第199話 顔見せ
婚姻交渉中に同盟国へ攻撃してくる非常識な行動を行ったとんでも国家と言う印象だっただけにあっさりと停戦の使者を送ってきたことに拍子抜けした。
前情報が、無敗の帝国とかこの大陸で最も古いと言うのもプライド優先の国だろうと思わせる理由となっていた。
敗けを認めずに、皇帝率いる大軍との決戦を想定していたのだが、ゲームのようにはならないらしい。
そう言えば、ゲームとかだと最初にやって来た精鋭兵より最終決戦の雑兵が強かったりするな。
常識で考えれば最初に送った兵が1番強いはずだけどな…。
もちろん他と戦っていれば、2軍がやって来る可能性もゼロじゃないが、少なくとも首都防衛に回っている補欠よりは強いはずだ。
段々敵が強くなっていくのはゲームの仕様か。
現実でやったら無能な為政者の烙印を捺されそうだし…。
「ラロル帝国がそれをやりましたよ?」
「……マジでか?」
「有名な話ですね。
山間にある小国群侵略に新設軍を出したものの壊滅して戦費が嵩んで、その前から戦線を開いていたフォロンズと終戦協定を結んだとか…」
終戦を依頼する使者が来たので、すんなり終戦しそうだと言う話題からラロルの失敗談を聞くことになった。
元々は、
「しかし、本国が焦土になりそうな情勢でも戦うと言うのはすごい話ですね」
「そうだな。
当時の日本は幾つもの巨人殺し(ジャイアントキリング)を成功させて、勝利に酔っていたとしか思えん」
太平洋戦争末期の日本の話題からである。
やはりこの世界では主力壊滅後は、降伏宣言するのが普通らしい。
…地球のような一発逆転兵器なんてないだろうからな。
むしろ、
「降伏ではなく終戦交渉である点は往生際の悪さを感じますね」
「ええ、サザーラント帝国はこの交渉が決裂すれば崩壊の可能性すらあります。
その状況で交渉しようとしているのですから傲慢と言うレッテルを貼られるのも必然でしょう」
「失礼します。
サザーラント帝国の使者をお連れしました!」
「通せ」
キリオンとジェシカは俺に妥協するなと釘を指しているのだろうと思いつつ聞いていると、エルフの兵士が使者の準備が整ったと告げる。
キリオンの言葉で天幕に入ってきたのは、中年のおっさんんで続いてドレスを着た少女が入ってくるのだった…。
「……そう来ましたか。
ジェシカ様、ご起立を」
顔を見たキリオンが苦虫を噛み潰したような顔で立ち上がり、ジェシカを促す。
「失礼いたします。
私は事務官のオロンズ。今回はベリア・サウセル皇女殿下の補佐としてやって参りました」
「…ベリア・サウセルと申します。
本日は私共のためにお時間を頂き、恐悦至極に御座います」
キリオンの行動をいぶかしんでいる間に2名が自己紹介をしてくる。
確かに皇女相手に最上級とは言え、貴族扱いであるキリオンとジェシカが座ったままと言うのは不味いか。
「さて、立ったままでは話し合いにもならないし…」
「ちょっとお待ちください!
…ゼファート様。2名に着席を許可すると言ってください」
慌てた様子でキリオンが止めてくる。
そのまま耳打ちしてくるが、何だ? それは?
「着席を許す」
そう言った時に、一瞬オロンズの顔が歪む。
「…危うく一国の皇女殿下を床に座らせる所でした」
「…罠か?」
耳打ちしてくるキリオンに小さく返すと頷く気配がする。
「敗戦国の私共が同じ目線で話してもよろしいので?」
「姫様!」
少女が不安げに尋ねてくるのを隣のおっさんが止める。
俺と同様に向こうの姫君も状況が分かっておらず、ただ指示に従ったと言うことか?
しかし、
「ベリア殿下、オロンズ殿もですが、今は終戦交渉の場です。
互いに尊重し合ってこそ、話し合うことが出来るのではないかとゼファート様の名代として、ご注進いたします」
「…そうでしたか。
申し訳ございません。
姫様も私もこのような形での終戦交渉は初めてでして…」
朧気ながら見えてきたな。
現状は戦う余裕のないサザーラント帝国とかなり余裕のあるゼファート軍との交渉で、実際はサザーラント帝国の無条件降伏に近い。
条件だけを見れば、サザーラント側が同じ目線で対話するのは、敗残国としては高慢と言える。
皇女が地面に座るのも正しいと言えば正しいのだが。
しかし、建前は終戦交渉であり、戦勝国も敗戦国もないと言うことになっている。
その状況で、うっかり皇女を地面に座らせれば、サザーラント帝国を侮辱したことになり、次以降の交渉が不利になる可能性すらある。
だが、
「我らもサザーラント帝国とこのような交渉をするとは思わなかった。
ガノッサ令嬢と我が盟友の主が婚姻準備だったとも聞くし、その選定には奴も関わっていたはずだしな」
そっちが仕掛けてきたのだ。
殴って良いのは殴られる覚悟のある奴だけだぞ?
「少々お待ちください!
我が国は旧盟友国であるギュリット王国の再興のためにゼイム王国の牽制を担ったにすぎません!
ファーラシア王国と戦おうとは…」
「ファーラシア王国に帰属しているギュリットの独立を支援している時点で我が国への敵対行為ではないか?」
「あくまで支援のための行動であり、こちらから持ち掛けたわけではないと言うことをご認識ください」
…あ。
失敗した。
終戦交渉を依頼すること自体がブラフかよ!
「…主犯ではないことが賠償の軽減になるとは思うなよ?」
「心得ています。
…こちらが我が主よりお預かりした嘆願書ですので」
「…確認いたします。
使者の方々は天幕を用意いたしますので、ごゆるりとお過ごしください。
再交渉は5日後でよろしいでしょうか?」
「……こちらは構いません」
不味いと思ったキリオンが交渉内容を確認するとして会を打ち切る。
元々、今日は顔合わせにすぎんし、実際の調整はキリオンとオロンズで行い、5日後にある再交渉は俺とベリア姫での最終確認と言う計画だろう。
…お小言言われるかね?
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