第343話 とある小悪党の最後

「……堪能」

「そら良かったな。

 まさか、金貨10枚以上も飲み食いされると思わなかったぞ」


 貴族街に向かう道を進む中、ニコニコ笑顔で腹を擦るフィアーナに文句を付ける。

 確かにバノッサは、1つ辺りの単価が高い高級料理店ではあるが、それを差し引いても食い過ぎだろ。


「これ以上は他のお客様へ提供する分がですね……」


 と、申し訳なさそうなコック長の表情が忘れられん。


「……次は貸切りにする」

「どんだけ気に入っているんだよ。

 あの串焼きは良いのか?」


 丁度、最初に食べた串焼き屋の近くまで来たので、冗談半分で話題に出すが、


「そっちもやりたいな。

 ……母。

 あれは何だ?」

「うん?」


 串焼き屋の方を指差すフィアーナに釣られて、目を向けると、妙に小綺麗なおっさんとその護衛らしき男達に串焼き屋の親父が取り囲まれている。


「気になるな。

 少し話をしてみるか?」

「うむ。

 旨い料理を作る人間は至宝。

 多少の犠牲を出してでも守るべき」

「……良いけどね」


 下手に突っ込もうとして、セフィア時代に同じことをしていたのを思い出して踏み留まる。


「おじさん! 串焼き3本ください!」

「まだ食うのかよ!」


 右手を伸ばして、注文するフィアーナに呆れながら、様子を伺おうとするが、


「おお、お嬢ちゃん達か!

 ……今取り込み中なんだ。

 後にしてくれんか?」


 おっさん連中に一瞬視線を向けて断ってくる。

 これは、つまり関わらせたくないけど、自分だけでは手に終えないと言うアピールかね?


「どうしたの?

 このおじさん達に虐められている?」

「失礼な!」

「……フィアーナ」


 ゴキッ!

 顔を赤くして、こっちへ手を伸ばそうとした護衛男の手首をフィアーナが握り潰す。


「ぐうぅぅ!」

「き、貴様!」


 蹲る護衛をみて声を上擦らせる男だが、明らかに腰が引けている。


「いきなり手を出してきた、あなた達がいけないんじゃない?

 護衛同士のいざこざで目くじら立てないわよね?」

「……」


 敢えて、フィアーナが護衛だったと嘯く。

 そうなれば、フィアーナは当然の行動をしただけ、問題はいきなり実力行使に出てきた相手の護衛だったと責任転嫁出来る。


「……私は、彼に串焼きを売ってくれるように話していたのだ。

 横から入ってきて、これは問題だろう?」

「買い物をする態度じゃないわよね?

 だって、屋台からおじさんが出てきているもの」


 誤魔化しに掛かる男を追及する。

 こちらは見掛けは少女でも中身は、目前の連中と同年代である。

 下手な誤魔化しは効かないぞ?


「それは……」

「コイツらは釣り銭を騙しとろうとしたんだ!」

「貴様!」

「フィアーナ!」


 どうやら、フィアーナの実力を知って巻き込んでも大丈夫だと判断したらしい串焼き屋の親父が、事実をバラす。

 男が黙らせようとするので、フィアーナの名を呼んで逆に黙らせる。


「そうなの?」

「ああ。

 いつもより釣り銭が少ないと言い出したから、具体的に説明したら、取り囲まれて兎に角寄越せの一点張りでな!」

「ふぅん。

 あなた達はどういう風に買おうとしたのかしら?」

「……」


 ダンマリを決め込む気か?

 こっちにも手段があるぞ?


「警備隊に突き出しましょうか」

「待て!

 私は貴族だ!

 そんなことをすればタダではすまんぞ!」

「やってみなさいな。

 私だって貴族だもの!

 受けて立つわ」

「ハッタリを!

 所詮、勘違いしている騎士爵家の小娘だろうが!」


 ……まあ、こんな所で買い食いする高位貴族の令嬢ってちょっとどうかと思う。


「そういうあなたこそ、こんなみみっちい真似からして成り上がりの貴族もどきでしょ!」

「愚弄したな!

 このケムーリニ・マカレールを嘲笑ったことを後悔させてやる!」

「マカレール?

 マカレールは改易した家じゃない。

 オークションで爵位が買われて、ダイアン子爵家の次男が、ケイン・マカレールを名乗って当主をしているはずだけど?」

「…………」

「……正気?」


 俺の指摘に真っ青な顔になるケムーリニに問い掛ける。


「……まあ良いけどね。

 衛兵呼んでこないと……。

 国家反逆罪のバカを捕まえたって」

「その必要はありません!」

「……うん?」


 面倒だなと思っていると背後から、近衛らしい服装の騎士達が現れる。


「近衛遊撃隊のヒィッツと申します。

 何処ぞの危険なお姫様が、遊び歩いているので家まで護送しろと命じられて参りました。

 ミフィア様。

 マウントホーク卿の元までご同行願います」

「あらら……」

「マ、マウントホーク!」


 肩を竦める俺に青い顔のケムーリニ。

 まあ、俺がコイツに関わることは今後なさそうだな。


「ケムーリニ。

 お前はこっちだ!

 これまで失った爵位を名乗って狼藉三昧。

 協力者も吐いて貰うから覚悟しろ!」


 そんな男を部下の騎士が後ろ手に押さえ付ける。


「……これまで散々悪事を働いていたようなのですが、どうにも警備隊に内通者がいるようで、何時も煙に巻かれて困っていたんですよ!

 軍務卿に良いお土産が出来ました」

「あっそ。

 ……フィアーナ」


 その辺の話題には興味もないので、フィアーナを呼ぶが、


「串買ったら帰る。

 先に行って!」

「では!」

「おい!」

「フィアーナ様なら大丈夫ですから!」


 置いてって良いと言うし、それをあっさりと受け入れる近衛遊撃隊の連中。

 釈然としないものを感じながら、王都別邸まで連行される俺であった。

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