第323話 マーキル王国からの凶報
「どういう意味だ……」
「良かった。
無事に出会えたのですね」
ジンバルから、マーキル王国へ行く必要がなくなったと言われ、その理由を問い質そうとしたタイミングで、レンターが現れ、その後ろに実務卿達も続く。
「先ほど、王城に辺境伯家の従士ドリトルがやって来ました。
先生に会わせる訳にも行かないので、こちらの方で情報を聞き出したのですが……」
「ドリトル……。
ウエイ卿の血縁で、グリフォスの警備隊長だな」
「ええ。
本人もそのように名乗っています。
現在、辺境伯軍はマクダイン領まで後退して、待機中とのことですが……」
「マクダイン。
北部でも結構東寄りだな?」
「良くご存じですな!」
「ちょっと縁があってな」
マクダインは、イムル家の跡取りの旧姓。
彼の少年を引き取ったのはつい先日だけに、大体の位置を覚えていたに過ぎない。
「それで?
何があった?」
「ファーラシア王国へ支援要請の使者がやって参りました。
相手はレッグ公爵の嫡男アイム・レッグ殿。
彼が言うには、レッグ公爵はマーキル王家の行動を正すために、兵を挙げると言う話らしいです」
つまり、レッグ公爵が反乱を起こすから、助けてくれと言うことだな?
今回の騒動は、全て王家のせいであるとして、手打ちにする気だろう。
「良いんじゃないか?
ここまで混迷しているなら、王家が泥を被るのが一番早いし……」
「……そうですね」
「しょうがないでしょうね。
また、新しい縁を結び直しですか……」
俺としては、もうさっさと勝手に収拾を付けてくれとしか思っていない。
関わりのない内務卿もそれに賛同し、多少業務が増える外務卿も消極的に賛成するが、
「……おかしな話じゃないか?」
「うん?」
ただ1人、軍務卿のみが違和感を訴える。
「どういう意味です?」
「支援を求めるのは分かる。
だが、まだ戦ってもいない状況からの支援要請と言うのは変だ。
普通はある程度戦ってから支援要請を出す。
でないと、援軍に国を乗っ取られるからな!」
「……そんなものか?」
代表して外務卿が訊ねれば、タイミングの問題を示唆する軍務卿。
別に先に支援を求めようが、後からだろうが一緒だろう?
「国を守る以上は、独力で国内を安定させる力が必要になる。
せめて、1戦して現政府と遜色ない力を示さなくてはならん!」
……ああ。
最初から他国の力を宛てにしていたら、戦後も駐留軍が置かれ、徐々に実効支配されていくな。
そんで、その内同化が進められて最終的に、援軍の国に吸収合併。
「何を企んでいるのだ?
……実は我々を騙し討ちにする魂胆か?」
「……ああ。
だから、レッグ公爵家なんだな?」
宰相の呟きに、納得する。
縁がある家の要請だから違和感を隠せると思ったと言うことか。
だが、
「丁度良い。
このまま、マーキル王国を奪ってしまおう。
あの国を奪えば獣人勢力と直に交渉出来る。
連中は力を信奉する傾向が強いが、こっちには俺がいるんだし、マーキルを呑み込めば、有益な貿易路が出来上がるはずだ」
「ちょっと!」
この1年、マウントホークの行動が目立ちすぎたのだ。
マウントホーク辺境伯家の外部への消極さを、いつの間に周辺の国はファーラシアが侵略に消極的と勘違いしたのだろう。
捕らぬ狸の皮算用ではあるが、間違いなく儲かるはずだと考えていると、レンターが呼び止める。
「分かっている。
リドル王以下の王族は辺境伯領で保護する。
代官職は幾らでも空きがあるからな!」
俺が手に入れたい物を口にしつつ、誘導を図れば、
「そうなれば、マーキル城は我々が先に占拠する必要があるな?」
「ああ。
うっかり攻城戦の途中で、宝物庫が空になっても戦時の事故だろう」
元王族の保護と言う大義名分とその際に想定される"事故"を言及する。
援軍に呼んだ相手に行政府を先に抑えられる。
レッグ公爵家とその勢力だけでは、マーキル王国領は差配できないと周囲に印象付けれるわけだ。
向こうは、恐らくこちらの主力に大打撃を与えて、講和を引き出そうとしているのだろうが、そうはさせない!
奇襲の隙を与えずにマーキル王都を奪い、マーキル王国を奪い取ってやる。
……変な救援依頼に騙し討ちを仕掛けられたと思い込んだ俺達は、マーキルが貧乏であると言う事実を忘れていた。
結果、尻拭いをすることになった中小の下級貴族から、遠回しな嫌みを聞かされる。
特に俺が!
だが、敢えて弁明をするなら、初めて訪れた時のマーキルはジンバットと同程度の街並みだったんだ。
シュールの忠告よりも印象に残っていて当然だと思う。
まあ、それは別の話だ。
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