第6話 空飛ぶ魔剣と襲撃者

 不遇職の村に向かって師匠と二人で進んで行く。

 そして、夕方まで街や村など人の住む場所に辿り着けず野営となれば、俺の修行が始まる。


「スキル、だったか。ロウ君はどんな物が使えるんだ?」

「剣を振る攻撃系が幾つか、後は防御系やヘイト稼ぎのスキルです」

「……ヘイト稼ぎ?」

「ええと、モンスターが俺を攻撃したくなるように挑発したりするスキルです」

「――つまり、ロウ君の戦闘時の役目は前に出て、敵の注意を引きながら味方が攻撃するのを手助けする役回り?」

「です、です」


 師匠は当然MMOについては良く分かっていない。

 それでも、俺の持っているスキルとか行動から幾つかのパターンを割り出して提示してくる。


「一番初歩の攻撃スキルとやらを使ってみてくれないか?」

「大したのじゃないですよ?」

「でも、攻撃スキルの根幹ではあるんだろう?」

「ええ、まあ」


 どういう意味か把握しきれず、曖昧に頷くと是非に見たいと師匠が言う。

 仕方なく、俺は初歩のスキルであるヘビーアタックを使う事にした。


 ヘビーアタックは普段の攻撃よりもタメが必要だが、1.5倍のダメージを与える攻撃スキル。

 タメ動作は一度腰を落として、それから盾を構えたまま一歩踏み出し渾身の一撃を放つ。

 今の俺ならば、つまり盾と長剣を装備している状態なら横凪の一撃を放つ。

 実の所、こいつは、アビスワールドでレベルを上げていつの間にか使える様になった攻撃だ。

 師匠の様に鍛錬で積み上げた技じゃないから、命を預ける確信がなにもない。

 もしかしたら、そう言う所も見抜かれているのか?


 俺の剣が空を裂く音が響く中、師匠は赤土色の瞳を細めて、それから少しだけ首を傾いだ。


「踏み込んだと同時に横凪……か、更に振り返りざまに剣を振り下ろすとかは出来ないのかい」

「え?」


 俺にはスキルに手を加えると言う発想が無かった。

 そもそも剣を振ること自体が幾らリアルとは言えゲームの中での出来事。

 全てシステムにより決められていた事象だ、何かを付け足す何て出来なかった。

 それでも通常攻撃ならばまだ自由に動けるが……スキルで動きを足す? 出来るのか?

 いや、普通に考えればできるんだが……。


「薙ぎを突きに変えるだけでも良い、出来るかい?」

「……やってみます」


 動き方を変えてみようと思いながらスキルヘビーアタックを使う。

 だけれども、何だか先程までと違って攻撃の出が遅い。

 俺自身の迷いが、そのまま攻撃速度に直結している様だった。


「横薙ぎは、それなりだったが、突きは酷いね。……どうもロウ君のそれはまだ技とは言えないようだ」

「そう、ですね。形を変えようと思った途端、半端な感じになった……」

「型は大事だ。だが、型通りにのみ技を出すと言うのは咄嗟の時に不利になるぜ。その辺を意識して練習すると良い。それに……自信無いだろう?」

「うっ……分かりますか? 意識してどうするかは、俺の工夫次第、ですね」

「私が答えらしきものを提示しても私の戦い方にしかならない。剣を振る時は常に考えながら振ると良い。……一応、西洋剣を持った兵士とも戦った事はあるから、多少の助言は出来るが、それでもまずは自分で動きを考えるんだ」


 アビスワールド風に言えば脳死プレイはするなって事だ。

 そして、ゲームと違って何も考えずに剣を振っていたならば、いつかきっと死んでしまう。

 俺はごくりと唾を飲み込み、決意と共に頷きを返した。


 焚火から少し離れて師匠の言った言葉の意味を考えながら剣を振る。

 疲れるけれど、少しコツらしき物を掴めてきた気がする。

 と言っても俺が今、着目したのは盾の使い方だ。

 何で盾かって言うと、ヘビーアタックのスキルを使う時、盾を前に押し出しながら踏み込んで攻撃するからだ。

 アビスワールドでは有用だったが、この世界では盾は其処まで役立たない。

 特にミスリルアーマーを着ていた時は、鎧で防いだ方が楽だし、攻撃に集中できる。


 俺が持っているのは金属製の凧型の盾だが、こいつは防具じゃないと俺は考えた。

 そりゃ咄嗟に攻撃を逸らす事は出来るが、受け止めるのは不向きだ。

 この世界に来たての頃、アビスワールドの癖で一度やったが、衝撃がまともに腕に来て酷い目に合った。

 じゃあ、盾は何か? 鈍器であり牽制の道具だ。

 盾を押し当て体勢を崩したり、殴りつけて怯ませたりするのが良いだろうと思った。

 

 俺が練習の行動を盾の使い方にシフトすると、焚火の番をしていた師匠が声を掛けて来た。

 

「気付いたかい? 気付いてすぐに実行できるとは、君は中々筋が良い」


 そう笑った師匠だったが、不意に押し黙った。

 そして、腰の刀の柄に手を添えると声を掛けた。

 師匠が鋭い視線を向ける方向に、いつの間にかフードを目深にかぶった小柄な人影が立っていた。


「何用かな?」

「レベルが低い筈なのに、かなりのモンスターを殺した男がいると聞いて」

「――前からこの世界の者に言おうとは思っていたんだが……。そのレベルとやらは私の人生を表す物かね?」

「所詮は強さを測るには良い目盛。だが、そんな物で測れる連中では駄目なのだ!」


 声は驚いた事に女の物だった。

 一声あげると、フードの女は背負っていた剣を抜きながら叫ぶ。


「本物かどうか、確かめさせてもらうぞ!」


 くるりとその場で女が回転すると驚いた事に、背の剣は女の手から離れて切先を師匠に向けて、矢か銃弾の様に真っすぐに飛んでいく!


「んなアホな!」


 俺は思わず叫ぶ。

 そんな武器やアイテムはアビスワールドでは見た事が無かったからだ。

 どちらかと言えば古い香港映画で見た伝奇アクションの様だった。

 更に女は飛ぶ剣に僅かに遅れて師匠目掛けて駆けだす。

 フード付きマントの内側から取り出したのは、ショートソードだ。

 腰だめに構え、貫こうとするように師匠に迫った。


 師匠は迫る剣を抜刀して払い除けると、空飛ぶ剣は回転しながら上空に逸れる。

 だが、体勢を崩してしまた所に女が迫る!


「危ない!」


 俺の叫びが響く。

 だが、間に合わない……かに見えたその瞬間、茶色じみた赤色が一瞬煌めく。

 その輝きの源では、ショートソードを師匠の膝と肘が挟み込んで捉えていた。


「……っ!」


 フードの女は慌ててショートソードから手を放して後方に飛び退る。

 と、甲高い金属音が響き、師匠が捉えたショートソードが半ばから折れた。

 すげぇ、あんなの漫画でしか見た事無いんだけど……。

 それに剣が折れるってどういう事だよ……。

 とんでもない人に弟子入りしてしまったと呆然とする。


「……アナライズを試みた。確かにお主はレベル1だが……ははっ、何一つ当てにならぬわ」


 後方に飛んだ女が着地した拍子に被っていたフードがはらりと外れた。

 露になったその顔は美人だったが、何処か異質だ。

 褐色の肌に銀色の髪は異国美人と言った感じだが、側頭部にある捻じれた角や焚火に反射する緑色の瞳孔は、明らかに人とは違う。

 その異形の美人が手を伸ばすと、先程師匠に弾き飛ばされた空飛ぶ剣がその手に戻った。


「殺意も無いのになぜ襲う」

「まずは合格だ。だが、その理由を語るには見極めねばならぬ」

「私は、お前の様な美しい者と戦うのは嫌なのだが」


 あ、うん、師匠が好きそうな人外娘さんですね、ええ。


「う、美しいとか関係ないじゃろ!」

「ある! 私の攻撃の意思が鈍るからだ!」


 ある意味清々しいまでにはっきり言うな、あの人。


「と、ともかく! その腕前をしかと見せてもらう!」


 強引に話を断ち切って女は、剣を構える。

 空を飛んだ剣はロングソードだ、それをバットを握るように構えた。

 対する師匠は少しだけ困った様に眉根を寄せてから、あの構え、刀を棒切れの様に振り上げて左手は添えるだけのトンボに構える。

 うう、見ている俺が緊張してきた……。


 俺が師匠と女の相対を見守っていると、背後に気配を感じて慌てて振り返る。


「だ、誰だ!」


 そこには黒塗りのフルフェイスヘルムを身に付け、同じ鎧を纏った二人の兵士と思しき人影が立っていた。

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