第9話 世界の実状

 師匠とロズワグンの掛け合いの声が聞こえてくると、ダロスンさんは俺に話しかけてきた。


「色々と聞きたい事があるんじゃないのかね?」

「え、ええ。でも、良く分かりましたね……?」

「ここ最近も何人か操者を迎え入れたが、皆、色々と聞きたがったからね」


 そうか、この村には何人か俺と同じプレイヤーが居るのか。

 そう感慨深く思うも、操者と言う言葉を少し前に聞いた事を思い出す。


「転移者と操者は違うんですか?」

「ほう、そこに気付いたのかね? アビスワールドから来た者を転移者と呼び、この世界の者の魂を触媒としなかった存在を操者と呼ぶ。祖父はプレイヤーとも呼んでいたが……」


 プレイヤーが操る者か。

 それは何となく分かったから良いけど、今気になる事を言ったな。


「この世界の者の魂を触媒としなかった存在、と言う表現は……どういう意味で?」

「アビスワールドなる世界には、魂を持たざる住人が居たのだろう? 彼等はこちらに顕現する時にその場にいた者達の魂を触媒に生を得たと言う」

「――ぇ」

「操者にあらぬ者……祖父はノンプレイヤーキャラクターとか称していたが、彼等が自我を得て生活を営む為には、多くの原住民の命が必要であったそうだ」

「……」


 途方もない話だが、ある種の納得は出来た。

 データに過ぎない存在がこの世界の原住民の命をベースに新たに生を得たのだ。

 それは、非常に冒涜的な出来事のように思われた。


「一方の操者は魂を持っていた。おかげで、魂を新たに生成した者達よりは戦闘能力などが高かったと伝え聞く。今は混血も進み、そこまでの差はないようだが」

「操者とそれ以外の転移者との間でですか?」

「いや、転移者一般と元からの住人とのだよ。かく言うワシも操者の血を引いておる」

「操者の歴史を書かれたラギュワン・ラギュ氏のですね」

「ああ、そうだ」


 ――師匠とロズワグンの掛け合いはまだ続いている。

 本当に楽しそうだな、あの人。


「彼があそこまで楽しげなのは珍しいね」

「ですねぇ。……師匠は、どういう経緯でこちらに?」

「征四郎君かね? それが……彼はこの村の更なる東の地、深淵より来た」

「深淵……」


 あの不定形の生物が「深淵の泥」だったっけ?

 あれの巣窟なんだろうか……。


「父が探し求めた赤刀せきとうを手に、呪術師である証の赤土色の瞳の征四郎君が村に現れた時は、どうなるかと思ったが……」

「呪術師?」

「この世界固有の魔法職さ。彼は言うなれば魔法剣士だ。非常に独特ではあるが」


 確かに師匠が攻撃する時とか、赤土色の輝きが迸る時があるけど、アレが呪術なのだろう。

 師匠の強さはその呪術と関係があるのだろうか?

 全くないとは思えないが、そればかりではないと思える。

 日々の鍛錬を欠かさない師匠だからこそ、その呪術も上手く強さに変わっているのだろう。

 と、考えつつ魔法職との言葉に引っかかりを感じて、先程感じた疑問を思い出して問いかける。


「そう言えば、魔法職は不遇職とおっしゃってましたが……アビスワールドではそこまでではなかった筈なのですが……」

「ふむ、それには転移者がこの地で生み出した宗教である聖天教が絡んでくる。彼等の教義に癒しの術以外の魔法は、邪悪なる者が与えた力であると言う物がある」

「はっ?」


 なんだそれ? 何処から出てきた設定だ?


「大抵の操者は今の君の様な反応を当初はする。だが、この世界での生活が続くに連れて……」

「受け入れるて言うんですか?」

「魔法職、つまり魔術師、召喚士、錬金術師かその流れを組む者以外は」

「……何故です?」

「或いは君ならば分かっているのではないか? 征四郎君に助けてもらった君ならば」


 俺は師匠に合うまでの数か月間を思い出す。

 それと同じような感じで考えると、グループ内で階級を、一番階級が下の者を作り、多くのしわ寄せが下の者に行くことによってグループ運営を上手くやると言う事だろうか?

 それって……自分より下が居るって安心するって事か?

 でも、もし師匠に出会う前に俺がそんな話を知ったならば……。

 一番下と思われていた俺より尚、下の連中が居るんだって事になったら、どうなっていた?

 それを考えると腹立たしいし、ぞっとする。


「操者の中で階級を作って相争わせる? 或いは日々の鬱憤うっぷんを魔法職にぶつけさせるために?」

「そうだ。そうすることで能力に差があった操者の一部を国や宗教が取り込み、支配の糧にして来た」


 それで魔女狩り、か。

 最悪じゃないか、この世界はゲームバランスがクソだったアビスワールドよりもさらに色々とロクでもない……。


 俺がこの世界の出来事を知り、ショックを受けている間にロズワグンは覚えていろの捨て台詞を残して村を去ったようだ。

 そんな言葉の後に程なくして師匠が戻って来たからだ。


「何だろうね、用事があると言う割には喧嘩を吹っ掛けられる」

「で、手加減なしに叩きのめしたんですか?」

「今回はこの間程ではないよ、あと数手で終わると言う段に、あちらが突如切り上げたから」

「相手は一人で?」

「ああ、お付きはいなかった」


 師匠は其処まで告げてから、僅かに声を落として。


「戦い方を臨機応変に変えて来た。彼女は逸材だね」


 その言葉には何処か満足げな響きがあった。



 その日はダロスンさんの家に泊まり、次の日には欲望都市へと向かう事になった。

 だから、今は客間のベッドの上で横になっている。

 師匠はまだダロスンさんと話している様だが、俺は早々に寝る事にした。

 色々と聞きたい事はあったけど、今日話を聞いた事だけでお腹がいっぱいだからだ。

 現状を実感し、納得しておかないと思わぬ所で足を掬われそうだ。

 だから、今はこれ以上の情報はいらない。

 ただ……「剣聖」と何が揃うと世界の均衡が崩れるんだろう?


「厄介ごとに巻き込まれた感じか」


 まあ、異世界に転移した時点で十分に厄介なんだけどさ。


 悶々と考え事をしていたら、不意に窓を叩く音がした。

 ……何だ?

 俺はそっと窓を伺うと……外に見知らぬ美女が立っていた。

 赤い髪を後ろで束ね、凛とした顔立ちの戦士と思しき姿。

 そんな人が夜中に俺の所に来る? どう考えても怪しい……。

 怪しいのに、俺はフラフラと窓に赴き手を掛けていた。


「っ!」


 途端に正気付いたのか、俺は自分が何をしようとしているのか気づき、慌てて一歩下がる。

 赤い髪の女戦士は、その様子をじっと青い瞳で見ている。

 なんだ、こいつは……?

 俺の夢か?

 それとも……

 俺は昔聞いた怪談を語る芸能人の言葉を思い出した。


(こいつ、生きてる人間じゃぁないんだ!)


 幽霊? マジもんの幽霊?!

 そうだ、俺の所にいきなり美女が来るなんてそれ意外に考えられない!

 と、取り憑かれるのか……


 そんな事を考えながらじっと赤い髪の女戦士を見つめていると、不意に女戦士は息を吐き出したように見えた。


魅了チャームを破るとはやるじゃねぇか。あの男のオマケと思っていたが、中々侮れねぇな、お前」

「……」

「取って食いやしねぇよ……とは言え最初の接触方法を間違えた。日を改めてまた来る」


 そう告げて去った女戦士の背をしばらく見つめていて、俺は相手が生きて居る者であったことを悟った。


「よ、良かった……あ、いや、良くないのか」


 幽霊じゃなくて良かったけど、不審人物を見逃した事になる。

 今から追っても間に合わないし、明日、師匠に報告しておこう……。

 しかし、何処かで聞いた声にも思えたが、はて?

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