第321話 これだから貴族ってのは!
ファーラシア王城のいつもの会議室。
「お前ら汚いんじゃないか?!
新人貴族相手に普通あんな悪どいことやるかよ?」
いつものメンバーを前にして、俺は盛大に文句を口にする。
発端はアルフォード率いる食い詰め者達を生焼けで放置した直後。
王都別邸に戻った俺の元に、フォックステイルのラーセン支店長を任せている人間から、連絡が入ったのだ。
それは、
「普通! 借金のある商会の方に『以後、当貴族家との交渉で便宜を図る義務』なんて付けんだろ!
卑怯だぞ!」
しかも、
「良いんじゃないですか?
これでフォックステイルは王家御用達ですよ?」
ジンバルに唆されたレンターによって、王家にまで便宜を図る必要が出てきた。
「……。
……具体的な話をしよう」
「……ありがとうございます」
実の父親を焼いてきた直後に、その息子を糾弾する気力はあまり沸かなかった。
きっと、ジンバルなりにレンターの気持ちを整理させようとしたのだろうな。
アルフォードとレンターは、お世辞にも仲の良い親子じゃなかった。
それでも、多少なりとも情はあったのだろう。
……少なくともレンター側には。
それを殺した相手に、ちょっとした意趣返しを仕掛けて、少しでもストレスを軽減したかったと言う思いがあるのは自然だろう。……本人に自覚がなくても。
しかし、
「王家への配慮とお前らの実家への配慮は別だからな!」
俺達の感情を利用して、分け前を掠め取ろうとする不届き者には釘を刺す。
「ははは。
さすがに無理ですわな」
「……まったく」
弱々しい表情で笑うジンバルに、それ以上の追及は控える。
さて、今回俺は何をされたか?
コイツらは、俺がフォックステイルを通じて買収し始めた店の債券を買取り、その内容を帳消しにする代わりに、便宜を図ると言う形に書き換えた。
それを知らないまま買い取ったフォックステイルは、店の債券通りにコイツらやファーラシア王家に便宜を図る余地が付いてしまい、便宜じゃなくてお金で払うと言うことが出来なくなったのだ。
……よくもまあ、こんな悪どいことを考える。
「まあまあ。
あくまでもここで交渉する予定でしたので……」
「ふん。
最初から商品を何割引きで卸すとかにしておけば、対象となるのは買収前の店と取引のあった品だけだろう?
恩を売ったみたいに言うな!」
「誤魔化せませんか?」
「全部突っぱねようか?」
「……すみません」
仇を恩情のように見せ掛けて来るジンバル達に、抽象的な内容で契約とは言えんと突っぱねるぞ? と叱れば、さすがに観念して頭を下げる。
……そう。
やろうと思えば突き返せる内容だ。
それをすれば、コイツらが丸損。
だが、それで責任を取って当主交代とかも、今後の付き合いを考えればやりたくない。
つまり、お互いにそこそこ譲歩した決着をしようとなる。
「王家に関しては2割で期限は半年。
各貴族家は1割半年と言うところか……」
「いやいや!
せめて2年!」
「バカを言うな!
それぞれ金貨100枚程度だろうが、取引量から言ってもお釣りが出るはずだ!」
「バカな! バレていただと?!」
ご丁寧に、ファークスが武具系、フォービットは文具でノリックが贈答品の店と言う具合に偽装していたが、俺が王宮に乗り込んできた時点で気付く話だろう!
「……せめて、1年。
協力者へのメンツがな……」
「「バカ!」」
「……ほう」
フォークス軍務卿が口を滑らせ、内務卿と外務卿が慌てて止めようとしたが、俺の耳にしっかり届いた。
しかし、良く考えれば当たり前の話だった。
金貨200枚程度は組んであるだろうが、それで博打は打てんよな!
「そうかそうか。
じゃあ、下手に失敗すると大変だなぁぁ!」
「何が望みだ!」
「いやいや、2年分の満額回答で良いと思ってな!」
「「「……」」」
「そう警戒するな。
実務卿達との誼だ。
遠慮せずに受け取ってくれ!」
敢えて、実務卿であることを重視していると、宣言する。
つまり、2年間安く物を売ってやるから、必要な時にマウントホークに優位な法案を通せよ? と言う脅し。
俺の心優しい提案に真っ青になる3人だが、当然だな。
私的な借金を帳消しにしてやるから、自分が取締役の会社経営に口を挟ませろと悪徳高利貸しに言われたようなもんだから……。
……まあ、何もしないんだけど!
あくまで、からかっているだけに過ぎん。
だってやろうと思えば、ファーラシア王国を乗っ取るなんて簡単よ?
武力でも経済力でもどっちでも奪える。
だけど、実際にやったら統治と言うマゾゲーが待っている。
俺が侯爵とか大公になるのが嫌なのも、それが原因だ。
書類仕事の嫌いな脳筋の振りで、世代交代まで逃げ切ってやる。
「王家やジンバル家はそのままで良いですよ」
「そうか?
ではそれで……」
一段落したタイミングでジンバルが、入ってるのでそのまま了承する。
「……辺境伯は人が悪いようだ」
それを聞いていた内務卿が、状況を理解して呆れる。
最終的な承認権を持つ王家が、通常対応だから俺に国政に口を挟む気がないと気付いたのだ。
「どういうことだ?」
「お主はしばらく反省しておれ!」
しかし、それに気付かない軍務卿。
怒ったままの内務卿が反省を促して話を打ちきる。
確かに他の実務卿に比べて、口が軽い印象だな。
「それで?
本当に2年分の優遇で良いか?」
「いえ、どこまでが冗談かも分かりませんので、半年分で十分です」
「そうか」
俺の気が変われば、今の国政に口を挟まないが冗談になる可能性もあると気付いているか。
低いものでもリスクがあるなら管理は必須だしな!
そう思いながら、フォービットに対してはジンバル並みに警戒が必要と心に留め置くのだった。
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