第246話 マウントホークの方針、……のはずだった

 サザーラント帝国を更に混乱させる方針で動くことになり、会議が終了したと同時に俺はさっさと城を去り、マウントホーク王都別邸に戻る。

 レンターに絡まれるのが面倒だったと言うのもあるが、ゼファート領と辺境伯領の意志決定を図る必要性があったのも事実。


 気分的に我が家と言う印象を受けない邸宅に、屋敷の主人である俺と、管理人の上司に当たるシュールに客人としてキリオン。

 管理を受け持つリッドにしてはかなり胃の痛いメンツが揃ったことだろう。

 ……そういう俺も気が重いんだが。


「閣下は行く先々で人との絆を結ぶ縁をお持ちなようで、臣として誉れでございます」


 ほれ、早速シュールが嫌みを言ってきた。

 絆を結ぶってのは『雨降って地固まる』が転じて、『騒動を巻き起こす』と言う文句。

 『家臣としての誉れとなる』と言うことは、後始末を自分がする羽目になったと言う苦言だな。

 ここは、


「うむ。異世界への招致を受ける身であればやむを得まい。

 強者が貴族になるを超える珍事だ」


 と返す。

 異世界召喚なんて、貴族に叙勲されるよりも可能性が低い事件に巻き込まれた奴には今更だ、と運が悪いせいにする。

 実際、俺が原因で発生したトラブルなんて、『ミルト台地消失』と『ハンマーズ・フェスティバル』くらいのものだ。

 『ファーラシア争乱』は、ロランドが暴走しただけ。……俺が少し煽ったけど。

 『南部との紛争』は、俺に既得権益を奪われた連中の反撃だろ?

 『サザーラントの介入と戦線拡大』は、俺に恥を掻かされた元儀典長の暗躍。

 今起きている『サザーラントの内乱』だって、俺相手に無謀な突撃をした帝妹が原因であり、彼女を指揮官に据えたミルガーナ皇帝の責任だ。


 …………。


 1つも俺が原因ではない気がする。

 ……と言うことにしたい。

 仮に勇者だけが召喚されていれば、ロランドはダンジョンで消息不明。

 レンターは同格の国の公女か、自国有力貴族の令嬢を妻に迎えて、後世に凡王と評価されるかもしれないが、個人としては幸せな人生を歩めた可能性が高い。

 ……現状だとマジで、生涯独身の英雄王とかもあり得るんだよな。


「それよりも!

 これからの方針についてだ!」


 分の悪い会話をさっさと軌道修正することにした。

 巷では、『英雄王レンター』と『救国の英雄マウントホーク辺境伯』、『ファーラシアの守護竜ゼファート』である。

 "祭り上げられた"だの、"暗躍した"だのと言う枕詞は必要ないのだ。


「まあ良いですが……」


 不満そうにしながらも理解を示すシュール。

 初めて会った時から半年だが、性格変わりすぎだろこいつ。


「少なくともゼファート領に主だった動きが発生するのは2ヶ月後に迫った年末年始の挨拶くらいでしょうか?」


 苦笑しているキリオンだったが、その言葉に絶句する。

 年末年始!

 バカな! 全然寒くなかったぞ!


「そういえばもうそんな時期ですね。

 マウントホーク領では今年は秋の収税がなかったのですっかり忘れていました」

「今回は守護竜領の領宰としての初仕事ですので、どういう行事をやるべきかで、巫爵達と調整中ですが、ゼファート様の挨拶は必須ですね」


 世間話を進めるシュールとキリオンだったが、俺はそれどころじゃない。

 何せ、今が地球での10月相当と知らなかったのだから!


「ちょっと待て!

 今は何月だ? つうか1年は何ヵ月で、1月は何日で構成されている?」

「「え?」」


 俺の質問に2人の家臣が石化する。

 ……これまでダンジョン探索に、戦争、領域の解放と言う暦を気にする余裕のない生活に明け暮れていたので、それを気にしてもいなかった。


「「……」」


 そもそもこの世界で普段から日付を重視している奴がいるのだろうか?


「よくよく思い返してみても、それらを気にしている奴に心当りがないのだが?」

「「……」」


 石化が解けて互いの顔を見合わせた元公爵令息と元王子は、


「確かに普段気にも止めませんね」

「はい。

 私も農民への徴税が始まると、年末の準備をしようと思い始めるくらいです……。

 そのための儀典長でしたし……」


 我が身に翻って、普段から暦を気にする奴はそうはいないと思い出したようだ。

 しかし俺にはそれを注視する余裕がなかったと理解して優しい顔を向けてくるのに腹が立つ!


「まず1年は13ヶ月。

 1月は30日で構成されています。

 後、1月は5週に別れますので……」

「1年は390日、1週は6日か。

 今日は?」


 シュールの回答に年間の日数を数え、日付を確認する。


「11月の半ばですね……」

「確か商人ギルドの月税納付がドラグネア出立日で、あれから6日ですので……。

 15、16、17、18、19、20。

 今日は20日です」

「いや、そんな考えないと出てこないものなのか?

 カレンダーは?」


 日付を答えられないキリオンと商人達からの納税日を元に計算して日付を求めるシュール。

 彼らが元々各国の上層部にいたことを考えると、この世界に置ける日付の扱いが見えてくるな。


「カレンダー?」

「それは一体?」

「日付が分かるようにまとめられた掲示板? みたいなものか?」


 2人とも聞き慣れなかったようだ。

 まさかカレンダーを知らないとは思わなかった。

 改めて何かを説明するのが難しい。


「刻旋盤でしょうか?

 儀典宮に修められておりまして、2つの円盤にそれぞれ月と日が刻印されております。

 中央のつまみを回すと表示が1つずれる円盤ですが?」

「多分、同じようなものだと思う……。

 それはないのか?」

「1日分ずらして正確な日付を知っておくのも儀典長の仕事ですが、我々の元にはありませんね」


 ……カレンダー自体が王宮の管理物だけだった。

 ……現代日本じゃ考えられんが、中世レベルでは普通なのか?


「……そうか」


 釈然としないがそういうものと受け入れよう。

 それよりも問題は……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る