第319話 王都待機
「少なくとも向こうが布告をしてくるまでは待ってくれ」
早速、炙りに行こうとした俺はジンバルの言葉に止められ、一旦、王都に待機することになった。
現時点では、アルフォードが息巻いていることを密偵から報告されているに過ぎない状況。
この状況で連中を壊滅させれば、それこそ邪竜扱い待ったなしである。
……布告前にこんだけ相手に情報が漏れている時点で、相手の実状が察せられるレベルだが。
「しかし、俺もあまり時間がないんだぞ?
こうしている間にも、マーキルとの間が拗れる可能性があるんだから!」
「分かっているが、せめて布告されてからでないと……」
……宰相として認められないのも分かる。
これでゼファートが邪竜認定を受ければ、ファーラシア各地でゲリラ的な蜂起の可能性が出てくる。
やらかしたのは妹竜ミフィアであり、兄が謹慎させているとも抗弁出来るが、学の足りない冒険者が納得するだろうか?
ギルド側が抑えに回っても、冒険者達にギルドが怖じ気づいたと思われれば、鎮圧に更なる労力を必要とする。
しかし、
「難しい判断だな。
これ以上、放っておけば旧マーキル王国領の統治を行うリスクが出てくる。
とは言うものの、こちらは国の根底に関わる問題だし……」
まあ、難しくしている原因は俺の立場なのだが。
辺境伯としては前者を優先したい。
だが、守護竜としては後者が重要。
「……王都の混乱を放置して、マーキルとの対応をするのは明らかにおかしいな」
「テイファ?」
「すまんな。
国の話だから口を挟む気はなかったが、ゼファートはこちらの世界の竜と言う設定であろう?
ならば、竜らしい思考をレクチャーしてやろうと思ってな?」
「……なるほど助かる」
状況が状況だけに、怪しまれる要素は少ない方が良い。
「それでな?
普通の竜なら、大抵近場の煩わしさは嫌だが、遠方の友人の危機は放置だ。
私の盟友なら自力で解決出来て当然と考える。
だから、この場合はラーセンでのトラブルを解消した、ついでにマーキルへ行くのが自然だな」
「じゃあ、結局動けんのだな……」
「しょうがないだろう。
まあ、ゼファートは変わり者の竜と言えるから、やっても良いが?」
「いや、逆に方針がはっきりしたよ」
後は出来るだけ早くアルフォードが蜂起するのを祈るしかないが……。
「今の時点で、600弱と言うところらしい。
ラーセンで呼応しようとしている奴も潜伏中の可能性が高いから、正確には分からんがな」
「向こうで予定している人数は?」
これは期待はしてないが念のために訊いた質問。
普通は分からない情報だ。
蜂起軍中枢にでもいないと……。
しかし、
「凡そ二千」
「……何時から集めているんだ?」
あっさり出てきた答えに、所詮は愚王かと思考を切り替える。
そして、その数は王都近郊で蜂起することと内応者が潜伏しているだろう状況から妥当だが?
「こちらで分かった限りでは数日前。
しかし、年末年始の慌ただしい時期に、ロックネ伯爵と接触したのだろうと怪しんでいる」
「なるほど。
……もう諦めた方が良いと思うんだがな?」
招集期間を考えた限り、もうこれ以上の増援は見込めんだろう。
「無理だ。
かなり無茶をして食糧を集めているはずだぞ?
何もしなければ、借金で首が回らなくなる」
「もう破綻してるやないかい!」
杜撰過ぎて話にならない。
誰かが自棄になるまで待ってれば、自然と崩壊しそうな……。
それで、食い詰めた人間が大量発生?
洒落にならん事態だが……。
……あれ?
今、集まっている冒険者って、辺境伯家で雇用されなかった人格ないし能力に疑問が多い連中だよな?
まあ、レオン達の下は嫌だって言うプライドの高いのも若干いたが……。
そういう例外は大事なお神輿を護衛しているはずだから、俺が始末する。
残りは小物ばかりだろ?
冒険者ギルドに任せれば良い。
連中も必死で働かんと凋落間違いなしだから、2度目の暴走はないだろう。
残っているのが浅い層で活動する冒険者ばかりになれば、人件費を捻出するので精一杯。
ましてや、辺境伯家やファーラシア王家が取引を控えれば、ギルドに置ける1回辺りの取引規模はガタ落ちだろうしな!
問題は、連中に金や食糧を貸した商人が回収出来なくて、商会を閉めることだ。
そうなれば、教養のある中流階級が大量に無職化するので、ラーセンを大不況が襲う!
既に焦げ始めている商会もあるんじゃないか?
このままじゃ、辺境伯家にも不況の影響がおよんでしまう。
しかし、フォックステイルを動かして、大買収劇を行えば、フォックステイルが大きくなり、そこから見所のある奴を辺境伯家に出向させれば良い。
しかも、管理サイドの人間が増えるからマーキル問題も解決じゃん!
「……まあ、こうなればしょうがない!
俺は別邸にいるから、事態が動いたら教えてくれ!」
「ちょっと待て!
今度は何を思い付いた?」
早速動こうとした俺をジンバルが止める。
先ほどの焼き回しじゃないか?
「…………。
もうすぐ大不況がラーセンを襲う。
その予防策として、フォックステイルによる破綻商会の買収だが?」
「!
……助かる。
悔しいがな!」
少し考えた後に素直に白状する。
言ったところで同規模で真似出来る奴はいないのだ。
既に商会単体でも強大な資本力があるフォックステイルだから出来る行為だし、普通の貴族や商人は敢えて倒産危機の商会を取り込むメリットがない。
辺境伯家の行動は、王国や所属する貴族としては有り難い。
しかし、人材を得ることで、後々、更に溝を開けられるかもしれない立場では悔しくもあるだろう。
「それじゃあ、失礼するぞ!」
「……ああ」
後は、アルフォードの蜂起より早く、出来るだけ多くの商会に声を掛けるだけだ。
即座に動いた俺は、ジンバルが悪どい顔をしていることに気付かなかった。
……いや、これはジンバル達の行動を後で知った俺の妄想ではあるのだが。
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