第17話 レベル1、闘技場に立つ(旧1話改定)

 欲望都市と呼ばれる街の中、娯楽に飢えた連中が観客席を埋めているのが一望できた。

 ここは、ゲームの中じゃ廃課金者向けの最終到達地点だったみたいなんだが、今ではすっかり爛れた歓楽街だ。

 ラスダン的な雰囲気も皆無な街中の、ローマのコロセウムを模した闘技場で俺たちの戦いが始まる。


「では、先鋒は私だな」

「うむ」


 先鋒として闘技場に立とうとしている師匠にロズが偉そうに頷いた。

 闘技場での戦いなんてと思うんだが、師匠が今の俺ならばいい所まで行けると言うので出ない訳には行かない。

 レベルもステータスも前と然程変わりはないんだが、確かに戦いが楽になっているから、格上相手に何が出来るのか知るのは楽しみなところはある。


 しかし、万が一師匠が倒れたら次は俺なんだよなぁ……。

 師匠を倒した相手に勝てるんだろうか。


「しかし、小僧を先鋒にせずに良いのか?」

「ロウ君には、まずは私の戦いぶりを見て貰いたい」


 誰が小僧だ、誰が。俺はこれでも22歳だ。

 22歳にしてはキャラメイクで少し童顔になってしまったが……。

 そう文句を言う前に師匠が俺の名前を告げて、次鋒にした意味を告げた。

 そうだ、師匠の戦い方を確りと目に焼き付ける必要がある。

 次からは先鋒かも知れないと思うと、ちと不安だが……。


「まあ、お主がそう言うならば……」

「それより、中堅も副将も居ないのはどう言う訳だ?」


 そうそう、それそれ。

 仲間はあと二人居るからと聞かされているが、一度も会っていない。

 どんな連中なんだろうかと尋ねても、ロズワグンははぐらかすばかりだった。

 ……不意に赤い髪の女戦士と白い髪の女のことを思い出してしまう。

 なんで今思い出すんだろう……。


「――ロウ君、大丈夫かね?」

「え、ええ、大丈夫っすよ、師匠!」

「私には見えないが、私は君のスキルもステータスも否定はしない。私の教えた事も合わせて全て使って戦えるように願っている。そうすれば、あの何とかとか言う小娘にも勝てるさ」


 師匠は振り向き、鋭い目つきで俺を見た後に微かに笑った。

 ……ごめんなさい、別の女の事を考えてました、とは言えない空気だな。


 っと、そうだ、中堅と副将はどうした?

 そう問いたげにロズワグンの顔を見やると、にやりと笑って。


「初戦はこやつが先鋒なんじゃろ? じゃあ、先鋒以外はいらない」

「本当に居るんだろうな?」

「無論だ」


 うさんくせぇ。

 俺がなおも食って掛かろうとすると、師匠が片手を上げて制し。


「まあ、時間の様だ。行ってくる」


 そう言ってコロセウムの中央に向かっていった。



「まさかの事態! 数百年続く邪神七柱の統治に遂に変化が現れるか! 邪神同士の序列を決める代表戦が今行われようとしています! 申し遅れました、私は実況のバルトロメ……」


 なんだよ、実況って。

 神前決闘ってもっと厳粛にやるもんじゃねぇの?

 師匠も流石に周囲を見渡してるよ……。


「ここは欲望都市、飢えた民衆を煽る実況は必要じゃろ?」

「碌なもんじゃねぇや」

 

 アビスワールド、俺がやっていたVRMMOのキャッチコピーは人の暗部を抉りだすRPGだったけど。

 なんか、この世界ってその延長線上でダークな感じが何処に行ってもあるんだよなぁ。

 世界自体がアビスワールドの浸食されちまった様な……。


 俺がそんな事を考えていると、実況が驚きの声を上げた。


「ナグ・ナウロの先兵のレベルが1?! 考えられません! これはどういう事でしょうか!!」


 ……ああ、馬鹿にしてやがる。

 そう思ったが、おっさん実況者の声は少し意味合いが違うようにも思えた。

 だが、看過y区連中は完全に馬鹿にしている様子が丸分かり」で、少しだけイラっとするが、直ぐに押し黙る事になるのははっきりしているからそこまで怒りはわかない。

 ロズワグンも言わせておけと言っておきながら、眉根を顰めて不快げだ。

 この場では俺達だけが師匠の強さを知っていると言う優越感はあまりなく、馬鹿にされている様で不快なだけだった。

 見物している連中も嘲笑ったり、ふざけんな、金返せの騒ぎだ。

 賭けでもしているのか?


 んで、師匠の対戦相手は……でけぇな。

 師匠より頭二つはでかいハゲた大男は、戦槌と大盾を軽々と持ってやって来た。

 防具は革製の鎧だがアレは魔獣の革……課金防具で何でか金属鎧より防御力高いが素早く動けるとか舐めた設定だった奴だ。

 廃課金向けの防具か、レベルは幾つなんだ?

 対する師匠は武器は刀だけ、防具はぼろっちいマントとクラシカルな軍服だけ。


「あのハゲのレベル幾つ?」

「お前な、もう少し聞き方を考えろ。あのハゲのレベルは101じゃ」

「レベルキャップ超えてんのか……廃課金者じゃん」


 師匠が強いのは知っているが、廃課金者だった奴相手に大丈夫だろうか?


「レベル1? あれか? まずは虐殺ショーをお楽しみ下さいって邪神の計らいか?」


 侮ってニヤけながら舐め腐った事をハゲが言う。

 師匠の表情は分からないが、片手を持ち上げて早く掛かって来いと手招いたのは見えた。


「なめやがっ!!!」


 大盾でバッシュを仕掛けたハゲの一撃を最小限の動きで避けた師匠の背中、服やマント越しに筋肉が収縮するのが見えた。

 左手で右腕を抑え込み、力をたわめに撓めている様子が垣間見えた。

 軽く素早い足取りでハゲの懐に潜り込むと、一歩大地を踏みしめながら左手を不意に放して右手を解放した。

 遠心力か筋力か分からないけれど、凄まじい速度で振るわれた右手の甲が鞭のようにしなり、ハゲの顎を打ち抜いた。

 嫌な音が響く。

 それと同時に鮮血と白い欠片が飛び散った。


 顎は無残に砕かれたハゲが呻きながら崩れ落ちる中、師匠は軽く片手を振ってこびり付いた肉片を振り払っていた。


「……見て、役立つのか、あれ?」

「……わかんねぇ」


 嘲笑や怒号が一瞬で静まり返り実況すら黙った中、悠然と佇む師匠。

 それを見たロズワグンの言葉に俺はそう返すのがやっとだった。

 やっぱり強ぇ……俺を救ってくれた時も、ひたすら圧倒的だったことを思い返し、それでもと俺は告げた。


「分かんねぇけど、俺は……ああなりたい」


 この世界に飛ばされて数か月、地獄を見てきた俺を助けてくれたあの人みたいに俺もなる。

 そう改めて決意する。

 そんな俺を見ながら、ロズワグンはにんまりと笑みを浮かべ。


「臆さんのは良い事じゃ。さて、レベル1の男が勝った場合の掛け金はっと」

「おい、邪神の娘。賭けてたな」

「金はいろいろと入用じゃろ? それに初戦しか通用しないからのぉ」


 悪びれもなく言い切ったロズワグン。

 俺は呆れたように息を吐きだしながら、師匠を見やった。


「強い! 強い、強い、強い、強い! こんなレベル1がいるのか!?」


 テンション高くなった実況の声が響く中、師匠は今の一撃が今一つだったかのように首を傾いで、再び拳を振っていた。

 その姿は頼もしくも、恐ろしくもあった。

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