第201話 真竜、ミルト台地に立つ
5日後に再調整の会議を行い、更に3日ほどで最終調整。
それをサザーラントの皇帝ミルガーナが承諾して、調印と言うのが終戦交渉の流れとなるらしいが、それまで約半月の期間が発生し、それまで待機することになる。
その間は暇をもて余すはずだったが、連日、皇女ベリアのお茶会攻勢を受ける羽目になりそうなので、新領地となるミルト台地に足を運んだ。
向こうとしては、ゼファートと親しい関係であると言う看板がほしいのだろう。
そして、事務方による交渉中で手が空いていると言う口実と互いの理解を深めると言う名目があれば、断るのも難しい。
けれどそれは帝国側の一方的な利用であり、お茶会を受ければ、ゼファートは温いと言う対外イメージへと繋がりかねない。
それで考えたのが、物理的な距離を置くこと。
つまりは終戦交渉の場から離れることが有効と考え、イグダードに戻るジェシカに同行してミルト台地へ視察に来た。
ちなみに次いで狙われそうなキリオンもゼイム領の引き継ぎと言う名目で、ゼイムへ帰還しているはずだ。
「ミルト台地はその名の通り周囲から1身…ゼファート様が言う単位で2メートルほど高い平地となっている一帯を差します」
ジェシカが言うように目前は緩やかな斜面となっており、個々の人間が登れない程ではない、輜重隊を含めて物資の移送に労力が掛かる軍の行軍には不便な地形が広がる。
「帝国軍の連中はこんな所に陣を敷いて攻めてきたのか?」
「そうですね。
糧食も少なく、陣地の維持に高いコストを掛けたようです」
「守りは楽なんだろうがな…」
道すがらミルト台地は古戦場でもあったと言う話を聞きながらの旅程であったが、実際に目の前の地を見るとどれだけ無謀な采配かは一目瞭然としていた。
「そうですね。
ちなみに我々が立っている辺りが『栄光の道街道』と言う名の街道です…」
「街道?」
周囲は多少土が踏みしめられているような気もするが、街道と言うよりは獣道と言う雰囲気だった。
「ここは最初に大陸内部へ進出するのに造られた街道ですが、ゼイム領とイグダード領の領境を縫うような設営街道のため、野党などの被害に合いやすい道でして…」
「新しく出来た『自由の道街道』に文字通り道を譲った訳だ」
「はい。
しかし、ここに『守護竜領首都』を置くのであれば…」
「街道が活気付くだろうし、サザーラント帝国の利益になるんだろうな…」
ミルト台地内とこの街道の北方面に街はないが、ミルト台地とルターの間には昔宿場街となっていた村落が点在するらしいので、事前にその地を転封などで確保しておけば、膨大な利益が上がる。
「サザーラント首都とグリンダ平野との往復に1週間以上の時間を取ったのは…」
「…そちらの調整のためだろうな」
交渉は長引けば長引くほど敗戦側が不利になるものだ。
それを押しても長引かせる利益があると言うことだろう。
「しかし土地の場所は良いな。
石材はレッドサンド、木材はイグダードに差配を任せる。
建築の方もそっちで仕上げて良い」
「ありがとうございます」
キリオンを内政のトップに据えるが、都市の材料や建築を委ねることで、レッドサンドやイグダードの貢献度を上げれば、不公平な采配は難しい。
それにただでさえドラグネアの建設で大陸東部の建材が不足しているのにこの街にまで東部の資材を回すのは問題がある。
「ついでにレッドサンドから人材を出してもらって、地質調査をすべきだな。
構造的にここが台地になっている理由がない」
「理由ですか?」
「ああ。
西以外の三方が平地で西はイグダードの森だろう?
流れの速い川が近くにあるでもないのに、こんな所が台地になっているのが分からない。
地震による隆起でもないだろうしな…」
「…そうですね。
そう言えば何故ここが盛り上がっているのでしょう?」
…エルフでも知らないとなるといよいよ調査の必要性があるな。
ダンジョンでもあれば儲けものだが…。
「俺の方でも、ぐるっと一周回ってみようかな。
…どうせ暇だし」
「案内役を付けましょうか?」
「いやいい。
それよりも建材用意を頼む」
「たまりました」
向こうを待たすくらいの時間を掛ければ良いのだから、のんびりと見て回ることとする。
どうせ調印式をしたらドラグネアで書類漬けの毎日だ。
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