墟に足を踏み入れて……気付くと惨劇の現場にいた。


「し、師匠! 助けなくては……」

「……武装した兵団を相手にか? 二人だけでは骨が折れるが……」


 武装した連中の手で家屋に火がかけられ、逃げ惑う住民たちの悲鳴が木霊している。

 これを助けないのは、人間としてどうかと思う。


「それに……こいつはある種の夢だが、死は現実にも訪れるぜ。それでも、やるかい?」

「夢……?」


 そ、そうだ……俺達が立ち寄ったのは廃墟だった。

 これが過去の幻を見せられているだけかも知れないと師匠の言葉で気づいたが……。


「やりましょう。俺はこの惨状を見過ごせません」

「その言や良し」


 師匠は一つ笑えば、赤錆めいた色見の刀身を鞘から抜いて武装した一団に闊歩していく。


 轟々と燃え盛る炎が、武装した連中の旗印を赤く靡かせていた。

 それは赤い布地に黄色く天使らしき者が描かれている。

 いや、あれこそ悪魔かも知れない。

 背に翼のある人型であれども、フードを目深に被っているのだから。


「……黄衣の神か」

「師匠?」

「聖天教の旗印だ、覚えておくと良い」


 師匠の語る言葉には、あからさま嫌悪が混じっている。

 アビスワールドとは別の世界から来ながら、土着の魔法職でもある師匠は謎が多い。

 だが、聖天教が師匠にとっては敵である事は分かった。

 敵は言い過ぎだとしても。少なく見ても、嫌いなのは明白だ。

 そんな師匠に続いて、俺もロングソードを抜いて燃える街へと足を踏み入れた。


 そこで目を覚ました。

 やはり、そこは単なる古ぼけた廃墟でしかない。

 先程の幻が、現実にあった事なのか、適当な過去なのかもわからない。

 ただ、聖天教と言う存在を、俺も嫌うには十分な体験だ。


 しかし、こんな体験はまだまだ大した物でなかった事を後の俺は知ることになる。

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