第440話 帝国の闇
「……それで?」
ミフィアの案内に従って山裾の森へ入って、すぐの沢に腰を落ち着けた俺とゴレアス。
マナ達は少し離れた場所で、魚取りをするとかで別行動となった。
警戒心の薄い魚を簡単に手で取れるのは、確かに楽しい娯楽になるが、敢えて、それをこのタイミングで提案する辺り、霊狐達或いはミフィアの誘導だろうと想像が付く。
そして、娘2人をそれとなく引き離す霊狐達の行動から、グリフォンが抵抗したとかの単純案件ではない、と言う予想が成り立つ。
場合によっては、"汚い"行動も必要と想定しているのだろう。
つまり、
「こんな辺鄙な山奥に住んでいる知的生命体があり、グリフォンとの共存が成り立っていると言うことだろうか?」
「……正解。
私も驚いたわ」
俺の推測を肯定するミフィア。
同時にその知的生命体が、所謂、人に分類されることも事実だろう。
相手がゴブリンのような人に害をなす魔物なら悩む必要がない。
……いや山奥にひっそり暮らす分には、本来なら殲滅するべきではないのだろうが、将来的な害悪の予防と言う点で、まだ弁明出来ると言うのが正しいか?
「……しかし、何でグリフォンとの共存が成り立った?
いくら俺に蹴散らされた後だったとは言え、グリフォンは高位の幻獣だぞ?」
気位も高いし、戦闘力にも長けている。
とても人に従うとは思えないのだが……。
「複数の誘惑系スキル持ちがいるみたいよ?
霊狐達もその村の周辺に行くと、引き寄せられそうだと言っていたわ」
「……うちの霊狐相手に影響するレベル?
つまり対象範囲が広い割に、強力と言うことか」
誘惑系に限らず、精神へ影響する能力と言うのは、対象が拡がるほど効果が落ちる。
当然の話だろう。
食べ物に例えるなら、非常に美味の果物だとしても、肉食動物が喜んで食べるはずがない。
「違うみたいよ。
体内の精霊力が引き寄せられているみたいだ、と言っていたわ」
「……確かにグリフォンにしろ、霊狐達にしろ、精霊力との親和性が高い種族だし、精霊力への干渉であれば不自然ではないのか?」
「そうみたいね。
それに加えて、うちには水霊の要素を強く持つ子もいるわけでしょ?」
……確かに、レナにクリティカルヒットしそうだな。
だが、
「そんな奇妙な体質聞いたことがないな?」
「だよね……」
これはセフィア時代の記憶も含んだ上での考え。
周囲の精霊力に影響を与えると言うなら、精霊力に乱れがあるはず。
その異常をあの当時の俺が気付かない?
……まず有り得ん。
「……私には少しだけ心当たりがあります」
「うん?」
「心当たり?」
俺達に対して、一緒に報告を受けていたゴレアスが口を開く。
その言葉に反応した俺達に頷くと……。
「我々のラロル帝国は、今でこそ中央大陸一古い国ですが、その入植に際しては幾つもの紆余曲折がございます。
そもそも、我が一族よりも前にラロル地方へ派遣された一族が幾つもあります」
「入植に失敗していたのね?」
「それ自体は不思議ではないが……」
いくら龍人として高いスペックがあっても、それで万事丸く収まるはずもない。
故郷と違う環境に伴う病気、特に固有の風土病等は多少の高スペック程度では手に追えんし、食糧確保にも苦労があっただろう。
「……確かにそういう要因もあったと思われます。
故にかなり後手組であった我が一族にまで、出番が回ってきたのだと伝えられることになりましたから……」
"伝えられることになりましたから"、……つまり歴史の書き換えがあったと言うことだな?
「ですが、実際の所は異なります。
我が家は入植部隊を率いた、ある高位貴族の寄子であり、その方々と入植した部隊の者の内で、逃げ帰った者の子孫です。
入植先で、我が一族の寄親を含めた高位貴族の方々が、とある男性に骨抜きになった事実を、陛下に奏上した下級貴族の男を初代としております」
「……なるほど、確かにその方がアーランドにもラロルにも都合が良いな」
撤退してきた配下だった! よりも、最初から後発の入植部隊でしたの方が通りが良い。
そして、それを今語るのなら……、
「その男の能力が、精霊への魅了ね?」
「……当時の状況からの推察ではありますが。
元々、アーランドの龍人は精霊との感応が低い者が大半。
その中にあって、派遣された一族は比較的に高い者が殆んどだったとのことでした」
まあ、アーランドの大本はセフィアお抱えのパティシエールだからな。
あのセフィアが精霊感応等を重視するはずもなかっただろうし……。
そんで、精霊感応が高い人間を派遣するのは理に叶っている。
精霊との相性の有無は、自然災害に遭遇した時の対応力に、雲泥の差をもたらすからな。
そして、現在ラロル帝国があることを考えれば、
「その魅了男と篭絡された連中は、排斥されてこの山脈に流れ着いたのか……」
「……そうなりますね。
男に関してはこの世からの排斥だとのことですが……」
……ああ。
暗殺の類いね。
「そして、その男が消えたことで、正気を取り戻したお方々は本国に戻られ、ラロル帝国の建国となった次第です」
「まあ、理由はともあれ、裏切りの事実は覆らないからな……。
つまり、ゴレアスが言いたいのはグリフォンを操っている奴は、その男の子孫と言うことか?」
「推論ではありますが……」
……暗殺の混乱で、行方不明になった血縁者がいても不思議ではないし、例えば身籠っていた娘がいたら、お腹の子に危険が及ぶ本国へ戻る選択はない。
危険分子がないなら、立場を弱めた貴族に目を向ける奴も少ないだろう。
そして、有耶無耶の内に今に至る。
一応ラロルの皇族達は、その危険を代々伝えていたようだが……。
「さて、どうしようかね?」
ぶっちゃけ、人知れず全滅してほしい集団だ。
誰彼、構わず精霊感応力の持ち主を誘惑するなんて、迷惑すぎる。
だが、そうなるとグリフォンをどうするかと言う話になるわけである。
マジで面倒……。
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