第271話 赤いスライム捕縛

 先日壊滅させられたキャンプ跡地にやって来た俺と娘達及びその護衛達の集団は、目前で渦の中に囚われている憐れな原生生物を眺める。

 それはレナの大規模な魔力制御によって周囲の水事引き摺り出された湿原の主足るスライム。


「う~ん?。

 これは~、人造~生物じゃないかな~?」

「……私もその可能性は高いと思う」


 俺では対処出来ない相手をあっさりと引き摺り出してきたレナが首を傾げながら呟く。

 俺の肩に停まっているミフィアもそれを支持するのか。


「人造?」

「うん。

 核に~特別な魔術が施されているよ~」

「……鑑定」


 レナの言葉に疑問を投げると、根拠を指し示してきたので、鑑定を仕掛ける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前 対女王用潜伏拠点スカーレットアーク 

性別 無

種族 ダンジョンスライム

レベル 18

称号 移動する都市

能力

 生命力 9759998/9760000

 魔力  0/0

 腕力  81

 知力  65

 体力  7800000

 志力  66

 脚力  12

スキル

 種族 吸収

アーティフィカルスキル

 隔離空間(ー)

 熱量循環(ー)

 物質循環(ー)



収容人数 3 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……スカーレットアーク?

 赤い方舟と言ったところか」


 にしてもまた出たな、対女王用の改造モンスター。

 つくづく、前世の業が巡ってくるものだ。


「赤い方舟?

 乗り物なの?」

「どちらかと言うと街らしい。

 マジックバッグとかと同じような術式で、体内に居住空間を組み込まれたスライムだな。

 ……しかし中に生存者がいる以上は、そのまま世界の狭間に放逐と言うわけにはいかないな」

「人が……」


 マナに説明しながらどうするかを考えてみる。


「別に~、知らないふりして放逐でも~」

「そんな!

 それは駄目よ!」

「そうだな。

 もしかしたら古代人の生き残りかもしれないから、確保したい。

 ……可能性は低いだろうが」


 3人と言う極端に少ない人数から考えて、最近捕らえられた人間だろうと思う。

 だが、可能性がある以上は確保したい。


「可哀想だからじゃないんだ……」

「マナ。

 この世界で自分の命を守るのは自分の責任だよ?

 もちろん、捕らえられたのが辺境伯軍の生き残りの可能性もある。

 そうなれば俺の命令で死に掛けているとも言えるだろうが、それも自分達の選択の結果だ。

 命の保証のない危険な兵士なんてならずに、他の職に就けば良かった。

 それをしなかったのも彼らだからな」

「けど……」


 まあ、もやっとする気持ちも分かるし、その原因を表現出来ないのも理解が及ぶ。


「マナ。

 彼らは元々農民や流民の出身で、まともな教育を受けていなかった。

 だから狭い選択の幅しか用意されていなかったのも事実なんだ。

 だが、それでも兵士と言う地位を望んだのは彼らだよ」

「……」

「我が家が提示する給金や待遇は他家に比べても、かなり良いものに設定している。

 それが彼らを引き寄せたのも事実だが、それで生活が良くなった者がいるのも現実だ。

 ……それでも納得がいかないなら、マナが当主を継いでから改善していきなさい」


 言外に俺は、今の運営形態を維持すると宣言する。

 これでもステータスを確認して、危険回避を重視した従士隊運用ではあるが、実際に人が死んでいるのでそれを言い訳にはしない。


「それよりも~。

 これは~ど~するの?」


 マナへ次期当主としての課題を投げ掛けていて、スライムを捕らえたままのもう1人の娘に叱られた。


「すまんすまん。

 ……レナ、仮にお前の力で倒そうと思えばどれだけ掛かる?」

「月を~、跨ぐと思うよ~」


 うん。

 鑑定の結果から見てもそれくらいは掛かりそうだと俺も思う。


「どうするかな?

 中に人がいなければ、そのまま世界から放逐するだけなんだが……」


 ミフィアと同化すれば一瞬だが、あの形態の俺の攻撃能力って手加減する手段がないのが難点だよな。


「ねえ?

 これはトルシェに押し付けない?」

「……なるほど」


 スライムなんて動物よりゴーレムに近そうなヤツだし。

 改造されて、更に器物っぽいよな?

 ……上手くいきそうだ。


「トルシェ?」

「ああ。

 ちょっとした知り合いでな。

 マナ、すまんがキャンプにいるネミアと言うメイドを呼んできてくれ」

「?

 ひとまず行ってくるけど……」


 幾ら主を捕縛済みとは言え、魔物の領域に否戦闘員を連れてくる指示。

 困惑しながらも受けてくれるのは親としての信頼ゆえかなと思うが、言葉で説明は難しいので、見てもらった方が良いだろうと思う。


「パパ~、ネミアってパパが連れてきたゴーレムだよね?」

「……ゴーレムなのか?」

「違うの~?

 血が流れていないから~、精巧な~ゴーレムだと思ったけど?」

「……まあ少し待っててくれ。

 一緒に説明するから」


 ……初耳である。

 さすが水竜の系譜に属するだけのことはあるなと感心しながら、上手い表現が思い付かない俺は、トルシェに説明させる方針に定めたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る