第475話 顔色の悪い国王
財政難とは思えないほど、良質の家具に囲まれた執務室の中で、今や中央大陸一の強国の主となった少年と、その第一の臣下となった男はお揃いの青い顔で俺を出迎えたのだった……。
「トルシェに、大分脅されたようだな?」
「ハハハ。
……察してください」
原因を率直に訊ねると、乾いた笑いと暗い返答が返ってくる。
……どうせ、俺が世界を滅ぼしかねないポカをするとか言った愚痴を聞かされたのだろう。
どうにもトルシェの中では、セフィアを悪者にするのが基本らしい。
前回はテイファ、今回はロッティが発案であることからも分かるように、俺は基本的に巻き込まれただけの事が多い。
それは辺境伯としてやって来た実績から分かると思うのだがな?
「トルシェの奴に何を言われたか知らんが、どうにもアイツは俺を前世であるセフィアと混同している節が強い。
だが、この世界へ来てからの俺を知っているレンターなら分かるだろう?
基本的に、俺は誰かの行動に巻き込まれただけだと……」
「……」
そう言ってレンターに回想を促す。
すると、すぐにこれまでの出来事を思い出しているようで、頻りに視線を動かしたり、眉を潜めたりと忙しなく表情筋を動かし始める。
「……確かに。
サザーラントとの戦争も南部との紛争が原因であり、その大元は"狼王の平原"解放。
……我が国の要請ですな」
あれこれと考え込んでいるレンターに代わって、納得を示すジンバル。
「だろ?
今回もそれと似たようなもんだし……」
大元は帝国の依頼。
……まあ、これまで放置していたモノを利益が見込めるようになって、受けた事実は正しいが。
「更に言えば、グリフォンをあの山脈へ追いやったのは王都奪還の軍略による物だ」
……俺の暴走による処もあるが、そちらを敢えてアピールする気はない。
言わなければバレないし。
「……その話はマーキル王国併呑にも関わっていますね。
確かに先生がトラブルを起こしていると言うよりは、巻き込まれていると言うのが正しいような……。
大きくしているようには感じますが……」
……気付いていたか。
それも間違いなく事実。
あれこれとやりようがあったはずだが、それらの中で火種を大きくする手段ばかりを選んでしまっていたのも事実。
無論、わざとじゃない。
俺だって、当時においては最良と思う選択肢を選んでいる。
……当然の話だな。
敢えて、不利益をもたらす選択を選ぶ趣味はない。
「それに関しては結果論に過ぎん」
「……確かにそうですな」
俺の半分開き直った言い分に、苦笑で応えるジンバル。
言わば実行犯より黒幕の方が質悪いだろ?
と言う開き直りに気付いたらしい。
「さて、本日のご用向きは?」
多少なりとも得心を得たジンバルが本題を促す。
この流れで、言うのは少し気まずいのだが……。
「少しばかり、トルシェに用事があってな?
何処へ向かったか聞いているか?」
「「……」」
トルシェに少し用事があるとだけ告げたら、主従で顔を見合わせられる。
……不審な態度を見破られたか?
「……先生、今度は何をやわらかしたんですか?」
「……何でそうなる?」
一瞬、もう感付かれた!
と慌てそうになったが、幾ら何でも早すぎだと少し惚ける。
「トージェン様の配下に直接言えば良い話ですよね?
それをしなかったのは……」
なるほど。
配下に言うのも憚られるヤバいことだと勘繰られたか。
「違う違う。
トルシェの配下の存在を忘れてただけで他意はない。
そうだな。
最初からネミアに伝えれば済んだ話だ」
「そうですか?
なら……」
「……本当に大丈夫なのですかな?
わざと忘れていた振りでは?」
俺の言葉にあっさり安堵のレンターに対し、疑いを向けたままのジンバル。
面倒くさいヤツである。
「本当に大した事じゃない。
ダンジョンだと思っていた亜空間が異世界だっただけだ」
「……そういえば、先生は発生したダンジョンの確認に行っていたんですよね?
大した広さじゃなかったのかと安堵していたのですが……」
あ……。
うむ、ここは、
「ああ。
ダンジョンではないのでコアもない。
だから早めに切り上げてきて報告をな?」
「そうですか。
問題はないんですよね?」
「それは大丈夫。
誰も批難してくることはない」
問題がなければ、批難される謂れはなく。
問題があった場合、把握出来る頃には俺も含めて全滅しているので、批難の声は上げれない。
と言う事実を少しばかり省略して伝える。
どうせ、人族のレンター達が関わる事象ではないのだから……。
この時の俺は、どうせバレないと高を括っていた。
ある意味、これも選択肢を誤ったと言えるのだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます