第419話 領主のお仕事

 "力ずくでの領地開発くらいしか出来ないので、そういう仕事を振られる"


 娘を迎えに向かう時は、そんな事を思っていたのだが、あいにくと俺の想定は裏切られる運命であり、マナとレナを引き連れ、戻ってきた俺を待っていたのは大量の書類達であった。

 それも陳情書と呼ばれるものであり、特に面倒なのが、隣村と資源の取り合いになったので(自分達に優位な形で)裁定をして欲しい。

 と言う類いの陳情書が双方から出されてくること。

 しかも、


「閣下もご存じの通り、辺境伯領の村の多くは各家臣の縁故者が集まった物ですので、代官自身も領民に味方をするわけです。

 そうなると私程度の言うことは聞きません」


 と、シュールが匙を投げる始末。

 急な移民対策の不具合が出てきたわけだな。

 本来なら辺境伯家の家臣として、代官同士が話し合って調整するべき所が、同郷の人間に引っ張られて立場を忘れている節がある。

 もちろん、まともな代官も多いのだが、近隣に1、2人未熟な人間がいれば、正しい行動が取れなくなるのも必然。

 ゴネ得な状況が罷り通っているのが、今の辺境伯領の実態と言うわけだ。

 かと言って、そんな代官を家宰であるシュールが罷免するのは難しい。

 領民に肩入れしすぎているだけで、能力不足でもないし、辺境伯家のために自分の職務を全うしようとしていると言われては、辺境伯家の内政を委任されているだけのシュールには手が出せない。


「……それで俺達の出番と言うわけだな?」

「はい。

 現辺境伯様に加えて、次期辺境伯様の仲裁となれば強気の代官達も勢いを失うことでしょうから」

「……分かった」


 にっこりと笑うシュールに、不承不承ながら頷くしかない俺。

 これも俺が原因なのでしょうがない。

 ……いや、ちょっと待て。

 最大の原因は、


「……恨むならアイリーン皇女でも恨んでいてください。

 彼女がやらかさなければ、こんな問題は起こらなかったのですから」

「そうだな。

 本当に疫病神のような女だ。

 ……普通、停戦交渉中の国の貴族を攻撃するか?」


 サザーラントのアイリーンだと思い至り、それを口にしようとして、シュールに先を越された。

 あのお馬鹿な皇女がやらかさなければ、元皇帝達の一派を辺境伯領に引き取る必要もなく、余っている土地へ集団をバラけさせて配置出来た。


「……本当にアイリーン皇女の仕業なのでしょうか?

 ミルガーナ帝が裏で糸を引いている可能性はございませんか?」

「……ないだろうと思うがな。

 俺達が彼女らを取り込む可能性は決して高くなかった。

 ゼファートとマウントホーク辺境伯家は盟友に近いとは言え、別勢力だぞ?

 当時から俺がゼファートだとバレていたなら別だが……」


 マウントホーク辺境伯家単体で考えるなら、ファーラシア及びゼファート主導の停戦交渉を無視しても問題なく、それはつまり、サザーラントに属する勢力を問答無用に攻撃しても良いと同義になる。

 貴族家の当主を襲うと言うことは、その勢力を滅ぼそうとしたと言うことであり、王国としてもストップを掛けることは出来ない話だ。

 それをしなかったのはゼファートとしては、サザーラントがマウントホークに滅ぼされれば、面目が潰れるから……。


「盟友と属する国のトップの面目があるのですよ?

 当家としては、停戦交渉に追加の賠償を盛り込む形になったのでは?」

「……」


 言われてみると一理ある話だった。

 マウントホーク辺境伯としても交渉のテーブルに着く必要が出たかもしれない。


「……まあ、普通は支払う賠償を重くする行為などは致しませんし、元ミルガーナ帝はファーラシア王家が辺境伯家相手に抱えている借金を知りませんからあり得ない話かもしれませんが」

「ああ。

 確かに魔物領域の1つでも解放すれば、村の配置をもっと分散出来るんだしな……」


 現在の村毎に派閥が出来ている根本的原因に思い至る。

 思ったよりも土地がないのが原因であり、そのせいで近くの村を意識するような流れが出来上がったことが問題なのだ。

 魔物領域を解放すれば村の設置間隔が広がり、別の村の状況を意識する機会も減るのだが。

 王宮から解放にストップが掛かっている。

 これ以上の借金が勘弁してくれと。


「そこは来年の特別法案の施行を待つしかないかと……。

 今は各地の現地調査を行い、紛争になりそうな火種を消して回るしかありませんよ」

「……だよな」


 シュールの現実的な意見に肩を落として同意するしかない俺であった。

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