第221話 正義感? お呼びでない!

 守護竜による任命式を経て、例の領地が俺の手を離れたと肩の荷が降りた俺は、マウントホーク辺境伯として、気楽な気持ちで守護竜領の発足パーティーに顔を出した。

 真竜であるゼファートは人間の夜会に興味がないと言う建前を前面に押し出しての拒否である。

 これにより、ゼファートとのコネ造りが6巫爵及びキリオンとジャックに集中し、将来的な人材確保に繋がる計算だ。

 なにせゼファートは真竜であり、厳密にはファーラシアの庇護下にない存在だ。

 本来なら他家に就職出来ないような上位貴族の嫡流筋を受け入れる受け皿になるのだが……。


「ふざけるな!」


 夜会の会場に怒声が響く。

 そちらに目を向ければ、キリオンに強く迫る男が1人。

 どうやら揉め事になったらしい。

 マウントホーク辺境伯としての参加ではあるが、これを放置して、キリオンを初めとする内政官僚に恨まれるのも面倒だし……。


「ユーリカ」

「こっちは良いから行ってきなさいな」

「……すまんな」


 共に登城した嫁に一言断ってから、そちらに向かうことにする。

 ユーリス・マウントホークは、ゼファートの親友なのだから、関わる権利もあるので問題ないだろう。

 と思っていたのだが、


「少し落ち着いたらどうだね?」

「誰だ!」

「私は辺境伯のユーリス・マウントホークと言う者だが?」


 ……まさかこっちの顔を知らない貴族がいるとは思わなかった。


「マウントホーク?

 はん! 例の守護竜とやらの威を使って成り上がったモドキか!」

「「「「……」」」」


 ……本当に分からなかったらしい。

 従者と思われる男に耳打ちされてやっと理解したと思えば、特大ブーメランな一言をのたまう。

 これには周囲の貴族も一斉に顔を青ざめる。

 高位貴族ならばユーリス・マウントホークと守護竜ゼファートが同一人物であることを知っているのだから当然だし、そもそも、


「私が守護竜の威を借りている。

 ……確かにそう見える現状でしょうね?

 しかしそれはあなた方も一緒でしょうに……」

「何を!」

「マ、マウントホーク卿!

 愚息が失礼を致しました!

 当家が出来る限りの謝罪を致しますので、何卒それ以上は!」


 俺に遅れて騒ぎを聞き届けたと思われる父親が慌てて、止めに入ってくる。

 その人物は、


「ジンバル宰相?」


 まさかの味方側の人物だった。

 青年の発言から俺とは敵対的な家柄を連想したんだが……。


「親父……」


 俺と同じようにショックを受けている青年が呟く。

 いや、コイツのショックは俺以上だろう。

 何せ、国内の貴族の中で最上位たる宰相の父親が、必死に謝罪しているのだから……。

 しかし、


「貴様に父呼ばわりされる謂れはもはやない!

 二度とジンバル侯爵家の敷居を踏むな!」


 "侯爵家の権威にすがろうとする"姿は、"王家の威を借りて"政治を回す父親の怒りに油を注ぐ行為だった。

 このような公の場で勘当され、その原因が貴族にとって致命傷になり得る自分の発言から。

 ……アイツ、死んだな。


「ジンバル卿。

 彼は勘当されていたのにそれを理解せずに夜会に参加していたで良いのでは?

 ……子爵位でも持っていたのかな?」


 それよりもどら息子のせいで、ジンバルに倒れられては困るので、助け船を出す。


「……おお!

 そうですな!

 我が家から独立していたのにも関わらず、我が家にすがる愚かしさと言ったら!

 今度は完全に絶縁し、爵位は取り上げましょう」


 こちらの意図を察したジンバルは、息子が子爵だったと言うことにして、その爵位任命権を差し出す。

 俺はそれを受け取って、ジンバル侯爵家の過失を見逃す。

 元々、宰相には複数の子爵や男爵の任命権が委ねられている。

 政治を円滑に回すための措置だが、それを失点回避に利用すると言うゴリゴリの汚職事件だ。

 しかし、周囲の貴族も彼の発言の不味さが分かるので、何も言わない。


 この件を追及すれば、侯爵家が立ちゆかなくなり、国の執政が滞る。

 ましてや貴族の権威が祖先の功績と血筋に依るものであると明言されるのは都合が悪いし、俺は俺で功績に見合う地位を! と動くアホが出れば、国から独立するなんて言う超面倒事に巻き込まれかねない。

 爵位の1つで手を打つくらいが妥当だろう。

 これで皆が幸せになれる。

 ……自業自得のアホを除いて。


「そういえば、あのアホは何だって?」

「ファーラシア宰相の息子である自分を次官とすれば、王宮とのコネになるから登用しろと言ってきましたので、断っただけです」

「……」


 それも親の威を借りている行為だ。

 それで何故、俺を糾弾出来るのか。つくづく不思議であり、妙に疲れる話だった。

 話を振られたキリオンも疲れた表情で首を振る。

 ダブルスタンダードなんて、誰も誉めないんだがな……。

 

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